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序章
6侯爵家へ
そして話は冒頭に戻る。
「この度の婚約は決して認められるものではない」
「はい分かっております。お許しいただけるなら…」
「言ってみなさい」
本来なら俺が発言するなんて許されないが、侯爵様は許してくださった。
「この婚約は侯爵様からお断りいただきたいのです」
「だが断っても、あの馬鹿王子は聞かないだろう」
「存じております王家は侯爵家の後ろ盾を欲しいはずです。特にご息女を手放すのは惜しいと仰せでした」
「何?」
侯爵様の目が氷のように冷たくなる。
「私に白い結婚前提の婚約を続行し、聖女様の後ろ盾になることを命じられました」
「なんですって!」
傍にいる侍女や執事達が声をあげる。
「恐らく聖女様の後ろ盾に侯爵家を利用されるでしょう。不慣れな聖女様を守護するには優秀な側妃を欲するでしょう。聖女様の代わりに正妃の公務をする…」
パリン!
あれ?
何かが割れる音が聞こえ…
「ひっ!」
侯爵様が鬼の形相になっている。
手に持っていたグラスが木っ端微塵になっている。
「こっ…侯爵様」
「あのクソ王子が!どこまでも侮辱すれば気が済むんだ。殺してやる」
「侯爵様、手が……」
手から血が流れてるのにも気づかない。
俺は急いで止血をした。
「すまないな。君も被害者だと言うのに」
「いいえ、蝶よ花よと大事にされたご息女が悪しざまにされては当然のことです」
高位貴族の中では珍しいけれど、好感を抱く。
氷の侯爵様と呼ばれているけど、家族に対する愛は強いようだ。
「君はどうするのだ」
「私は最悪の場合、貴族席から抜けるつもりです」
「何?」
貴族席を抜けたとしても家族の縁が切れるわけじゃない。
「私はこれまで、家族の為に身を粉にして働いてきました。ですがあの方は約束を守るような方ではありません。領地に戻ることも許してもらえないならば…」
俺の覚悟は決まっている。
たとえ貴族でなくなろうとも絆は変わらない。
「いいのか」
「これ以上母を悲しませたくないのです」
俺が側近の下っ端でいることを母がどれだけ嘆いているか。
社交界でもうだつが上がらない側近だと言われる俺を不憫に思っている。
俺自身は上手く立ち回っていたし、噂に傷つくことはない。
「このまま王宮に居続ける意味を見出せません」
こんなことを思うなんて不敬罪になるだろうが、あんな性悪の王子に仕えたくない。
「私は人を大事にできない方を敬えません」
人の上に立つ資格があの男にはない。
多くの者に支えられているのを当たり前として感謝もない。
「私はあの方を認めません」
君主として相応しい要素は何一つない。
「君は…」
「申し訳ありません」
大それたことを言ってしまった。
侯爵様の前で堂々と言うなんて生意気だと思われただろうか。
「君は私が思う以上に強者だな」
「はい?」
不快感を持たれたかと思いきや、侯爵様の表情は柔らかくなった。
「正直、私は大事な娘を王族に嫁がせたくはなかった…身分は低くとも実のある男を婿に迎えたかった」
リシュベール家はレティシア様しか子供がいない。
妾を囲っていらっしゃらない以上は婿を取りたいが、王太子の婚約者に選ばれてしまった以上は難しい。
「娘が倒れるのはこれが初めてではない」
「えっ…」
「ジルベール様のサポートに無理な公務を強いられ何度も過労で倒れたこともある。それを自己管理もできぬと責められてからは薬に頼り出して…」
「そんなことをすれば体を壊して当たり前です」
薬に頼った生活をすれば将来病を患う。
最悪命の危険もある。
「何度も止めたが、公務を完璧にこなす為だと聞かなくてな…薬師を雇いできるだけ体に負担のない薬を用意させた。夜は眠れず薬に頼ることも」
本当は止めたいのだろう。
だけど、王太子妃として完璧に執着し、薬に頼らざるを得ない状況だったのだろう。
素人ではなく専門家が薬を厳選する方がマシだろう。
侯爵家ならば腕の良い治療師もいるだろう。
回復薬も存在するけど。
傷の治療には使えるが病にはそこまで効果はない。
精神を安定させる特効薬は存在しない。
「精神的なショックで娘は寝込んで、食事もほとんど口にしていないんだ」
「お医者様も食事がとれない状況ではお薬も危険だと」
なんてことだ。
このままでは本当に死んでしまう。
「侯爵様、お願いがございます」
今俺にできることは一つだけだ。
理不尽な理由で翻弄され、弄ばれた優しいお姫様を救わなくてはならない。
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