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12願わくば
しおりを挟む昔を思い出しながら物思いにふける。
エルセバート様があの時複雑そうな表情をしていたのを覚えている。
「アリア?」
「ハッ…」
「大丈夫ですか?ボーっとしてどうしましたの」
私とした事が、自分の世界に入ってしまった。
「申し訳ありません」
「少し顔色が悪いようですわね。ちゃんと食べてますか」
「はい」
ちゃんと食べている。
ただし毎日パンとスープだけだけど。
食事をする時間が忙しくてあまりない。
同じテーブルで食事をできる事もあまりないけど。
嫁として一人前になるまではテーブルに座る許可も出ていない。
「アリア、本当の事を言ってくださる」
「え?」
「私は貴女の待遇がここまで酷いなんて知らなかったわ」
知らなくて当然だ。
他所の家庭の事を態々話す事はない。
「確かに貴族の中には他家から嫁いできた女性は嫁として一人前になるまでに使用人の仕事をさせることもあります。お姑の指導を受けることも…だからと言って」
心配そうな表情をする侯爵夫人に申し訳なくなる。
でも、私だけではなく他の家でも同じなのだから文句を言うわけにはいかない。
「私は大丈夫ですわ」
「アリア…」
「義母も厳しくするのは私の為ですから」
偽りのない気持ちだった。
私が一人前になればきっとお義母様もメリッサ様とも。
だけどやっぱり心配な事がある。
「何か憂い事があるのね」
「はい…」
「メリッサ様の噂は既に王都でも広まっているわ」
私の考え過ぎなのだろうか。
婚約者がいなながらも他の男性と恋をして、しかも相手は侯爵家のご子息。
「貴女の判断は間違ってないわ…本当に、とんでもない事を」
「どうなりますか」
「人の道を踏み外していい道理はないわ。まぁ…なるようにしかならないでしょうけど」
それはどういう意味なのだろう?
婚約者でありお従兄は円満な婚約解消に応じると言う事かしら?
それとも愛の為にロマンス小説で言う、愛の為にすべてを捨てて生きていくと?
「どういうつもりなのかしらね…」
「侯爵夫人」
「まぁ、どの道メリッサ様はこの家を出て行く身だわ。もう子供じゃないのだから」
「はい」
お義母様の言い方だとメリッサ様は侯爵家の次男様と結婚する事が決まっている。
私にできる事はないだろうと思っていた。
だけど――
「侯爵家の籍を除籍ですって!」
「お母様、落ち着いて」
「こんなのあんまりじゃない!」
私の不安は的中し最悪な方向に進んでしまった。
侯爵家は慰謝料を請求し、結婚も認めないと言い出したのだ。
当初駆け落ちをすると言っていたメリッサ様だけど本当に駆け落ちをすることとなるのだった。
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