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91あの日の約束~侯爵夫人side
しおりを挟むようやくこの時が来たわ。
ずっと願っていた夢がようやく叶った。
私にとってアリアもエレンディスも我が子のように思っていた。
二人は共に他者に対する慈しみの念が強い。
貴族令嬢でありながら領主としての志が高く救済心が強いアリア。
騎士として民を守るべく使命感が強いエレンディス。
二人が夫婦となり腐敗しきった貴族社会を内側からも外側から変えてくれたらどんなに素晴らしいだろうと。
百姓貴族を見下し、何も生み出さない馬鹿な貴族達を黙らせるに。
「この婚姻は理想的だわ」
「侯爵夫人?」
「アリア、やっぱり女性は愛されて結婚するのが一番よ」
政略結婚で愛が芽生えるのも素敵だけど。
愛し愛される結婚が一番だわ。
それに二人の間には揺るがない信頼がある。
「アリア、貴女がこれまで行って来た功績があるわ」
「え?」
「忘れていないかしら?エタノール病に聞く妙薬を考えたのは貴女でしょう?」
「あっ…」
本当に自覚がないわね。
コブクロ草を調合して新薬にできるのはアリアだけ。
「現在貴女の真似事をして粗悪品の毒物を作ったお馬鹿さんがいるのよ」
「粗悪品?毒…」
「本人はそのつもりはないようだけど、コブクロ草は扱いが難しい」
執事に調べさせたけど、馬鹿達がやらかしてとんでもないことになっているようだわ。
「エタノール病は他国でも流行っている恐ろしい病よ」
「それは…」
「しかも間違った考えで手術して体を切るか、強すぎる薬を使い過ぎて悪化する事もしばしば」
例えアリアのレシピがあっても、無理だわ。
アリア程の調合は不可能に近しいのに、何も知らずに愚かな行動をしたカスティージョ家は勝手に踊って自滅している。
「今、町でも粗悪品の薬が毒となり、被害を受けている人がいる」
「そんな…」
「かなり難しい状況よ。でも貴女なら救えるはず」
世間ではアリアは傷物だわ。
社交界でも憐れみまれ蔑まれている。
だからこそエレンディスとの縁談は進めやすい。
でもこのままでは社交界で生きていくには障害がある。
だからこそ私はアリアを最高の形で婚姻させてあげたい。
「利用する形になるけど、この危機を救ってちょうだい」
「侯爵夫人…」
「貴女はやってくれるでしょうが、今後社交界で再び返り咲くには必要なの」
どんなに酷い事を言っているか自覚はあるわ。
「貴女に腐った社交界を壊して欲しい…あの思いは変わらないわ」
私があの日、幼いアリアに誓った約束はまだ変わらないのだから。
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