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165ジョイルの負傷
しおりを挟むそれから三か月後、息子は動き回れるようになって邸では天手古舞だ。
「あああ!」
「お待ちください坊ちゃま!」
ゴロゴロと転がって行く我が息子エルガ。
「おお、良く動くな」
「バルト!何を呑気にしているんだ」
「今は姫君と勉強中だ。さてエンジュ嬢、今から君の叔父上をよく観察するんだ」
バルト様は今回の一件で高く評価をされたとかで義父に大公家の専属家庭教師を任されたのだ。
王家でもバルト様の先読みの才能に感服したとか。
私に暴言を吐いた役人はカモにすぎず、大物を引きずり出し、尚且つその背後にいる貴族を芋蔓形式に吊るし上げにするのが目的だったとか。
後から思うと恐ろしいな。
「お二人共、お茶にしませんか」
「お茶は蜂蜜たっぷりのカモミールとお菓子はレモンパイを所望する」
「ピッタリですね」
「承知しました」
元から今日のお茶はカモミールを予定していたし。
お茶請けはレモンパイなので問題ない。
「マヤ。マヤはいるかしら」
「奥様、マヤの姿がどこにもありませんわ」
「どうしたのかしら?」
現在ハイアット家の厨房係の責任者となっている彼女は厨房を離れる事はあまりなのだけど。
「ジョイルもいないのです」
「どうしたのかしら」
この時間にジョイルもいないなんておかしいと思った矢先。
「きゃあああ!」
マヤの悲鳴が聞こえる。
「今の声…」
「見て参ります」
「私も行くわ。ジョナ、エルガを」
私も嫌な予感がした。
まだ幼いけどしっかりしており悲鳴なんてめったに上げない彼女が悲鳴を上げるなんて。
「お祖父様!しっかりしてください!」
「ジョイル様!」
頭から血を流しながらぐったりするジョイルに私は絶句した。
「直ぐに部屋に!」
「はっ…はい」
「マヤ、今はジョイルの手当てを」
「お祖父様…お祖父様ぁ!」
泣きじゃくるマヤを抱きしめながら私はジョイルの応急処置を命じた。
「何の騒ぎだ…ジョイル」
「ジョー!」
バルト様に抱かれたその場に現れたエンジュはこの光景に驚き泣き出してしまった。
無理のないわ。
この邸ではジョイルがエンジュのお世話をしてくれていたから。
「奥様…祖父は」
「出血は多いけどそこまで外傷は酷くないから大丈夫よ。でも頭に傷を受けているから念の為に医師を呼んで検査しましょう」
「はい…ありがとうございます」
何時も堂々として物おじしないマヤだけどまだ13歳の少女だもの。
無理もないわ。
ジョイルは育ての親でもあるし動揺しないはずがない。
「奥様…」
「ジョナ、医師は?」
「呼んでまいりましたが…ジョイル様を襲った者が解りました」
ようやく落ち着けると思ったのに――。
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