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第一章
13.ハンカチ
しおりを挟む楽しい時間はあっという間に終わり、帰りは馬車で送ってもらった。
「本当に申し訳ありません」
「ありがとうございました。侯爵様」
ヴァルトラーナにお礼を言う二人に御者も笑顔だった。
「いずれ改めてお礼を…」
「できましたら、このハンカチをいただいてもよろしいでしょうか?」
「え?」
お礼を願い出るフレデリカに対して、ヴァルトラーナは昨夜拾ったハンカチが欲しいと言う。
「失礼でなければですが…」
「しかし、私が刺繍したものでして…侯爵様に差し上げられるような」
困った表情をしながら自分が刺繍したことを伝えると、ヴァルトラーナは驚いていた。
「貴女が刺繍されたのですか?」
「えっ…ええ」
驚いた表情をするヴァルトラーナに、セシルはさらに言葉を重ねる。
「我がブロッサム商会の服飾品は姉がデザインから制作まで携わっております。特に姉の刺繍の腕前は王宮の針子に負けません」
「セシル!」
大げさに言うセシルを止めようとするも、ヴァルトラーナは興味を示す。
「スーツなら是非我が、ブロッサム商会に!オーダーメイド、仕立て直し、染み抜きなんでもお任せください」
「直しもできるのか」
「勿論です」
ドヤ顔で言うセシルに頭が痛くなる。
「セシル、無礼でしょう」
「ですが姉さん、お礼がハンカチ一枚の方が無礼ですよ」
もっともな意見だった。
散々お世話になりながら自分で作ったハンカチ一枚で済ませるきはないかった。
「気にしないでください、勝手にした事です」
あくまで自分が勝手にしたと言うヴァルトラーナに居た堪れなくなる。
(これがローガスだったら恩を着せてくるわね)
比べるなんて無礼だと思いながらも同じ男性でもここまで違うのかと思ってしまう。
子爵令嬢でしかないフレデリカに対して誠実だった。
(きっと、身分も関係ないのでしょうね)
もし貴族でなくとも、不当な扱いを受けていれば手を差し伸べてくれたかもしれない。
あの夜に見た時の、ヴァルトラーナの微笑みを見て思った。
人は仮面を被り、平気で嘘をつく。
騙し覚まされる世界が社交界であることも熟知しているけれど、偽りだけで人は生きられない。
(ヴァルトラーナ様は優しくも繊細な方なのかもしれない)
商会を引っ張り、多くの人を見て来たからこそ解る。
フレデリカは人を見る目を持っていたが故に悪意を持った人間とそうではない人間の区別ができた。
「ありがとうございますヴァルトラーナ様、どうかお持ちくださいませ」
「フレデリカ嬢…」
「私の作った商品を心から喜んでくださる方に持っていただけることが製作者の何よりも喜びでございます」
フレデリカ自身としても、嬉しかった。
「大切にいたします。フレデリカ嬢」
嬉しそうに微笑む表情は優しくも美しく、心が和むような気持だった。
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