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第一章
閑話3.老執事と乳母
しおりを挟む思い立ったら吉日と言わんばかりに、行動した。
名前も解らず、手掛かりはハンカチしかないので探すのは困難だった。
「どうしたものか」
普段から部屋の掃除をしている侍女に聞くと、そのハンカチは金糸で刺繍を施されていた聞く。
王宮のお針子として長らく働いていた侍女が偶然のそのハンカチを見かけたと聞く。
「あの刺繍は見事でした。布は東北のパール生地を使われておりましたわ。刺繍の技術も、かなりの腕前で…何より持ち主は平民であれ、貴族であれ、相当の教養の高さと美的センスがありますわ」
侍女のジュディーからの助言を得た。
「ハンカチの花は聖書に出てくる聖花の百合の花でしたわ」
もう一人の侍女のシンディーからの助言だった。
「ズバリ、あのハンカチから品の良い石鹸の香りがいたしましたわ」
年配の侍女スーニャからの助言。
全てを照らし合わせると、相手の女性は聖書に親しみを持つ女性だと解る。
「このようなハンカチを持つ方は宮廷貴族には少ないでしょう。それに香水の香りがしないとなれば、外国の方でしょうか?」
「うむ、この国の宮廷貴族は入浴はあまりしませんからな。外国の習慣があるか…もしくは昔の風習を好まれる方ぐらいでしょうな」
その昔は、貴族も毎日のように入浴をしていた。
今では毎日入浴することはなく、体臭を香水で隠すことが多かった。
一部の貴族が入浴することで病気になると言い出したのがきっかけだった。
しかし、なんの確信もないなかった。
むしろ湯に入らないことで別の病気も出ていると確認されている。
頭のいい貴族は商業ペースに乗せられていると気づいているが、流行に左右され過ぎる貴族夫人は信じ込んでいた。
その所為もあって香水は売れていた。
「その方は、例のくだらない流行の裏にも気づいているのではありませんか?」
「聡明な方ですね。是非、お会いしたいです。この際平民でも構いません!このままでは坊ちゃまは独身まっしぐらです!」
「必死ですわね、ロジャー」
気合が入り過ぎるロジャーにため息を付く侍女長であり、乳母のケイトは引き気味だった。
しかし、アレンゼル侯爵家の力を使って探すもそれらしい女性は見つからなかった。
昨夜に参加した夜会の招待客の令嬢にはそれらしい人物は見つからず、ハンカチだけというのでは特定するのは困難だった。
他にも王都内の服飾店で同じハンカチを販売してないかしらみつぶしに探したのが難航しており困った矢先の事。
「大変ですロジャー様!」
「何です、騒々しい」
困り果てながら、お茶を飲んでいた時だった。
使用人の一人が声を荒げて、部屋に入って来たのだった。
「旦那様が女性を連れておられます!」
「は?」
この時、床に落としたティーカップを気にする暇はなかった。
「どのような方だ?」
「黒髪の気品あふれるお嬢様です。少し大人しそうな印象で」
「今すぐ最高級のお茶とお菓子を用意し、侍女三人衆を呼ぶのだ!いいか、失礼があれば解雇だ!」
「はいぃぃ!!」
探し人自ら来てくれるとは思わず、天に祈る気持ちだった。
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