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8手紙
しおりを挟むリディア王女からの手紙を受け取ると、私は固まった。
「シュリエール子爵令嬢…これは」
「直筆でございます」
通常なら代筆なのだが、直筆で手紙を書かれるのは珍しい。
先日は詫びであるから解るが二度も直筆で手紙を送られるのは稀だ。
「お体が弱いのに大丈夫なのでしょうか?私はそんなつもりでは…」
ここまで気を使っていただくなんて申し訳ない。
「私はリディア様とは存じず無礼をいたしました」
「姫様は無礼だと思っておりません。むしろ感謝しておられました。私も…」
「はて?何をでしょうか」
感謝されることは何一つしていない。
「高位な姫君に対して少々無礼をしてしまいましたが…」
「誰もが姫様を軽んじております」
「は?」
「公の場で誰一人姫様に手を差し伸べる事はありませんでした。むしろ侮辱し馬鹿にして利用価値がない王族の恥だと罵倒を浴びせるのです」
泣きそうな声で言われ、私は王宮でそこまで酷い仕打ちを受けている事を知った。
「女官は何をしているのです。リディア様は第二王女殿下です」
「女官も姫様を軽んじておられます。縁談も先方から理由をつけて断られ…今では離宮から出る事もままならないのです」
「そんな…」
相手は王族だぞ?
国王陛下と王妃陛下の実子なのに?
「それでもあの夜は姫様は勇気を出されたのです。しかしその結果が…」
「立派ではございませんか」
社交界で悪く言われながらも勇気を持って。
「リディア様がご立派です」
何がはずれ姫だ。
王族の恥だと?そんな噂を流す人間の方がずっと恥だ。
「ニナ嬢、噂は所詮噂です。リディア王女は誰が何と言おうと我が国の第二王女殿下です。どうか誇りを捨てることなく堂々となさってくださいとお伝えください。必要であれば第二騎士団は動きますと」
「その言葉を直接姫様にお伝えくださいませんか?」
「はい?」
直接とはどういう事だ?
「シオン、直接リディア姫にお目通りして欲しいとの事だ」
「チャールズ…しかし」
私の身分では直接会うというのは。
「近衛騎士ではない私だ…それにだな」
「一応伯爵位があるだろ」
とは言え私の爵位は伯爵位と言っても下級だ。
北の最果ての領地を賜っただけに過ぎないのだから。
「ご迷惑でしょうか」
「いいえ、そうではなく…リディア王女に更に悪い噂が流れます」
私は婚約者がいる身だ。
尚且つうだつが上がらないと言われているのに、お傍近くに行けばどうなるか。
「悪い噂とは?」
「彼には婚約者がいる。相手はヴィッツ伯爵令嬢だ」
「あの女の!」
何だ?
穏やかだったニナ嬢の表情が鬼の形相に変わったな。
「社交界で隣国の皇太子殿下と恋仲になっていると噂になってますのよ!」
「あー…あれな」
「恋仲か。すごい噂になっているな」
社交界はやっぱり恐ろしいな。
少し親しくしただけ飛躍されているようだ。
他人事のように感心していた私にニナ嬢は食い下がったのだった。
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