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5.王都
しおりを挟む邸を出て、ロシナンテ達と一緒に領地を出た。
何より俺は薬草を生業としていたので商業ギルド長とも顔見知りだった。
「こんにちわ」
「いらっしゃ…ルイスちゃん?」
商業ギルドの受付嬢ジェニーに声をかける。
「ご無沙汰しております」
「どうしたの?急に来るなんて…もしかしてまた新作を届けに来てくれたのかしら」
期待を込めた表情を浮かべるジェニーには用件だけを伝えた。
「生誕祭に代理で参加することになったんだ」
「まぁ、そうだったの?貴方が参加してくれるなら大助かりよ。生誕祭の準備は大掛かりで人手が足りなくて…しまも王宮の庭師やお針子も足りなくて人員を駆り出されているのよ」
「お手つだいならお任せください」
式典等でも商業ギルド達は駆り出されるため、ギルド職員は多忙だった。
特に受付嬢はジェニー一人で切り盛りしているから大忙しだろう。
「嬉しいわ。今年の生誕祭は特別だし…生誕祭が終わったらリディア姫が戴冠式を行うことになっているから」
「姫様が?」
ウィンディア王国の第一王女、リディア・ユラ・ウィンディア。
この国の次期女王陛下としても期待されており、現在はまだ王女という立場だが女王陛下になることは決まっている。
他国では女性が君主であることを未だに不平、不満を言っているが、そんなには時代錯誤だ。
実際エルフの国でも女王陛下が国を治めているのだから。
まぁ、政等は夫に任せているようだが。
ただし、ここで問題なのが王の伴侶となる者が重要視される。
表舞台に立つ女王陛下を補佐し支えるのは宰相ではなく王配なのだから。
女性が君主になることを誰もが賛同しているわけではない。
むしろ、女性が王となることが間違いだと言う者も多いし、失脚を狙う大臣も少なくない。
長い歴史の中に、玉座を欲した貴族。
夫よりも妻の方が地位が高い事が許せないという馬鹿な理由で女王陛下を害した者もいたのだから。
そんな意味合いもあり、現在では王配選びはとても慎重だった。
「姫様が女王様になるのか…」
「何、他人行儀な事を言っているのよ。戴冠式を行うと同時に婿選びも生誕祭で行われるって話よ!」
「そうなの?じゃあ大忙しだな…貴族達は猛アピールしてるんじゃない?」
「そりゃ、馬鹿な男達は姫様のご機嫌取りをしているでしょうけど」
一部では王配なんて女王陛下の影の存在だと言う輩もいる。
確かに裏方に徹底して女王陛下を支えるので目立たないけど、これほど誉れ高い仕事はないだろう。
このご時世、身内でも敵になるんだから。
世はマムシの時代とも言われ、親が子を、子が親を食い殺す程だ。
跡継ぎ争いの為に親を平気で殺す人間も少なくないのだから。
だからこそ王配選びは重要になって来る。
「まぁ、婚約者のいるルイスちゃんには無縁だけど…」
「あー、そうですね」
婚約破棄になってしまった事を言ってない。
今は忙しいから言わない方が良いだろうと思い、この時は言わなかった。
「しばらくは宿に泊まるのかしら?それともおあっち?」
「はい、しばらくあっちですね」
「私的には商業ギルドに泊って欲しいけど…でも、そんなことしたら商会の連中に睨まれるわね」
「はははっ、大袈裟ですね!」
幼い頃からお世話になっていた商業ギルド。
物作りが好きで、ギルド長やマイスターの皆さんが声をかけてくれたので、その後も通うようになった。
領地にも居場所がなく、王宮でも爪はじきにされている俺にとって商業ギルドともう一つのあそこが居場所になっていた。
緑の館。
元はお祖母様が済んでいた別邸で、庭は広く植物園となっていた。
店内では小物や雑貨を売っているが収入源は可愛いお菓子屋さんだったので小さい頃からここに来るのが大好きだった。
ここは俺にとって遊び場で隠れ家だった。
小さい頃からあの店で俺は育ち、可愛いものに囲まれ満幸せだった。
隠れ家のような作りになっており庭から森に続く隠し通路やからくりの仕掛けもあって遊び心のある館だ。
壁には苔で覆われており、隠れ家にもなって解りにくい。
そのおかげで、マリエルも場所を知らない。
一時は、マリエルの行動に精神的に疲れていた頃に逃げたのだ。
その時に館には手紙が残されていた。
館の管理をしていた人が権利を俺に譲るとここと。
魔法で管理されているので、手間も要らないのだが、庭の手入れだけは定期的にするようにと書かれていた。
他にも生活に必要なものが置かれており、お祖母様の遺言だったらしい。
植物を育てるのが好きな俺の為に残してくれたのだ。
それ以降、薬草は一部だけここで管理していた。
そして――。
「メェェ!!」
ここにはちゃんと住人がいた。
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◇◇
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