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魔王城での出会い
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「きゃー!?」
主神の座す大神殿からはるか北方、まだ春の訪れの遠い魔族の領土。
魔王によって大神殿からかどわかされた私が案内されたのは、黒い石で作られた魔王の居城、その中にある牢獄だった。
牢獄といっても、それらしいのは扉にはめ込まれた鉄格子だけで、大きな窓の外には立派なバルコニーまである。さらに、室内にはまるでお姫様の寝室のように調度品が揃えられていて居心地がよさそうだ。
「しばらくはここで過ごしなさい、何か不便があったら、側仕えの者に言うように」と言ったきり、あの黒づくめの魔王はどこかに消えてしまった。
その淡白な対応に少し拍子抜けしたものの、一日のうちに色々なことがありすぎてそれ以上なにも考えられず、目の前にあった天蓋付きのベッドで倒れ込むようにして眠った、その翌朝。わたしは叫び声をあげて起き出すことになる。
「みゃむっ! みゃむっ!」
いきなり部屋の中に、モンスターが現れたからだ。
書き物机くらいの大きさの、ずんぐりとした胴体。体表は硬そうな鱗に覆われている。四本脚の先についた爪は真っ黒で、非常に鋭い。顔面は細長く、二つの金色の目は瞳孔がとても細い。
モンスターに、詳しくはない、けれど……
「ドラゴンの、幼生じゃないかしら……?」
通常、ドラゴンは卵から産まれたあと、成体となるまで親の庇護のもとで暮らすという。幼生は体も小さく翼もなく、成体とは違って戦闘能力も低いと聞いた。
しかしなぜ、それがこんなところに?
みゃむー、と、邪気をまるで感じない鳴き声で、まるで甘えるようにすり寄ってくるものだから、わたしは手を伸ばしてしまった。
がぶりと噛みつかれても文句は言えないような行動。けれど、ドラゴン(仮)は私の掌に額をこすりつけるようにして、「もっと撫でて」と言いたげに身をよじった。
「どうしました、聖女様!」
「きゃー!?」
ごろごろと、たぶん喉を鳴らしているドラゴン(仮)を撫でていると、今度は扉から人影が現れる。
ただしその人影は、サイズこそ人間だったが、スーツを着こなした蝙蝠、という表現が合いそうな顔をしていた。真っ黒で小さいけれどつぶらな瞳と毛並み、尖った牙。手袋のようなもので覆われてはいるが手のひらには水かきのがあり、臀部からは太くて長い尻尾が生えている。
一目見るなり悲鳴をあげてしまった私を落ち着かせるように、その蝙蝠さんは低い声で話始める。
「……ああ、これは、お見苦しくて申し訳ありません。わたくし、カイドル・カイラル・ラーラドネと申します。魔王陛下の側仕えをさせていただいております、以後、お見知りおきを」
丁寧に頭を下げる仕草はとても洗練されていて、まるで貴族の屋敷の執事さんみたいだった。わたしは毒気を抜かれて、そのまま自己紹介をする。
「わたし、リディ・エイジー・カラヤドネ・ジャミスです……聖女を、やっていました……」
「やっていた? おかしなことをおっしゃる。今なお、聖女の称号はあなただけのものですよ!」
そんなはずはない。わたしが聖女だったのは昨日まで。今日からはミーシア姫が聖女として大神殿に住み、勇者のために祈るのだ。
黙ってしまった私を見て、カイドルさんは一瞬何かを考えてから「さて、まずは朝食にいたしましょう。聖女様もお仕度を整えてください」と言った。それから意地悪く笑って、
「それとも、お着替えもお手伝いいたしましょうか?」
なんて言うものだから、わたしは慌てて
「じ、自分でできます!」
と言って寝室の奥、クローゼットの前に置かれた衝立の向こうに隠れた。
主神の座す大神殿からはるか北方、まだ春の訪れの遠い魔族の領土。
魔王によって大神殿からかどわかされた私が案内されたのは、黒い石で作られた魔王の居城、その中にある牢獄だった。
牢獄といっても、それらしいのは扉にはめ込まれた鉄格子だけで、大きな窓の外には立派なバルコニーまである。さらに、室内にはまるでお姫様の寝室のように調度品が揃えられていて居心地がよさそうだ。
「しばらくはここで過ごしなさい、何か不便があったら、側仕えの者に言うように」と言ったきり、あの黒づくめの魔王はどこかに消えてしまった。
その淡白な対応に少し拍子抜けしたものの、一日のうちに色々なことがありすぎてそれ以上なにも考えられず、目の前にあった天蓋付きのベッドで倒れ込むようにして眠った、その翌朝。わたしは叫び声をあげて起き出すことになる。
「みゃむっ! みゃむっ!」
いきなり部屋の中に、モンスターが現れたからだ。
書き物机くらいの大きさの、ずんぐりとした胴体。体表は硬そうな鱗に覆われている。四本脚の先についた爪は真っ黒で、非常に鋭い。顔面は細長く、二つの金色の目は瞳孔がとても細い。
モンスターに、詳しくはない、けれど……
「ドラゴンの、幼生じゃないかしら……?」
通常、ドラゴンは卵から産まれたあと、成体となるまで親の庇護のもとで暮らすという。幼生は体も小さく翼もなく、成体とは違って戦闘能力も低いと聞いた。
しかしなぜ、それがこんなところに?
みゃむー、と、邪気をまるで感じない鳴き声で、まるで甘えるようにすり寄ってくるものだから、わたしは手を伸ばしてしまった。
がぶりと噛みつかれても文句は言えないような行動。けれど、ドラゴン(仮)は私の掌に額をこすりつけるようにして、「もっと撫でて」と言いたげに身をよじった。
「どうしました、聖女様!」
「きゃー!?」
ごろごろと、たぶん喉を鳴らしているドラゴン(仮)を撫でていると、今度は扉から人影が現れる。
ただしその人影は、サイズこそ人間だったが、スーツを着こなした蝙蝠、という表現が合いそうな顔をしていた。真っ黒で小さいけれどつぶらな瞳と毛並み、尖った牙。手袋のようなもので覆われてはいるが手のひらには水かきのがあり、臀部からは太くて長い尻尾が生えている。
一目見るなり悲鳴をあげてしまった私を落ち着かせるように、その蝙蝠さんは低い声で話始める。
「……ああ、これは、お見苦しくて申し訳ありません。わたくし、カイドル・カイラル・ラーラドネと申します。魔王陛下の側仕えをさせていただいております、以後、お見知りおきを」
丁寧に頭を下げる仕草はとても洗練されていて、まるで貴族の屋敷の執事さんみたいだった。わたしは毒気を抜かれて、そのまま自己紹介をする。
「わたし、リディ・エイジー・カラヤドネ・ジャミスです……聖女を、やっていました……」
「やっていた? おかしなことをおっしゃる。今なお、聖女の称号はあなただけのものですよ!」
そんなはずはない。わたしが聖女だったのは昨日まで。今日からはミーシア姫が聖女として大神殿に住み、勇者のために祈るのだ。
黙ってしまった私を見て、カイドルさんは一瞬何かを考えてから「さて、まずは朝食にいたしましょう。聖女様もお仕度を整えてください」と言った。それから意地悪く笑って、
「それとも、お着替えもお手伝いいたしましょうか?」
なんて言うものだから、わたしは慌てて
「じ、自分でできます!」
と言って寝室の奥、クローゼットの前に置かれた衝立の向こうに隠れた。
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