聖女なのに勇者に追放されました。だから魔王のお嫁さんになろうと思います!

ひるね

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責任

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「ただ、これほどまで追い詰められたのはあの勇者が出てきて、戦争の局面が様変わりしたせいだよ。領地が減って畑が減れば、もちろん飢えるしかない。人間は逆だろう? 領地が増えた分メシも増えて、飢えは改善されつつあるはずだ。俺たちが貧しいのは、人間たちが豊かなことの裏面ってわけだな」

 魔王の口調は言葉の強さに反してとても冷静で、わたしをその「人間」に含めないで話しているということがわかったから、わたしも感情を昂らせずに聞くことができのかもしれない。

 自分が「お前のせいだ」と嬲られても文句は言えない立場であるという自覚はあった。聖女として生まれ、勇者を選んで祈ってきた。人間の勝利のためだと闇雲に信じていた。その結果が、どこにつながっているのかなんて、考えたことがなかった。

 受け取った配給をその場で食べる人々。身なりは貧しいが、その様子は決して暗くはない。魔王に気づくと手を振って笑顔であいさつし、隣の人と連れ立って頭を下げる。魔王もそれに片手を挙げて応じ、それを見た人々がまた楽しそうに笑う。

 王都ではこうはいかないことを、わたしは知っている。王侯貴族や神殿関係者は権力によって人々を管理し、従わない者には容赦ない罰を与える。だから「それ以外」、いわゆる庶民と呼ばれる人々は権力者たちを畏れ、怖れ、恐れて恭しく従って見せるが、いざ権力者が隙を見せようものなら途端に大きな口を開けて糾弾し、蹂躙し、とって代わってみせる。
 身分の低い人たちを粗末に扱う権力者の姿を何度も見たが、私財を使って貧しい人に手を差し伸べようとした神官が、どこまでも貪りつくされて身心を病み、身を堕としていくところだって、何度も見てきた。

 魔王がわたしから離れて食事をする人々に近づいて、親しそうに何か語り合っているのを見てなぜか泣きそうになる。

「よう、調子はどうだ?」
「陛下! また来たんですか、もしかしてヒマなんですか」
「ヒマじゃねえよ。……おい、弟はどうしたんだ」
「具合悪いって寝てます。だから今日は俺が二人分の配給持って帰ります」
「途中で全部喰うなよ。あと、何か様子が変だったら教会に行け。裏口からなら入れる」
「いやー、金ないっすから。薬だけもらったらまたカイドル様にどやされます」
「城の修繕手伝ってくれればカイドルも文句言わないだろ。労働力で返してくれればいいから」
「……じゃ、いざとなったらお言葉に甘えさしてもらいます」

 こんな風に、最高権力者と苦しい暮らしをしている人が同じテーブルについてお話をするなんて、わたしの今までの常識ではありえなかった。
 魔族は貧しくても、自分が損をしたとしても、お互いに助け合って生きることを受け容れているのだろう。他者との絆を信じ、自分だけの事情に固執せず、困っている人のために動いて分け合うことができる。

 その様子は、人間よりもよっぽど人間らしい。

「具合でも悪いのか?」

 いつの間にか戻ってきた魔王がわたしに訊ねる。
 わたしは首を振って否定し、「次はどこに行くんですか?」と聞いた。

「教会だ。と言っても今は病院として使ってる。そこが今日の目的地だよ」

 病院で、魔王がわたしに何を見せたいのかはわからない。
 だけど何を見たとしても、目をそらしたくはなかった。それは卑怯なことだと思った。

 ここまで魔族を追い詰めたのがドーハートさまの強さなのだとしたら、彼を支える聖女の務めを今まで果たしてきたわたしにも、その責任はあるのだから。
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