24 / 45
責任
しおりを挟む
「ただ、これほどまで追い詰められたのはあの勇者が出てきて、戦争の局面が様変わりしたせいだよ。領地が減って畑が減れば、もちろん飢えるしかない。人間は逆だろう? 領地が増えた分メシも増えて、飢えは改善されつつあるはずだ。俺たちが貧しいのは、人間たちが豊かなことの裏面ってわけだな」
魔王の口調は言葉の強さに反してとても冷静で、わたしをその「人間」に含めないで話しているということがわかったから、わたしも感情を昂らせずに聞くことができのかもしれない。
自分が「お前のせいだ」と嬲られても文句は言えない立場であるという自覚はあった。聖女として生まれ、勇者を選んで祈ってきた。人間の勝利のためだと闇雲に信じていた。その結果が、どこにつながっているのかなんて、考えたことがなかった。
受け取った配給をその場で食べる人々。身なりは貧しいが、その様子は決して暗くはない。魔王に気づくと手を振って笑顔であいさつし、隣の人と連れ立って頭を下げる。魔王もそれに片手を挙げて応じ、それを見た人々がまた楽しそうに笑う。
王都ではこうはいかないことを、わたしは知っている。王侯貴族や神殿関係者は権力によって人々を管理し、従わない者には容赦ない罰を与える。だから「それ以外」、いわゆる庶民と呼ばれる人々は権力者たちを畏れ、怖れ、恐れて恭しく従って見せるが、いざ権力者が隙を見せようものなら途端に大きな口を開けて糾弾し、蹂躙し、とって代わってみせる。
身分の低い人たちを粗末に扱う権力者の姿を何度も見たが、私財を使って貧しい人に手を差し伸べようとした神官が、どこまでも貪りつくされて身心を病み、身を堕としていくところだって、何度も見てきた。
魔王がわたしから離れて食事をする人々に近づいて、親しそうに何か語り合っているのを見てなぜか泣きそうになる。
「よう、調子はどうだ?」
「陛下! また来たんですか、もしかしてヒマなんですか」
「ヒマじゃねえよ。……おい、弟はどうしたんだ」
「具合悪いって寝てます。だから今日は俺が二人分の配給持って帰ります」
「途中で全部喰うなよ。あと、何か様子が変だったら教会に行け。裏口からなら入れる」
「いやー、金ないっすから。薬だけもらったらまたカイドル様にどやされます」
「城の修繕手伝ってくれればカイドルも文句言わないだろ。労働力で返してくれればいいから」
「……じゃ、いざとなったらお言葉に甘えさしてもらいます」
こんな風に、最高権力者と苦しい暮らしをしている人が同じテーブルについてお話をするなんて、わたしの今までの常識ではありえなかった。
魔族は貧しくても、自分が損をしたとしても、お互いに助け合って生きることを受け容れているのだろう。他者との絆を信じ、自分だけの事情に固執せず、困っている人のために動いて分け合うことができる。
その様子は、人間よりもよっぽど人間らしい。
「具合でも悪いのか?」
いつの間にか戻ってきた魔王がわたしに訊ねる。
わたしは首を振って否定し、「次はどこに行くんですか?」と聞いた。
「教会だ。と言っても今は病院として使ってる。そこが今日の目的地だよ」
病院で、魔王がわたしに何を見せたいのかはわからない。
だけど何を見たとしても、目をそらしたくはなかった。それは卑怯なことだと思った。
ここまで魔族を追い詰めたのがドーハートさまの強さなのだとしたら、彼を支える聖女の務めを今まで果たしてきたわたしにも、その責任はあるのだから。
魔王の口調は言葉の強さに反してとても冷静で、わたしをその「人間」に含めないで話しているということがわかったから、わたしも感情を昂らせずに聞くことができのかもしれない。
自分が「お前のせいだ」と嬲られても文句は言えない立場であるという自覚はあった。聖女として生まれ、勇者を選んで祈ってきた。人間の勝利のためだと闇雲に信じていた。その結果が、どこにつながっているのかなんて、考えたことがなかった。
受け取った配給をその場で食べる人々。身なりは貧しいが、その様子は決して暗くはない。魔王に気づくと手を振って笑顔であいさつし、隣の人と連れ立って頭を下げる。魔王もそれに片手を挙げて応じ、それを見た人々がまた楽しそうに笑う。
王都ではこうはいかないことを、わたしは知っている。王侯貴族や神殿関係者は権力によって人々を管理し、従わない者には容赦ない罰を与える。だから「それ以外」、いわゆる庶民と呼ばれる人々は権力者たちを畏れ、怖れ、恐れて恭しく従って見せるが、いざ権力者が隙を見せようものなら途端に大きな口を開けて糾弾し、蹂躙し、とって代わってみせる。
身分の低い人たちを粗末に扱う権力者の姿を何度も見たが、私財を使って貧しい人に手を差し伸べようとした神官が、どこまでも貪りつくされて身心を病み、身を堕としていくところだって、何度も見てきた。
魔王がわたしから離れて食事をする人々に近づいて、親しそうに何か語り合っているのを見てなぜか泣きそうになる。
「よう、調子はどうだ?」
「陛下! また来たんですか、もしかしてヒマなんですか」
「ヒマじゃねえよ。……おい、弟はどうしたんだ」
「具合悪いって寝てます。だから今日は俺が二人分の配給持って帰ります」
「途中で全部喰うなよ。あと、何か様子が変だったら教会に行け。裏口からなら入れる」
「いやー、金ないっすから。薬だけもらったらまたカイドル様にどやされます」
「城の修繕手伝ってくれればカイドルも文句言わないだろ。労働力で返してくれればいいから」
「……じゃ、いざとなったらお言葉に甘えさしてもらいます」
こんな風に、最高権力者と苦しい暮らしをしている人が同じテーブルについてお話をするなんて、わたしの今までの常識ではありえなかった。
魔族は貧しくても、自分が損をしたとしても、お互いに助け合って生きることを受け容れているのだろう。他者との絆を信じ、自分だけの事情に固執せず、困っている人のために動いて分け合うことができる。
その様子は、人間よりもよっぽど人間らしい。
「具合でも悪いのか?」
いつの間にか戻ってきた魔王がわたしに訊ねる。
わたしは首を振って否定し、「次はどこに行くんですか?」と聞いた。
「教会だ。と言っても今は病院として使ってる。そこが今日の目的地だよ」
病院で、魔王がわたしに何を見せたいのかはわからない。
だけど何を見たとしても、目をそらしたくはなかった。それは卑怯なことだと思った。
ここまで魔族を追い詰めたのがドーハートさまの強さなのだとしたら、彼を支える聖女の務めを今まで果たしてきたわたしにも、その責任はあるのだから。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる