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幕間 勇者ドーハート 3
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リディを迎えに行く。ついでに魔王をぶっ飛ばす。
そうと決まれば、善は急げだった。
空間転移を繰り返して魔王領に乗り込み、飛行魔法で魔王城の上空に着いた後、オレは天に手をかざして雷雲を呼び寄せた。そのまま手を振り下ろせば、雷は城を囲んだ尖塔のひとつに激しい音をたてながら落ちる。
このくらいオレにとっては朝飯前だ。
しかし、魔王城はそれでもビクともしなかった。
勇者の魔力を無効化するための結界がいくつも重ね掛けされているせいで、魔法がろくな効果を発揮しない。
「面倒くせえ……」
オレは舌打ちして指一本で魔王城を指し示し、そこに魔力を集中させていく。
結集した魔力は光でできた矢じりのように鋭く、質量を伴って指先に宿る。
一点に勇者の全力を込めた、渾身の一撃だ。どうだ。オレはこれでドラゴンの逆鱗も一瞬で打ち砕いたんだ。
「喰らえッ!!」
気合の一声と共に魔力を打ち出すが、一発ではせいぜい結界に薄いヒビが入った程度だった。
それを何回も繰り返して、ようやく窓ガラスのひとつが割れる。
やれやれだ。どれだけ頑丈な城なんだよ。
勇者のスキルのひとつである魔力スキル『無尽蔵』に今ほど感謝したことはない。
飛行魔法を操って割れたガラス窓にとりつき、城内に侵入する。
青白い炎の照明で照らされた廊下はさすがは魔王城という品格があったが、城の中は不気味なくらい静まり返っている。
勇者が侵入したことはわかっているはずだ。それなのになぜ、誰もオレを殺しにこない?
まさか、ビビッて逃げたんじゃないだろうな。そんなつまらないことになったら興覚めだ。
だが、そのつもりなら先にリディを探させてもらうか、と考えて魔力を走査して聖女の気配を感じとろうとしても、勇者の力に反作用する結界のせいで魔力が散ってうまくいかない。
なんなんだよ、ここは。
いい加減イライラしてきた。なんだってこんなところに、リディは閉じこもっているんだ。
聖女なら聖女らしく、おとなしく勇者に従っていればいいものを。
「リディ、どこだ! わざわざ迎えに来てやったんだぞ! 早く出てこいよ!」
だだっ広い廊下にオレの声だけがむなしく響き渡る。
しかし声の反響が消えかけた瞬間、魔力による因縁がオレに向けられたことを感知した。
鈍器のように重い、陰湿な魔力がオレの肌を逆なでする。
気色悪い。持ち主の心根が透けて見えるね、ロクな奴ではないだろう。
どこからだ、と視線を四方に巡らせると、本城から尖塔へ向かう渡り廊下に人影が見えた。
黒衣を纏った、長身の男。
そいつがこのオレに因縁をつけてきた命知らずであるらしい。
――あれが、魔王か。
なるほど確かに、今まで戦ってきた他の魔族たちとはけた違いの魔力量であることが見て取れる。
ただし、オレの敵ではない。
オレにはたくさんのスキルがある。瞬間予知、筋力増強、無尽蔵の魔力、物理と魔法の防御力。何をとっても、負ける要素が一つもない。
オレと目を合わせて一瞥をくれた後、魔王は身をひるがえして本城から渡り廊下一本でつながった尖塔へ向かった。オレをあそこに誘い出しているのだろう。
魔王は随分と高いところが好きなようだ。バカと煙はなんとやら、というやつか?
挑発に乗ってやってもいい。
ここで魔王を倒してしまったら王が怒るだろうが、知ったことか。どうせ次代の王はオレなのだ。世界情勢くらいなんとでもなる。オレに逆らえる奴なんて、世界のどこにもいないのだから。
魔力を全身に通し、ふわりと浮上する。そのまま侵入したガラス窓まで戻り、そこから外に出て魔王が向かった尖塔の屋根に降り立った。
そしてすぐに、屋根には大きな魔方陣が描かれていることに気づいた。日光をそのまま通過させるための魔法だと思う。その下には植木鉢で管理された草花がそこかしこに生えているところを見ると、この下は温室なのかもしれない。
魔王城にしては随分のどかなことだ。
魔王城の結界と反発するオレの魔力を流せば、魔方陣は暴走して天井が抜け、屋根はただの砂ぼこりとなって温室の中に降り注いだ。
オレはそれから少し遅れて、温室の中央にいた魔王の目の前に飛び降りる。
「あんたが魔王か?」
「……そうだ」
思ったより若い。
それが第一印象だった。
「なんだよ。ツノの一本も生えていないだなんて思わなかった。魔族の親玉には見えないな、ただの若造じゃねえか」
「それはただの偏見だ。勇者がただの人間であるように、魔王だってただの一人の魔族なのだから」
「ただの人間? このオレが? 冗談がうまいじゃないか。ならお前は、ただの人間に殺される最初の魔王になるな!」
オレが魔王の冗談を嘲っている間に、魔王は先に仕掛けてきた。
前面に魔力による障壁を構え、その一部を切り離した弾にしてオレの方へ打ち出してくる。防御と攻撃を一体化させて時間を稼ぎ、オレの疲労を狙う作戦か。
――へえ、なるほど。うまいもんだ。
ここは敵の本拠地で、オレが消耗すれば補給するすべはない。魔王は攻撃の決め手に欠けたとしても、こちらの魔力が切れれば勝ちの見込みがあるとでも思っているんだろう。
いい作戦かもな。
相手が、オレ以外だったら。
にやりと笑って魔弾にあえてぶつかった。魔法防御がカンストしている上ボーナスまで加算されているオレに、魔弾は1ポイントのダメージすら与えはしない。
そしてそのまま、指を構えた。
魔王城の結界を打ち破った、オレの必殺技。数千の稲妻を合わせたより強い雷の力が、オレの指先に集まってくる。
「きたきたきたきたあ!!!」
オレは最強の盾であり、最強の矛でもある。それこそが、主神が選んだ勇者の力。現人神たる所以なのだ。
「喰らえ! そして死ね! 魔王!!」
魔王の結界に雷が着弾した瞬間、温室で大爆発が起きた。
衝撃で一面に埃が舞い上がる。視界が塞がれた中で、未だに動く生物の気配は一つだけ。
「……まったく、嫌になるほどすさまじい強さだな」
「魔王。あの一撃で生き残ったのはお前が初めてだよ。なかなかやるなあ!」
視界が回復すると、黒衣の魔王の姿が見えるようになった。
立っている。口角は上がり、まだ余裕がありそうだ。しかし、
「あいにく、しっかり重症だよ」
黒衣からは、赤い血が滴っている。
そうと決まれば、善は急げだった。
空間転移を繰り返して魔王領に乗り込み、飛行魔法で魔王城の上空に着いた後、オレは天に手をかざして雷雲を呼び寄せた。そのまま手を振り下ろせば、雷は城を囲んだ尖塔のひとつに激しい音をたてながら落ちる。
このくらいオレにとっては朝飯前だ。
しかし、魔王城はそれでもビクともしなかった。
勇者の魔力を無効化するための結界がいくつも重ね掛けされているせいで、魔法がろくな効果を発揮しない。
「面倒くせえ……」
オレは舌打ちして指一本で魔王城を指し示し、そこに魔力を集中させていく。
結集した魔力は光でできた矢じりのように鋭く、質量を伴って指先に宿る。
一点に勇者の全力を込めた、渾身の一撃だ。どうだ。オレはこれでドラゴンの逆鱗も一瞬で打ち砕いたんだ。
「喰らえッ!!」
気合の一声と共に魔力を打ち出すが、一発ではせいぜい結界に薄いヒビが入った程度だった。
それを何回も繰り返して、ようやく窓ガラスのひとつが割れる。
やれやれだ。どれだけ頑丈な城なんだよ。
勇者のスキルのひとつである魔力スキル『無尽蔵』に今ほど感謝したことはない。
飛行魔法を操って割れたガラス窓にとりつき、城内に侵入する。
青白い炎の照明で照らされた廊下はさすがは魔王城という品格があったが、城の中は不気味なくらい静まり返っている。
勇者が侵入したことはわかっているはずだ。それなのになぜ、誰もオレを殺しにこない?
まさか、ビビッて逃げたんじゃないだろうな。そんなつまらないことになったら興覚めだ。
だが、そのつもりなら先にリディを探させてもらうか、と考えて魔力を走査して聖女の気配を感じとろうとしても、勇者の力に反作用する結界のせいで魔力が散ってうまくいかない。
なんなんだよ、ここは。
いい加減イライラしてきた。なんだってこんなところに、リディは閉じこもっているんだ。
聖女なら聖女らしく、おとなしく勇者に従っていればいいものを。
「リディ、どこだ! わざわざ迎えに来てやったんだぞ! 早く出てこいよ!」
だだっ広い廊下にオレの声だけがむなしく響き渡る。
しかし声の反響が消えかけた瞬間、魔力による因縁がオレに向けられたことを感知した。
鈍器のように重い、陰湿な魔力がオレの肌を逆なでする。
気色悪い。持ち主の心根が透けて見えるね、ロクな奴ではないだろう。
どこからだ、と視線を四方に巡らせると、本城から尖塔へ向かう渡り廊下に人影が見えた。
黒衣を纏った、長身の男。
そいつがこのオレに因縁をつけてきた命知らずであるらしい。
――あれが、魔王か。
なるほど確かに、今まで戦ってきた他の魔族たちとはけた違いの魔力量であることが見て取れる。
ただし、オレの敵ではない。
オレにはたくさんのスキルがある。瞬間予知、筋力増強、無尽蔵の魔力、物理と魔法の防御力。何をとっても、負ける要素が一つもない。
オレと目を合わせて一瞥をくれた後、魔王は身をひるがえして本城から渡り廊下一本でつながった尖塔へ向かった。オレをあそこに誘い出しているのだろう。
魔王は随分と高いところが好きなようだ。バカと煙はなんとやら、というやつか?
挑発に乗ってやってもいい。
ここで魔王を倒してしまったら王が怒るだろうが、知ったことか。どうせ次代の王はオレなのだ。世界情勢くらいなんとでもなる。オレに逆らえる奴なんて、世界のどこにもいないのだから。
魔力を全身に通し、ふわりと浮上する。そのまま侵入したガラス窓まで戻り、そこから外に出て魔王が向かった尖塔の屋根に降り立った。
そしてすぐに、屋根には大きな魔方陣が描かれていることに気づいた。日光をそのまま通過させるための魔法だと思う。その下には植木鉢で管理された草花がそこかしこに生えているところを見ると、この下は温室なのかもしれない。
魔王城にしては随分のどかなことだ。
魔王城の結界と反発するオレの魔力を流せば、魔方陣は暴走して天井が抜け、屋根はただの砂ぼこりとなって温室の中に降り注いだ。
オレはそれから少し遅れて、温室の中央にいた魔王の目の前に飛び降りる。
「あんたが魔王か?」
「……そうだ」
思ったより若い。
それが第一印象だった。
「なんだよ。ツノの一本も生えていないだなんて思わなかった。魔族の親玉には見えないな、ただの若造じゃねえか」
「それはただの偏見だ。勇者がただの人間であるように、魔王だってただの一人の魔族なのだから」
「ただの人間? このオレが? 冗談がうまいじゃないか。ならお前は、ただの人間に殺される最初の魔王になるな!」
オレが魔王の冗談を嘲っている間に、魔王は先に仕掛けてきた。
前面に魔力による障壁を構え、その一部を切り離した弾にしてオレの方へ打ち出してくる。防御と攻撃を一体化させて時間を稼ぎ、オレの疲労を狙う作戦か。
――へえ、なるほど。うまいもんだ。
ここは敵の本拠地で、オレが消耗すれば補給するすべはない。魔王は攻撃の決め手に欠けたとしても、こちらの魔力が切れれば勝ちの見込みがあるとでも思っているんだろう。
いい作戦かもな。
相手が、オレ以外だったら。
にやりと笑って魔弾にあえてぶつかった。魔法防御がカンストしている上ボーナスまで加算されているオレに、魔弾は1ポイントのダメージすら与えはしない。
そしてそのまま、指を構えた。
魔王城の結界を打ち破った、オレの必殺技。数千の稲妻を合わせたより強い雷の力が、オレの指先に集まってくる。
「きたきたきたきたあ!!!」
オレは最強の盾であり、最強の矛でもある。それこそが、主神が選んだ勇者の力。現人神たる所以なのだ。
「喰らえ! そして死ね! 魔王!!」
魔王の結界に雷が着弾した瞬間、温室で大爆発が起きた。
衝撃で一面に埃が舞い上がる。視界が塞がれた中で、未だに動く生物の気配は一つだけ。
「……まったく、嫌になるほどすさまじい強さだな」
「魔王。あの一撃で生き残ったのはお前が初めてだよ。なかなかやるなあ!」
視界が回復すると、黒衣の魔王の姿が見えるようになった。
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