獄中令嬢モモ・クルツバルグの華麗なる復讐レシピ

ひるね

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モモが『復讐レシピ』を作る理由

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 聞きたいことがある。
 そう言ったわたしに、モモはガラス玉のような瞳をパチパチと瞬いて応じた。

「なんでしょうか?」

 あの夜会で、王太子妃と話したことが、まだ自分の中で消化できていない。
 それに、考えてみれば、不自然な点はいくらでもあったのだ。

「モモ。あなたはなぜ、『獄中令嬢』になったの? あなたほどの魔力があれば、囚われる前に逃げ出すことだって簡単だったはずよ」
「……」

 わたしの問いに、モモは微笑んだまま答えなかった。
 それが、わたしの疑問が正しかったことを証明する。

 なぜモモは『獄中令嬢』になったのか?
 最初は、彼女は王家に捕えられる前に、自分から捕らえられることで隙を作り、復讐の機会をうかがっているのだと思った。
 しかし、彼女ほどの力があれば、こうならない道はいくらでもあったはずなのだ。

「あなたの力は魔力だけじゃない。『復讐レシピ』がそうであったように、巧みに人の心をあやつり、思い通りに動かすのもあなたの力よ。それがあればこんな牢屋からだって、あっという間に自分の力で出られるはずだわ」

 彼女の一番強力な武器。それは、血筋によって与えられた魔力じゃない。自分の策謀でもって相手を意のままに操る力だ。
 その力があれば魔法なんか使わなくたって、脱獄なんて簡単にできる。

「それだけじゃない。あなたをここに閉じ込めたはずの王太子妃だって、あなたが牢屋から出てくることを望んでいるみたいだった。なのに、あなたはずっとここにいる。わたしにはもう、あなたがあなたの意思で『獄中令嬢』になったとしか思えない」

 モモは、黙ってわたしの言葉を聞いていた。
 そうしているとまるで、彼女の操る彼女の人形みたいだ。

「教えてちょうだい、モモ。……あなたはなぜ、『獄中令嬢』になったの?」

 わたしの問いかけに、モモはもう一度あの美しい笑顔を見せてから、こう言った。

「アイラさん、あなたには教えておきましょうか。なんといっても、あなたは私の『友達』ですから」

 何を言いだすつもりだろう、とわたしは唾を飲み込む。

「かつてのわたしは、魔力を王家に利用されていました。『傀儡人形』の魔法で操る人形たちと同じように、まるで操り人形みたいに、私は王家に従って暮らしていた。そのせいで自分のやりたいことも満足にできなかった。私は、そんな生活に嫌気が差していました」

 生まれたころから、彼女には特別な魔力があった。
 そしてその力は、成長と共に王家に利用されてきた。
 わたしも彼女の友人として、そんな彼女の姿を間近で見てきた。

「だから、あの事件を起こしたんです」
「……王太子とあなたのお姉さまを、殺そうとしたという事件ね」
「ええ。ですが、世間一般で知られているようなことはなにもなかった。あれは、全部私の企みだったんです」
「……? どういうこと?」

 わたしはモモに聞き返しながら、どこかで納得していた。

 モモが王太子と彼女の姉を殺そうとした事件の目撃者は、いない。
 いつの間にか彼女は捕まり、断罪され、投獄された。
 あまりにも早すぎる展開だと思っていた。しかしそれが全部、彼女自身の企みなのだとすれば――納得できる。

「姉が魔力に目覚めたのは、私にとっては幸運でした。癒しの魔力があれば、姉が王太子妃になれるから。だけど、あのころはまだ私が王太子の婚約者だったでしょう? だから私は姉に王太子妃の座を円滑に譲るため偽の暗殺計画を立案し、事前に情報をリークして、わざと捕まったんです」

 モモは、天気の話をしているかのようななんでもない口調で、とんでもない事実を告白した。

「そんな……! だってあなたは、あの事件のせいで牢屋に入れられたのよ!? まさか本当に、獄中に囚われることが望みだったとでもいうの?」

 モモは、しっかりと頷いて、私に答えた。

「その通りですよ、アイラさん」
「こんな牢屋の中で暮らすことが望み? 一体ここに、あなたがそこまでして欲しかった、何があるっていうのよ」
「平穏な暮らし、です」
「……!」
「私のような魔力持ちは、王家に召し抱えられるのが常です。この国も私を王太子か王子の妻にして抱え込もうとしましたし、国外に脱出したところで、他の国に捕らえられるのがせいぜいでしょう」

 彼女の力を使えば、逃げ続けることはできるかもしれない。
 しかし、そんな生活は彼女が望んだ『平穏な暮らし』からは程遠い。

「それくらいなら、衣食住の保証をしてもらって獄中で暮らす生活も、悪くはないものですよ」
「だからって……外に一歩も出られない生活は、辛くはないの?」

 モモは、穏やかな笑顔で首を振った。

「『傀儡人形』の魔法を使えば外の様子はわかります。ここに閉じこもっているだけで、お友達だってできました。寂しくないし、辛くなんてありませんよ」

 彼女は、今の境遇に心から満足しているみたいだった。
 なら、これ以上わたしが何かを言う必要もないのだろう。

 わたしは大きく息をついた。

「わかったわ。あなたがそれでいいのなら、わたしはもう何も言わない。だけど、最後にもう一つ教えてくれる?」
「なんでしょうか?」
「あなたは、外で暮らしていたときは『やりたいことが満足にできなかった』と言ったでしょう。その『やりたいこと』って、なんだったの?」

 モモは、また美しい笑顔を見せてから、「アイラさんは、既に知っているはずですよ」と言った。

「なぜ私が令嬢の間で噂を流して『復讐レシピ』を広めていた思いますか?」
「……あの噂の出所まで、あなただったのね」
「そうですよ。私がやりたかったのは、私の能力を最大限に生かして、私の敵となった人を陥れ、懲らしめること」

 いきなり不穏すぎる言葉が出てきて、わたしは目を見開き、表情をこわばらせたと思う。
 そんなわたしの前で、モモは今までで一番楽しそうな笑顔で、うっとりしたような口調でこう言うのだ。

「私、誰かに復讐することが、他のなにより大好きなんです!」
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