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レシピ完成の報告
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「……妃殿下。わたしに、なにか御用ですか?」
わたしが声をかけても、王太子妃はわたしの手元にある人形を凝視している。
そして、ぽつりと言った。
「……あの子は、元気なのね」
寂しそうな顔だった。
その顔を見て、わたしは察する。
王太子妃は、この人形の正体がわかっている。
わたしが、モモと繋がっていることに気付いている。
だけど、それなら、疑問が残る。
(なぜ、そんな寂しそうな顔をするの……?)
モモを閉じ込めたのは、彼女なのに。
彼女がモモを断罪したから、モモは『獄中令嬢』になったのに。
「……モモを閉じ込めているのは、あなたじゃないですか。それなのに今更、何を言うんです?」
湧き出でてくる怒りを抑えて、できるだけ感情を伝えないようにそう言ったわたしに、王太子妃はまぶしいものでも見るような視線を向けた。
「そう、あなただったわね、アイラ・ザクセン。あなたはあの裁判の日、最後まで妹を庇ってくれた女の子」
「『妹を庇ってくれた』? そんなことを言うのなら、モモを牢屋から出してあげてください!」
売り言葉に買い言葉でそんなことを言ってしまったわたしを、王太子妃は叱責しなかった。
代わりに、泣きそうな顔で唇を開く。
「……あの子は、あそこで暮らすのが一番幸せなのよ」
それだけ言うと、視線がこれ以上わたしたちに集まるのを避けるように王太子妃は歩き出し、わたしに背を向けた。
彼女が公爵令嬢だったころならともかく、今の彼女は王太子と結婚し、王族となった身分だ。わたしが呼び止めていい人間ではない。
だから、どれだけ言いたいことがあっても、わたしは彼女を引き止められなかった。
だけど、彼女は最後に、わたしにこう言った。
「……あなたは、妹に会えるのでしょう。あの子が望むなら、あの子を連れ出してもいいわ」
それはきっと、彼女からモモへの伝言だった。
『出たければいつでも、獄中から出て自由になっていい』と。
◇◇◇
「まさか、また会いに来てくださるなんて思っていませんでした」
『復讐レシピ』を完成させた報告に、もう一度牢屋を訪ねたわたしに、未だ獄中のモモはそう言った。
「モモ。あなたね、わたしのことをどれだけ薄情な女だと思っているのよ?」
「だってアイラさん、レシピはもう完成させたのでしょう? これ以上、私になんの御用です?」
「……レシピのお礼を伝えようと思って……」
「そんなの、人形に伝えてくれれば十分ですよ」
「……復讐の結果を、あなたに伝えようと……」
「『傀儡人形』の人形を通してじっくり見物していたので十分ですよ」
微笑みながらわたしの言葉を否定する彼女は、本気でわたしが牢屋に来たのが意外みたいだった。
だから、わたしは腹を決める。
そしてコホンと咳払いをしてから、こう言った。
「……友達に会いに来るのに、理由なんて必要ないでしょう!」
モモが閉じ込められてから一度も、会いに来ることなんてなかったのに。モモはわたしが会いに来ても拒めないのに。それなのに、こんなことを言うのは卑怯かもしれない。
それでも、わたしはモモに友情を感じているのだということを、伝えたかった。
自分の気持ちは素直に伝えた方が後々こじれないということを、今回の一連の事件を通して、わたしだって学んだのである。
モモはわたしの言葉を聞いて一度驚いたように目を見開いたあと、あの美しい笑顔で、クスクスと笑いだした。
「なによ! そんなに面白いこと言った覚えはないんだけど!?」
わたしが頬を染めて反論すると、モモは「すみません」と存外にも素直に謝った。
「でも、ふふっ、そうですね。私たちは友達です! 友達なら、会いに来るのに理由なんていりませんね」
モモが笑ったのを見て、わたしは安心する。それから真面目な顔に戻って、彼女に聞いた。
「……あと、一つ確認したいことがあったの」
わたしが声をかけても、王太子妃はわたしの手元にある人形を凝視している。
そして、ぽつりと言った。
「……あの子は、元気なのね」
寂しそうな顔だった。
その顔を見て、わたしは察する。
王太子妃は、この人形の正体がわかっている。
わたしが、モモと繋がっていることに気付いている。
だけど、それなら、疑問が残る。
(なぜ、そんな寂しそうな顔をするの……?)
モモを閉じ込めたのは、彼女なのに。
彼女がモモを断罪したから、モモは『獄中令嬢』になったのに。
「……モモを閉じ込めているのは、あなたじゃないですか。それなのに今更、何を言うんです?」
湧き出でてくる怒りを抑えて、できるだけ感情を伝えないようにそう言ったわたしに、王太子妃はまぶしいものでも見るような視線を向けた。
「そう、あなただったわね、アイラ・ザクセン。あなたはあの裁判の日、最後まで妹を庇ってくれた女の子」
「『妹を庇ってくれた』? そんなことを言うのなら、モモを牢屋から出してあげてください!」
売り言葉に買い言葉でそんなことを言ってしまったわたしを、王太子妃は叱責しなかった。
代わりに、泣きそうな顔で唇を開く。
「……あの子は、あそこで暮らすのが一番幸せなのよ」
それだけ言うと、視線がこれ以上わたしたちに集まるのを避けるように王太子妃は歩き出し、わたしに背を向けた。
彼女が公爵令嬢だったころならともかく、今の彼女は王太子と結婚し、王族となった身分だ。わたしが呼び止めていい人間ではない。
だから、どれだけ言いたいことがあっても、わたしは彼女を引き止められなかった。
だけど、彼女は最後に、わたしにこう言った。
「……あなたは、妹に会えるのでしょう。あの子が望むなら、あの子を連れ出してもいいわ」
それはきっと、彼女からモモへの伝言だった。
『出たければいつでも、獄中から出て自由になっていい』と。
◇◇◇
「まさか、また会いに来てくださるなんて思っていませんでした」
『復讐レシピ』を完成させた報告に、もう一度牢屋を訪ねたわたしに、未だ獄中のモモはそう言った。
「モモ。あなたね、わたしのことをどれだけ薄情な女だと思っているのよ?」
「だってアイラさん、レシピはもう完成させたのでしょう? これ以上、私になんの御用です?」
「……レシピのお礼を伝えようと思って……」
「そんなの、人形に伝えてくれれば十分ですよ」
「……復讐の結果を、あなたに伝えようと……」
「『傀儡人形』の人形を通してじっくり見物していたので十分ですよ」
微笑みながらわたしの言葉を否定する彼女は、本気でわたしが牢屋に来たのが意外みたいだった。
だから、わたしは腹を決める。
そしてコホンと咳払いをしてから、こう言った。
「……友達に会いに来るのに、理由なんて必要ないでしょう!」
モモが閉じ込められてから一度も、会いに来ることなんてなかったのに。モモはわたしが会いに来ても拒めないのに。それなのに、こんなことを言うのは卑怯かもしれない。
それでも、わたしはモモに友情を感じているのだということを、伝えたかった。
自分の気持ちは素直に伝えた方が後々こじれないということを、今回の一連の事件を通して、わたしだって学んだのである。
モモはわたしの言葉を聞いて一度驚いたように目を見開いたあと、あの美しい笑顔で、クスクスと笑いだした。
「なによ! そんなに面白いこと言った覚えはないんだけど!?」
わたしが頬を染めて反論すると、モモは「すみません」と存外にも素直に謝った。
「でも、ふふっ、そうですね。私たちは友達です! 友達なら、会いに来るのに理由なんていりませんね」
モモが笑ったのを見て、わたしは安心する。それから真面目な顔に戻って、彼女に聞いた。
「……あと、一つ確認したいことがあったの」
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