獄中令嬢モモ・クルツバルグの華麗なる復讐レシピ

ひるね

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王太子妃ロザリー

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「……決着はついたようね」

 会場の奥から、声の持ち主が現れる。
 モモによく似た金髪とピンク色の瞳をもつその女性は、この国の王太子妃だ。

 名前はロザリー・アルサフィア。旧姓を、ロザリー・クルツバルグという。

 そう、クルツバルグ。彼女は、モモの姉である。

「妃殿下、お騒がせして申し訳ありません。しかし、これには事情があるんです……!」

 カートがなおも言い訳を重ねようとするが、王太子妃は片手を挙げただけてそれを制した。

「カート・ヴィゼン。あなたの言い分はすでに聞かせてもらいました」
「でしたら……!」
「いいえ。あなたのこれまでの挙動に加え、本日わたくしの主催する夜会で狼藉を働いたこと、到底許せるものではありません。リオナ・ヘッセ。あなたもですよ」
「ちょっと待ってよ、悪いのはあたしじゃない! 誘いに乗ったのはカートの方だし、そもそも婚約者をうまく御せなかったあの女さえいなければ、こんなことにはならなかったじゃないっ!」

 わたしを指さしながらリオナはそう言ったが、それを聞いた妃殿下は眉根をよせて、かすかにため息をついた。
 たったそれだけの仕草が、絵に残したいほど美しい。

「あなたはわたくしに、これ以上恥をかかせるおつもり? まだ続けるようなら、こちらも相応の手段をとりますよ」

 上に立つ者特有の威厳を纏った、有無を言わせない宣言を聞いて、カートもリオナも言葉を詰まらせる。
 そして、王太子妃が動かした視線の先にいるのは、彼女の護衛騎士だ。

 これ以上二人が口を聞けば、王太子妃の意を汲んだ騎士によってカートとリオナの身柄は拘束されるだろう。

「アイラ・ザクセン」
「は、はい」
「あなたは何を望みますか?」
「え……?」

 急に話しかけられ、何を言われたのか一瞬理解できなかったわたしに向かって、王太子妃は穏やかな声音で続けた。

「あなたが、カート・ヴィゼンをフォローするためとはいえ身を粉にして働き、王国に尽くしてきたことを、わたくしも王太子殿下も知っています。だけど彼は、あなたの誠意を踏みにじって浮気をし、それだけでなく、衆目の前で婚約破棄をして名誉すらも奪おうとした。到底許されるべき行いではないと、わたくしは考えます」
「……」

 モモの姉が、わたしを庇うようなことを言うのが意外だった。
 あの子を獄中に閉じ込めたのは、この人なのに。

 わたしは、ドレスの裾にこっそり忍ばせていたガラス玉の瞳の人形を、ぎゅっ、と掴む。
 だけど、人形は何も反応しない。
 その代わり、モモによく似た女性が、わたしに向かって微笑んだ。

「ですが、今回の件の、一番の被害者はあなたです。だから、あなたに選ぶ権利を与えましょう。カート・ヴィゼンとリオナ・ヘッセに、あなたはなにを望みますか?」

 どうやら王太子妃は、わたしにカートとリオナをどう処断するべきか、意見を聞いてくれるらしい。
 ここで発言すれば、彼女は王族としてのプライドにかけて、望みどおりの処罰を、確実に実行してくれるだろう。

 だから今このときが、わたしの復讐の、最後の仕上げの瞬間だった。
 わたしは大きく息を吸って、それから、王太子妃に向き合った。

「……正しく、公正に裁きを受けることを望みます」
「カートが裁きを受けてもいいのね? あなたはずっと、彼を愛し、信じていたのでしょう? そう噂されていますよ」

 そう言ったときのいじわるな笑顔を見ると、やはり彼女はモモの血縁なのだと実感する。

「……婚約破棄を面と向かって告げられたこと、その後のカート様の言動をみて、わたしも目が覚めました。カート様とリオナ嬢には裁きを受けて、もう二度と、わたしの人生に関わらないでほしい。それで十分です」
「わかりました。では、あなたの望み通りに」

 王太子妃が片手を上げると、会場を警備していた衛兵たちが近寄ってきて、カートとリオナを捕縛し、連行していった。

「アイラ、父上! 話を聞いてくれ、僕は騙されていたんだ!」

 去り際に、カートはそんなことを言っていたけれど、わたしはもちろん侯爵も何も聞こえていないかのように反応しなかった。

 あの二人はこのあと、犯罪者として収容される。
 モモのような特別製の地下牢ではない。あれは元公爵令嬢という身分と魔術の才能があってこその待遇だ。

 そしてしばらくしたら、裁判にかけられるはずだ。
 侯爵がカートの減刑を求めれば結果は変わってくるだろうが、今日、王族の前でこれだけ恥をかかされたのだ。カートの廃嫡は避けられない。侯爵は血縁から養子を迎えることになるだろう。
 そして二人を待ち受けているのは、おそらく……貴族として生まれた者にとって、最も悲惨な結末だ。

 しかし、その境遇に同情するつもりは微塵もない。

 他人を軽んじる者は、他人からも軽んじられる。
 これはたったそれだけの話で、だからこそ当然の結末だ。
 もう二度と、この国の社交界で彼らを見ることはない。彼らの噂を聞くこともない。

 わたしはそれで満足だ。
 つまりこれで、わたしの復讐は完了したのだ。

 わたしは息をついてから、ドレスの裾に忍ばせていた人形を取り出した。

「ありがとう、モモ。すばらしくスッキリした気分だわ」

 しかし、返事がない。ぴくりとも動かないそれは、まるでただの人形だ。
 なぜだろう、いつもならすぐに反応するのに、と思っていると、こちらを凝視する視線に気づいた。
 そこにいるのは、王太子妃しかいない。そしてその視線は、わたしの手元に向かっている。

 王太子妃が、わたしの手元にある、人形を見ていた。
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