NoVA ―戦場の少年兵〈無意識イケメンキザ真面目スケベ野郎〉、異世界で“愛欲”を知る―

AL

文字の大きさ
2 / 10

第1話 女との邂逅

しおりを挟む
草むらが揺れる。星空を仰いでいたジョンは、背後から突き刺さるような殺気を感じた瞬間、義眼に赤い警告が走った。反射より速く、首を横に振り、右腕で矢を掴む。

「……やっぱり、いたか」

バランスを崩して地にうつ伏せに倒れ込む。片腕片足を失った身体では、それ以上の回避は不可能だ。それでも彼は視線を森に向け、口の端を歪める。

「悪いな……気配は拾えなかったが、殺す気だけはバッチリ伝わったよ」

義眼のエラーコードを必死に絞り込み、森の影に“揺らぎ”を見つける。ぼやけて輪郭が定まらないその影に向かって、血に濡れた声を吐き出す。

(音は…無理か。匂い…震動………これも無理か…)

敵の探知のために視覚以外にも色々な手段を用いるが見つからない。

(…仕方ない。リスクはあるが、……ヤるか)

「隠れてるなら……せめて、名前くらい教えろよ」

わざと相手を挑発してみたが、返答はなかった。代わりに、二射目の矢が空を裂く。今度は速い。鋭い。容赦も油断もない。ジョンは動けなかった。ただ、矢が眉間を貫く寸前――

ストンッと矢が止めようとした右手のひらを貫通して頭に命中したように見えた。

やがて、弓を携えた褐色の女が姿を現す。切れ長の瞳に驚きの色を宿したまま、彼を見下ろしていた。

「……ありえない。一射目のを躱すなんて……」

「今回も、命は取れてないぜ」

死体が喋った事により、女は飛び退き間合いを取る。その顔は驚愕に彩られておりなぜ生きているか疑問でしかなかった。

ジョンは二射目の時、敵の探知を諦め、ただ矢の来るであろう方向に賭けた。森は正面しかない。ならば狙うとしたら、死角となる左腕側だ――そう読んでいた。案の定、矢は左から放たれる。

義眼に赤い閃光が走り、首をわずかにずらす。次の瞬間、右手を突き出す。鋭い矢は手のひらを貫き、甲から突き抜けた。激痛と血飛沫が夜気を裂く――だが、その瞬間、彼の指は矢を握り込んでいた。

「……止まれッ」

肉を裂かれ、骨を砕かれながらも、その手は離さなかった。矢は眉間に届かず、ジョンの頭を貫くこともなかった。手を貫かれながらも握り潰して止めたのだ。

敵から見れば、矢は頭部まで突き抜けたようにしか見えない。血と角度を利用したその細工は、死を偽装するには十分だった。だが事実はひとつ――彼は“掴んで止めた”のである。

だが、その代償は大きかった。
体は限界。呼吸は荒く、視界は赤に染まる。だが、まだ死んでいない。その異常な生存力に、森の影はわずかに揺らめいた。

数分後、森の方からガサガサと草木を掻き分ける音を聞き、攻撃してきた者だと分かる。意識が霞んでも、ジョン…そしてナノマシンがその微かな情報から勝手に処理を始める。重さ、歩幅、呼吸のリズム。答えは脳裏に勝手に浮かぶ。――女、身長は170前後、体重は80キロ…いや本人の体重は60そこそこだろう。武器は弓とナイフ。

「どうするか…」と心の中で呟く。敵は探知できない手練れ。こちらが話しかけて逃げられればもう一度、戦闘する可能性は大いにある。だが、ここで殺すとなるとそれもそれでリスキーではある。どちらもハイリスクには代わりがなかった。

声を聞いた瞬間、霞む意識が妙に冴えた。死にかけのはずなのに、その声だけが鮮明に響く。全ての計算がどうでもよくなった。理屈も理由もいらない。彼が迷う理由はなくなった。

彼は生粋のーースケベであった。

ジョンは血に濡れた笑みを浮かべ、掠れ声で言う。
「……殺されるなら女がいい。できれば綺麗どころが。惚れた」

その言葉を最後に、ジョンは力尽き、静かに意識を手放した。視界が赤から黒に沈む中でも、口角だけは僅かに吊り上がっていた。その笑みは血に濡れた死神のそれ――だが同時に、誰にも抗えぬ奇妙な引力を宿していた。吐き出す言葉は場違いなほど軽いのに、その声色は不思議と耳から離れない。冷徹と滑稽が同居した矛盾の存在。それが逆に、女の心を揺さぶった。

女は息を詰め、足を動かせなかった。恐怖が背筋を這い上がるのに、視線を逸らせない。死にかけのはずの人間が、まるで死神そのものに見えたからだ。――それなのに、胸の奥で小さな火が灯るような感覚を覚えてしまう自分がいた。


ーーー


ジョンの目に映ったのは、暖炉の赤い光に照らされた石造りの地下室だった。壁はひび割れ、天井には湿気が滲み、古びた梁からは乾いた苔が糸のように垂れている。だが、棚には薬草の束や瓶詰め、机には地図とメモ、解体途中の小物が散らばり、暖炉の脇には鍋と水差し、畳まれた毛布――ここがただの倉庫ではなく、誰かの巣だと分かるだけの生活の匂いがあった。

「……地下か」

毛布に横たえられたジョンは、かすかに頭を動かす。硝煙も血の臭いもない。代わりに薪の焦げる甘い匂いと、薬草の苦みが鼻腔に残る。左肩の断面はきつく圧迫固定され、右足の付け根も同様にしてあった。右手のこうには荒い糸の縫い目。胸の奥まで響く痛みはあるが、致命の刃は鈍く丸められている。遠くで、小さな鈴が風に触れたように鳴った。罠の見張りだ、と直感する。

「……起きたか」

低く、澄んだ声。
炎の向こうから現れたのは、褐色の女だった。白銀の短髪はまっすぐ額を切り、動くたびサイドの刈り上げが一瞬だけ覗く。切れ長の瞳に灯った金の光は、熱ではなく温度を測るようにこちらを値踏みする。腰にはタクティカルナイフ、指には弓のタコ。動きに無駄がない。

「……人間? こんな森にひとりで?」

彼女は確かに先ほど矢を放った相手だ。ジョンは重たい瞼をこじ開け、乾いた笑みを漏らす。

「助けてくれて…ありがとう。弓矢のご挨拶はちょっと効いたがな」

質問の答えになっていないためか、彼女が少しムッとした顔をする。だが、それは瞬時に消えジョンの質問に答える。

「殺すつもりだったけどね。……でも、興味が湧いた。死にかけてるのに、生き延びるし、笑うなんて……変な奴」

声の温度は冷たく警戒が混じっている。それでもほんの僅かに、別の色――目の奥で好奇心と説明できない引力のようなものが滲んで揺れるのが見えた。女は棚から小瓶を取り、手首だけで栓を抜く。薬草の匂いが強まる。

「飲めるか。止血と熱さまし。毒は入ってない」

「確認が早いな。俺が疑うタイプに見えるか」

「見える。あと、生き汚い」

ジョンは喉を鳴らし、渋い液体を流し込む。舌が痺れ、胃の底に小さな火が落ちた。石壁の冷気が背へ抜ける。

ジョンは口角を吊り上げる。
「俺を助けた理由は……利用価値? それとも……惚れたかい?」

「……黙れ、半死人」
女は片眉をわずかに上げ、間を一拍だけ置く。吐き捨てるような言葉とは裏腹に、瞳の奥にわずかな揺らぎが見てとれる。

焚き火の赤に照らされながら、彼はぼんやりと女の輪郭を目で追った。しなやかな線、無駄のない所作、刃のような声。なのに耳から離れない。
――この女、泣かせてぇな。

次の瞬間、視線が下に落ちて、思考が止まった。
「……って、待てよ。俺……ねぇじゃん」

下半身にあるはずのものがない。その事実を再確認し、暖炉の赤が揺れ、鈴が遠くでかすかに鳴った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

処理中です...