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【Memory_2】
16.私の精一杯
しおりを挟む急に、目の前に人影を感じた。
誰かなんて、そんな野暮な答えは分かっていた。
「私だって、いつまでも守ってばっかりじゃ、いられない!!」
「リリィ…」
目を開けると、後3秒程で体に突き刺さりそうだった槍は見事に俺の周りを避けて地面に突き刺さっていた。
とても大切で、大好きな少女の名前を呼ぶ声が震える。
俺はなんて情けない男なんだ。
初めて出会った日から守られてばっかりで何もできない非力な男。
情けない話だがこんな時にレイトがいてくれたら、と無意識に何度願っただろう。
対してレイト大好き女は薄い膜のような防御壁を身に纏った少女の出現に、また癇癪を起こしていた。
「生意気…!ゴミみたいな力しか持ち合わせていないくせに!その程度で彼を落とすなんて無駄なのよ!無駄!直ぐにそんな結界破って見せるんだから!」
「そうだね。私、結界魔法も攻撃魔法も本当は物凄く苦手なんだよ」
その言葉を皮切りに猛攻は先ほどより何倍も勢いを増した。
何度も槍を飛ばしては来るが、時空そのものが歪んでいるのかリリィを避けるように少しズレて何本も地面に突き刺さる。
何せ、魔法の事なんて何も分からない俺には状況整理だけで精一杯だ。
リリィは俺の目の前に立ち、俺を守るだけの受け身の防衛戦。
そんな扱いをされているのがとても恥ずかしい事だと思ったし、同時にとても申し訳なくなった。
「早く死ね!ウザいんだよいい加減!死ね…死ね死ね死ねー!!」
「死ねなんて、簡単に使っちゃダメって言ってるでしょ!」
「うるさい!いい子ぶってんじゃないわよ!」
「貴女こそ、いい加減人の話を聞いたらどうなの!?」
その言い合いの間に30本以上は槍が飛んできているだろうか。
魔法間でのやり取りに目視でも俺はついていけないまま、この場に取り残されていた。
ただ、何本かに一回は彼女が処理できるキャパを超えて体を掠めているのは分かる。
「へへ…ごめんね、ミコト。これが、私の精一杯なの」
俺の分析を肯定するかのようなタイミングで少し首を後ろに向けて笑った。
呑気に笑ってはいる風に見えるが、案外笑い事ではない。
その間に何度も小さい体に鋭利な槍先が体を掠め、時には小さい槍が腕や脚に刺さっている。
「ごめん、…俺こそ、弱くてごめん」
「あのね。私の魔法は1人の対象者に、とても強い結界しか張れないの。」
「………は?」
刹那、一瞬で頭で考えていた事が真っ白になって消えた。
同時にズシュ、ズシュと何かに食い込んだような不快音が聞こえてくる。
目の前で起きている光景に目が奪われて頭が混乱する。
俺は勘違いをしていたんだ。
リリィはずっと自分に結界を張っていた訳じゃない。
原理で言えば、空間を少しだけ曲げて槍が当たらないような魔法を使っていたんだろう。
その間、ずっと俺に結界が貼られていたんだ。
リリィに見た薄い膜は、彼女と俺の間に見えた、俺に張られた結界の膜。
その事に気付いた瞬間に俺は今の状況を理解した。
理解して吐きそうな程、とてつもなく気分が悪くなった。
やめてくれ。
やめてくれ。
この子が、一体何をしたって言うんだ。
氷の槍が刺さる音を間近で聞く度にそう何度も思いながら強い力で結界を叩く。
何度も、何度も、何度も手が痛くなるのも御構い無しに叩いた。
涙が溢れて止まらないがそれすらも凍る。
俺は泣きながらずっとリリィの名前を呼ぶ。
声にならない叫びを喉から捻り出す。
ここから出してくれ。
俺が盾になるから。
俺ならどんな痛みでも耐えれるから。
守りたいのは、守らなきゃいけないのは、俺の方なのに。
「リリィ…もういい!俺の事は、もういいから…」
喉の奥から絞り出した、何とも情けない声。
非情にも目の前で冷たく純白な雪に赤い鮮血が色を付ける。
薄着の聖女の神衣は、呆気なく血に染まっていく。
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