聖なる祈りは届かない

浅瀬

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18.憎悪

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 無我夢中で手に握った氷の槍は思ったより冷たかった。
 素手で触っているためか、乾燥した掌の皮膚に張り付いて気持ちが悪い。
 氷を口に入れた途端にペタペタと張り付く様な感触にとても類似している。

 このまま槍を投げたら、確実に皮膚ごと持っていかれるだろう。
 皮膚ごと剥がれるその瞬間を少しだけ想像して、掌が不思議と痛んだ。

 だが、気にしている余裕など俺にはない。
 頭の中には、怒り、悲しみ、憎悪と人間として良くない感情ばかりが埋め尽くしていた。
 そんな状態で、自分のことなど厭う余裕もなく。

 例え、自分の皮膚や体がどうなろうと、元から諦めていた命だ。
 ここまで生きながらえていただけでも褒め称えてやりたい程なのに。
 特筆するほど、今更縋る理由もない。

 「惨めねえ。人間ってほんっとうに惨め!」

 今だに笑い続ける、心無い女の言葉で更に激しい憎悪が芽生える。
 こいつが来なければ、俺が軽率に扉を開けなければ、…レイトが、ここに来なければ。
 たらればの話ばかりが頭の中に浮かんで離れない。






 許せない。






 許せない、


 








 許せない許せない許せない許せない。







 赦す事も、理解する事も、出来る訳がない。


 第一、こちらの言い分を何も聞かず暴れた挙句、惨めと罵ることなど許せる訳がない。
 俺のこんな気持ち、誰にも理解できないだろう。理解して貰うつもりもない。
 仕方ないとかそんな言葉で済んでいいはずがない。そんな簡単に切り離せる気持ちじゃない。


 自己中心的な話だが、俺にだって誰かを幸せにする権利だってあるんだ。
 ただ1人、こんな自分を求めてくれた人と幸せになる権利は当たり前の様に、あったはずなのに。

 一瞬、目を閉じれば浮かんでくるのは初めて出会った日の笑顔。
 2人で料理を失敗した日だって、一緒に星を見に夜更けに出掛けた日のことも思い出せるのに。
 思い出そうとすればするほど、目の奥がツンとして涙が出てきそうになる。
 
 今にも死んでしまいそうで、俺のことを命がけで守ってくれた。
 誇れることではないけれど、国を捨ててまでこんな俺を選んでくれたリリィを。
 

 「______お前なんかに、あの子を罵倒する資格なんてない!!!!」


 沢山の思いを乗せた俺の声は喉が切れるくらい、張り上がっていた。
 そうすることしか、憎しみの行き先を決める事ができなかった。


 「その女だけじゃないわ、あんたも惨めね!!
  そんなに大切なら!!!!」



 その言葉に、腹立ちすぎて槍を握りしめる。
 俺の体の熱でどんどん解けて行く氷はやがて水になる。
 水はやがて、俺の滲んだ血と混ざり雪に色をつけて行く。


 「…言われなくても、一緒に死んでしまいたいと何度も思うよ」

 ふと、不思議と口角が緩み、笑顔を顔に浮かべた。
 何処かで気持ちが弾け飛んだだけかもしれないが、気持ちが楽になった。
 まるで元々使えたかの様に、力任せだが手に持っている槍を投擲する。

 何本も、何本も、地面に刺さっている全て、彼女が受けた痛みの数だけひたすらに投げ続けた。
 当たっているのか掠っているのか、それすら確認する事が出来ないほどの吹雪。
 意識も遠のきそうなほどの寒さの中、がむしゃらに投げる事しか出来ない。

 「そんな単調な攻撃、当たらないわよばーか!」
 
 手の皮膚がいくら持っていかれようが、痛みは不思議と感じない。
 足元には何滴も俺の血が垂れ、本当は叫びたいくらい痛いはずなのに。

 「そうだな」

 思考は存外透き通っていて、投擲をしながら徐々に前に進み距離を縮めて行く。
 相手はそれに気付いていないのか、吹雪で目視確認が取れていないのか依然、呑気なままだ。

 「無駄!無駄なのよ!早く私をレイトの元に案内なさい!」

 段々と調子に乗ってきたのか、要求までする様になってきた。
 ハリネズミの針のように大量の槍を何度も抜き、投げ、脇に抱える。


 「ねえ、耳ついてんの?はーやーくー」




 漸く、女に近付けた俺は最後の槍を手に持って女の前に立った。
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みんなの感想(2件)

海王星型惑星

追記
少し上から目線で偉そうな感想になってしまいました。
申しわけありませんでした。

2020.01.08 浅瀬

海王星型惑星 様
貴重なご感想ありがとうございました。
お恥ずかしい話ですが、まだ仕様に慣れておらず、お返事遅れてすみませんでした。笑

公開初日に見初めていただき、正直驚きを隠せておりません。
画面の向こうで新着通知を見た時、大袈裟かもしれませんがひっくり返るかと思いました。

まだまだ未熟な私にメッセージありがとうございました。
読まれた全ての作品に感想をつけているマメな方かどうかは存じ上げませんが、
上から目線などととんでもございません。
私にとっては貴方が第1番目の読者であります。

拙い面は多々あると思いますが、どうか飽きがくるまで応援頂けると幸いです。
また話が進むに連れ思うところはあるかとは思います。
その際には是非またご意見を寄せて下さいませ。
感謝を込めて。

浅瀬

解除
海王星型惑星

読みやすく、面白そうだなと感じました!
これからどうなるのか気になります。

忙しいと思いますが、執筆活動頑張って下さい。

解除

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