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第一章
第二話 『ゼラ』
しおりを挟む「ふぅ……。ま、こんなもんでいいか」
ちょろちょろと動き回る色ネズミの捕獲は決して簡単なものではなく、かなりの速度と体力を要求する。
目標数は達成した、と判断したアルカは、色ネズミが詰まった麻袋を持って、次の目的地に向かい、ゆっくりと歩き始めた。
先程の色ネズミを捕獲した場所から歩いて三分程経っただろうか、水のせせらぎが聞こえて来た。
地面は剥き出しの土よりも、草に覆われている場所が多くなってきた。
スラムの建物もまばらになり、遠くの方に地平線へ隠れようとする太陽が見える。
背の高い草をかき分け、川の方へと進んでいく。
汗だくの身体に草がぺたぺたとはりつくという不快感を覚えるアルカ。だがそれ以上に川に行きたい気持ちがアルカを急かす。
ようやく草を抜け、砂利が地面を覆う河川敷に辿り着く。
ここもアルカが毎日のように通う場所。
水の流れる音は色ネズミを捕まえた後の疲れた体を癒し、運動して汗だくの身体を綺麗にしてくれる。
背の高い草に囲まれ、人が来ることもない、いわばアルカだけの秘密基地―――のはずだった。
「ありゃ、見られちゃった」
川の真ん中に佇む裸の女性が、舌を出しながら明るくアルカに笑いかける。
滅多に見ない黒い髪が、水に濡れて色っぽく輝く。その色っぽい髪とは対照的に、無邪気で明るい幼い顔立ち。
ともすればアルカと同じくらいの歳に見えてしまうほど幼いのだが、その大きな胸が真っ向からその可能性を否定する。
「……」
そんな女性に、無言で熱烈な視線を送り続けるアルカ。
無言の時間というものは、得てして長く感じるもの。そんな間に耐えかねた女性が恥ずかしそうに笑いながら口を開く。
「そんなにじっくり見られると……ちょっと恥ずかしいなぁ」
「あ、すいません。目に焼き付けてました」
「えっちだ!」
「えっちです!」
飄々と答えるアルカに少し驚くような顔を見せてから、女性が笑い出す。
女性が川から上がりタオルで身体を拭く。アルカは麻袋を地面に置いて、そばにあった岩の上に腰を落ち着ける。
「キミはよくここに来るの?」
横で服を着替えている女性がアルカにそう尋ねる。
「ほぼ毎日っす」
「ふ~ん」
自分から聞いといて興味ないんかよ、と女性の反応に心の中で突っ込むアルカ。
着替え終わった女性が、アルカの隣に座る。
「私はゼラ」
「……へぇ」
女性が自らの名を名乗る。だがそんなゼラにアルカは、仕返しと言わんばかりの素っ気ない態度。
そんなアルカの様子を見てクスリと笑ったゼラは、アルカの顔を覗き込むようにして、
「キミの名前、教えて?」
「ア、アルカっす」
と、悪戯っぽく尋ねる。
可愛らしいというより、あざといと言えるゼラの態度に思わず視線を逸らすアルカ。
「それにしても、この場所に人が来るなんて驚いたなぁ」
「俺も驚きました。何年も誰もいなかったのに」
「あはは、そうだよね。私も五年ぶりくらいかな。まぁ、普通こんな草むらに入ろうとは思わないよね」
「五年って……。何歳なんすか?」
五年ぶり、という言葉に反応してアルカが尋ねる。
確実にアルカよりは年上だろうが、およそ歳の予想がつかない。
「う~ん……。あ!何歳だと思う?」
「えぇ……。20とかすか?」
「ぶー!惜しいけど残念!次はアルカくんの番」
「14っす、多分」
「多分って、適当だなぁ」
ゼラがあはは、と笑うが、アルカには笑わせるつもりも、適当に言ったつもりも一切ない。
「いや俺、記憶喪失なんすよ。五年くらい前に、気付いたらスラムにいたんす。名前と歳以外覚えてなくて。だから歳が合ってるかも分かんないんす」
「ありゃ、そうだったの、ごめんね。でも、記憶喪失になる前のことを覚えてる人はいないの?親とか」
「親はいません。今は拾ってくれたじじぃと二人で暮らしてます」
「そっか、じゃあ私と一緒だ。私も親の顔は見たことないんだ」
話の内容とは裏腹に、どこか楽しそうな声で話すゼラとアルカ。
だが、二人の視線は、何かを思い出そうとするように空の彼方へと向けられ、寂しさを感じでいるようにも見える。
「五年くらい前まで、近くの孤児院にいたの」
「孤児院すか、羨ましい。パンとか食べてみてぇなぁ……」
「羨ましい、かぁ……。確かにパンも出たことはあるけどね。でも、私は自由なキミが羨ましいよ。孤児院は良いとこだけど、自由に外に出たりは出来ないから」
「え?でもここには来てたんじゃないんすか」
先程の発言と矛盾したゼラの言葉に、思わずゼラの方に振り向くアルカ。
ゼラもまたそんなアルカの方を向き、
「そ、よく院長に叱られてたよ」
「アホっすね……」
顔を向かい合わせて二人が笑い合う。
と、アルカの横にある麻袋に気づいたゼラが、
「その袋は何が入ってるの?」
と尋ねる。
「あぁ、これ。色ネズミっす。これが俺達の普段の飯なんすよ」
そう言うとゼラは、顔を顰めて、臭いを嗅がないように、と鼻を摘まむ。
「うぇ、あんな臭いのよく食べれるね」
「食うか死ぬかっすから、好き嫌いしてらんないす。それに、死ぬと臭いはマシになりますよ、味はクソ不味いすけど」
そんなゼラにアルカも顔を歪めて不味いことを表現。
「だよね……。それにしても、一人……あ、お爺さんと二人か。二人でそんなに食べるの?数十匹くらいいそうだけど……」
パンパンになった麻袋を指差して、ゼラは不思議そうな顔でそう問いかけた。
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