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第1部 SHU始動編
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事後処理は支援班が行った。
周囲の景観の保全、記憶の攪乱、情報処理、記録。
今回の功績者である第1・4小隊は、SCHに留まらず世界各国の事情を知る者から賞賛された。
長らく日本を密かに脅かしていたウラユビケンタの撃破。
当分語られる功績だ。
同時に、W.T.w.Tが解析したウラユビケンタの過去に同情も寄せられた。
両親の死により親戚をたらい回しにされ、引き取り先で虐待を受け、学校ではその事情から担任からもいじめを受ける。
そんな中殺傷能力のある特異性を発現すれば、自分の障壁を殺してしまうのは無理もない。
その後の殺人を過去の経験を持って正当化することはできないが、意図は認められる。
ウラユビケンタはとにかく、悲しい少年だった。
消滅、すなわち死亡の要因も肉体の損傷ではなく、特異性の過剰使用からだと、後に判明した。
悲しい、幼い少年だった。
ヒナタはその少年を、殺した。
周囲は自分のことを高く持ち上げてくれるが、彼の物語を聞いて心を痛めている。
・・・・・・。
(正しいことをしたのだろうか。)
その疑念ばかりが彼の頭を占めていた。
後悔していた。
その様子を見てカイトが諭す。
「ヒナタが殺したんじゃない。世間が殺したんだよ。罪があるのなら、それはヒナタだけが背負っていいものじゃない。」
それでも心のわだかまりは解けなかった。
そこでカイトが言った。
「家来なよ。」
カイトは家に一人でいることが多い。
父親は交番勤めの警官で、家にいることの方が稀だ。
母親はカイトが中学に上がった頃交通事故で亡くなった。
ヒナタも彼女の葬儀に参加したが、遺体はどこか歪んでいて、恐怖を覚えた経験がある。
「なんなら泊ってってもいい。」
カイトが言った。
「いや、泊るのはいいや。」
ヒナタは答える。
「でも晩ご飯くらいは一緒に食べよ。」
「うん・・・。」
公衆電話でヒナタは母親に夕食がいらないことを伝え、帰路に就いた。
夕日が山の淵に触れて輝きを増していた。
濃い橙の熱い陽が二人を横から照らす。
反面影は極端に黒く、地面の凹凸さえ影が覆っていた。
「暑いね。」
「俺はそんなんでもない。」
「そう?」
カイトの家は学校から北に1キロメートル歩いたところにある。
平屋の一軒家で、2年前に越したばかりだ。
家に着き、カイトは早速夕飯の支度にとりかかった。
「アレルギーとかなかったよね。」
「俺はないよ。」
弟にはあるけど、と普段のヒナタならつづけたが、今日はそうしなかった。
リビングとキッチンが一つの部屋の中にあるから、カイトがフライパンを振っているのがソファに座っていても見れる。
156センチの身体はヒナタから見れば少し小さかった。
「ヒナタ、これそっちに持ってって。」
とカイトは完成した料理を示して言った。
肉野菜炒めだった。
白米とわかめの味噌汁もあとからカイトが持ってきた。
いい香りが二人を覆う。
「いただきます。」
炒め物からたれや油の焦げた香りが立ち上がる。
口の中にそれを入れると、肉から出た油がキャベツやニンジンを装飾して香りづけている。
たれの香りとそれが絡んで、鼻を抜けていく感覚が心地よい。
甘辛の味付けが米を食えと催促する。
うまい。
「前よりおいしくなった。」
ヒナタが言った。
「もう3年経とうものならね。」
とカイトが答える。
静かな食卓だった。
食べ物の熱さに息を漏らす音や味噌汁を啜る音が響く。
それが静寂を強めている。
でも気まずくなかった。
二人の信頼が故の食卓だった。
固定電話が鳴った。
ヒナタの母親からだ。
あと数十分で迎えに行くとのことだった。
「じゃあ風呂入る?」
とカイトが聞いてきた。
「そうしよっかな。」
「じゃあお風呂の用意してくるね。」
「ありがとう。」
カイトが食器を流しに入れ、そのまま風呂場へと向かう。
ヒナタもまた食器を流しに入れ、洗うことにした。
スポンジを泡立てて食器を擦る。
油から何まで落ちていく。
水で泡の付いたものをすべて洗い流したところで、カイトが戻ってきた。
「あ、食器ありがとう。あと20分もすれば沸くから待ってて。」
「ああ、ありがと。」
何度か水の噴出する音が鳴り、時間をかけて風呂が沸いた。
それまでの間二人はテレビを見ていた。
よく見るバレエティだが、出演者が笑っているのを見て次第に見るのをやめた。
「先入っていい?」
ヒナタが聞いた。
「あ、ねえ。」
カイトが言葉に詰まる。
「何?」
「一緒に入ろ?」
ヒナタから見て、カイトの身体は細かった。
もちろんトレーニングをしているから筋肉がないわけでもない。
だが肌の白さも相まって病弱に見えた。
対するヒナタの身体はたくましかった。
がたいがいいわけではなく、ただ戦闘員らしい筋肉がついた華奢な中学生。
そういう身体だった。
ただヒナタの背中の傷は隠せそうにもない。
身体を洗うヒナタを、カイトが浴槽に浸かりながら見て言った。
「背中、痛くないの?」
「これ? グリーン・グリーンに手当てしてもらったから別に。」
「そう、ならよかった。」
身体に付いた泡をシャワーで流したヒナタが浴槽に沈んだ。
水位が上がり、湯が少し溢れ零れる。
二人とも膝を抱えて座っていた。
白い湯気が浴室に充満している。
「ヒナタ。」
「・・・。」
「まだ考えてるんでしょ。」
「・・・ごめん。」
「ヒナタのことだもん。そんなもんだよ。」
「でも俺、どうしても許せなくてさ。」
「何が?」
「・・・・・・わからない。何を責めればいいのか、判らない・・・!」
「ヒナタ。」
カイトがヒナタの首に腕を回した。
そのまま彼を抱きしめる。
「・・・カイト。」
「これが戦うってことなんだよ、きっと。正しさとか、そういうのなんて関係ない。でも失くしちゃいけない。失くしたら今のヒナタじゃなくなっちゃうよ・・・。」
カイトがヒナタの胸元で泣き出した。
(僕だって我慢してたのにさ。)
「なんでカイトが泣くのさ。」
「だって・・・・・・。」
ヒナタの目が潤んだ。
涙が浴槽の中へと溶けていく。
ヒナタの腕が自然とカイトの背中へと回る。
二人して泣きあった。
幼子のように。
しばらく二人は感情を涙に替えていた。
ヒナタの母親がカイトの家に迎えに来た。
「夜遅くまでごめんなさいねホント。お父さんは今日は・・・」
「仕事です。」
「あらそう大変ねぇ。」
カイトも彼女のおしゃべりを知っていた。
ここまでよくしゃべる人はカイトの生活の中で彼女だけだったから、正直苦手だった。
母親の後ろにユウヒもいた。
母親とは対照的な、親友の弟とは今でも交流がある。
読書の趣味が似通っていた。
「それじゃあ、お休みカイト。」
ヒナタが切り出した。
それに続いて母親も別れの挨拶を紡ぐ。
「おやすみなさいカイトくん。」
「お休み。」
ユウヒも小さく手を振りながら言った。
「ええ、じゃあね。」
カイトも返す。
そうしてカイトはまた、家に一人でいた。
いつも以上に静かに感じる。
チラシを丸めて、それを殴って線でつないだ。
ソファに仰向けに寝転んで、ヨーヨーみたいに天井目掛けて投げてみる。
適当に投げても必ず自分の手の中に納まる。
カウボーイ。
カイトの特異性。
先の戦いを思い出していた。
(これから先、僕は役に立てるのかな・・・。)
ヒナタは自分のベッドで横になっていた。
眠れずに、ただその場で寝転んでいる。
カイトの言葉を思い出していた。
(『正しさを失くしちゃいけない』、か。)
ヒナタの思う、ヒナタの正しさ。
それはきっと、いや間違いなく、子供たちを守ること。
その一点だ。
今改めて、確かに心に刻んだ。
子供たちを守る。
そのための特異性。
そう信じて、彼は眼を瞑った・・・。
「ねえ、ここ居心地悪いって、なんかどうにかならいの? はるきの能力でしょ?」
「しょうがないじゃんか使うと疲れるんだから。」
「ねえお腹すいた、なんかないの?」
「黙ってろえりん。」
「うるさいなあゆうき!」
「話聞け。いいか、この前言った施設、おぼえてるな?」
「え、なにそれ。」
「ゆうき、えりんを殴れ。」
「いっった!!」
「そこにいる職員とかのを全員ぶっ殺す。いいな?」
「だいき、それ作戦なの?」
「リーダーって呼べ。いいか? 俺たちペッパー団としてのはじめての作戦なんだ。全力でやれよ。」
「はぁあわかったよ。」
「ねえごはんーっ!」
「あとでだっての!」
「うるさいなあ!」
「うるさいのはお前だろ。」
「お前らだよ!!」
「いった!」
「っつつ・・・。」
「ほら、あともうちょっとで施設につくから、それからご飯にしよ。」
「うん!!」
周囲の景観の保全、記憶の攪乱、情報処理、記録。
今回の功績者である第1・4小隊は、SCHに留まらず世界各国の事情を知る者から賞賛された。
長らく日本を密かに脅かしていたウラユビケンタの撃破。
当分語られる功績だ。
同時に、W.T.w.Tが解析したウラユビケンタの過去に同情も寄せられた。
両親の死により親戚をたらい回しにされ、引き取り先で虐待を受け、学校ではその事情から担任からもいじめを受ける。
そんな中殺傷能力のある特異性を発現すれば、自分の障壁を殺してしまうのは無理もない。
その後の殺人を過去の経験を持って正当化することはできないが、意図は認められる。
ウラユビケンタはとにかく、悲しい少年だった。
消滅、すなわち死亡の要因も肉体の損傷ではなく、特異性の過剰使用からだと、後に判明した。
悲しい、幼い少年だった。
ヒナタはその少年を、殺した。
周囲は自分のことを高く持ち上げてくれるが、彼の物語を聞いて心を痛めている。
・・・・・・。
(正しいことをしたのだろうか。)
その疑念ばかりが彼の頭を占めていた。
後悔していた。
その様子を見てカイトが諭す。
「ヒナタが殺したんじゃない。世間が殺したんだよ。罪があるのなら、それはヒナタだけが背負っていいものじゃない。」
それでも心のわだかまりは解けなかった。
そこでカイトが言った。
「家来なよ。」
カイトは家に一人でいることが多い。
父親は交番勤めの警官で、家にいることの方が稀だ。
母親はカイトが中学に上がった頃交通事故で亡くなった。
ヒナタも彼女の葬儀に参加したが、遺体はどこか歪んでいて、恐怖を覚えた経験がある。
「なんなら泊ってってもいい。」
カイトが言った。
「いや、泊るのはいいや。」
ヒナタは答える。
「でも晩ご飯くらいは一緒に食べよ。」
「うん・・・。」
公衆電話でヒナタは母親に夕食がいらないことを伝え、帰路に就いた。
夕日が山の淵に触れて輝きを増していた。
濃い橙の熱い陽が二人を横から照らす。
反面影は極端に黒く、地面の凹凸さえ影が覆っていた。
「暑いね。」
「俺はそんなんでもない。」
「そう?」
カイトの家は学校から北に1キロメートル歩いたところにある。
平屋の一軒家で、2年前に越したばかりだ。
家に着き、カイトは早速夕飯の支度にとりかかった。
「アレルギーとかなかったよね。」
「俺はないよ。」
弟にはあるけど、と普段のヒナタならつづけたが、今日はそうしなかった。
リビングとキッチンが一つの部屋の中にあるから、カイトがフライパンを振っているのがソファに座っていても見れる。
156センチの身体はヒナタから見れば少し小さかった。
「ヒナタ、これそっちに持ってって。」
とカイトは完成した料理を示して言った。
肉野菜炒めだった。
白米とわかめの味噌汁もあとからカイトが持ってきた。
いい香りが二人を覆う。
「いただきます。」
炒め物からたれや油の焦げた香りが立ち上がる。
口の中にそれを入れると、肉から出た油がキャベツやニンジンを装飾して香りづけている。
たれの香りとそれが絡んで、鼻を抜けていく感覚が心地よい。
甘辛の味付けが米を食えと催促する。
うまい。
「前よりおいしくなった。」
ヒナタが言った。
「もう3年経とうものならね。」
とカイトが答える。
静かな食卓だった。
食べ物の熱さに息を漏らす音や味噌汁を啜る音が響く。
それが静寂を強めている。
でも気まずくなかった。
二人の信頼が故の食卓だった。
固定電話が鳴った。
ヒナタの母親からだ。
あと数十分で迎えに行くとのことだった。
「じゃあ風呂入る?」
とカイトが聞いてきた。
「そうしよっかな。」
「じゃあお風呂の用意してくるね。」
「ありがとう。」
カイトが食器を流しに入れ、そのまま風呂場へと向かう。
ヒナタもまた食器を流しに入れ、洗うことにした。
スポンジを泡立てて食器を擦る。
油から何まで落ちていく。
水で泡の付いたものをすべて洗い流したところで、カイトが戻ってきた。
「あ、食器ありがとう。あと20分もすれば沸くから待ってて。」
「ああ、ありがと。」
何度か水の噴出する音が鳴り、時間をかけて風呂が沸いた。
それまでの間二人はテレビを見ていた。
よく見るバレエティだが、出演者が笑っているのを見て次第に見るのをやめた。
「先入っていい?」
ヒナタが聞いた。
「あ、ねえ。」
カイトが言葉に詰まる。
「何?」
「一緒に入ろ?」
ヒナタから見て、カイトの身体は細かった。
もちろんトレーニングをしているから筋肉がないわけでもない。
だが肌の白さも相まって病弱に見えた。
対するヒナタの身体はたくましかった。
がたいがいいわけではなく、ただ戦闘員らしい筋肉がついた華奢な中学生。
そういう身体だった。
ただヒナタの背中の傷は隠せそうにもない。
身体を洗うヒナタを、カイトが浴槽に浸かりながら見て言った。
「背中、痛くないの?」
「これ? グリーン・グリーンに手当てしてもらったから別に。」
「そう、ならよかった。」
身体に付いた泡をシャワーで流したヒナタが浴槽に沈んだ。
水位が上がり、湯が少し溢れ零れる。
二人とも膝を抱えて座っていた。
白い湯気が浴室に充満している。
「ヒナタ。」
「・・・。」
「まだ考えてるんでしょ。」
「・・・ごめん。」
「ヒナタのことだもん。そんなもんだよ。」
「でも俺、どうしても許せなくてさ。」
「何が?」
「・・・・・・わからない。何を責めればいいのか、判らない・・・!」
「ヒナタ。」
カイトがヒナタの首に腕を回した。
そのまま彼を抱きしめる。
「・・・カイト。」
「これが戦うってことなんだよ、きっと。正しさとか、そういうのなんて関係ない。でも失くしちゃいけない。失くしたら今のヒナタじゃなくなっちゃうよ・・・。」
カイトがヒナタの胸元で泣き出した。
(僕だって我慢してたのにさ。)
「なんでカイトが泣くのさ。」
「だって・・・・・・。」
ヒナタの目が潤んだ。
涙が浴槽の中へと溶けていく。
ヒナタの腕が自然とカイトの背中へと回る。
二人して泣きあった。
幼子のように。
しばらく二人は感情を涙に替えていた。
ヒナタの母親がカイトの家に迎えに来た。
「夜遅くまでごめんなさいねホント。お父さんは今日は・・・」
「仕事です。」
「あらそう大変ねぇ。」
カイトも彼女のおしゃべりを知っていた。
ここまでよくしゃべる人はカイトの生活の中で彼女だけだったから、正直苦手だった。
母親の後ろにユウヒもいた。
母親とは対照的な、親友の弟とは今でも交流がある。
読書の趣味が似通っていた。
「それじゃあ、お休みカイト。」
ヒナタが切り出した。
それに続いて母親も別れの挨拶を紡ぐ。
「おやすみなさいカイトくん。」
「お休み。」
ユウヒも小さく手を振りながら言った。
「ええ、じゃあね。」
カイトも返す。
そうしてカイトはまた、家に一人でいた。
いつも以上に静かに感じる。
チラシを丸めて、それを殴って線でつないだ。
ソファに仰向けに寝転んで、ヨーヨーみたいに天井目掛けて投げてみる。
適当に投げても必ず自分の手の中に納まる。
カウボーイ。
カイトの特異性。
先の戦いを思い出していた。
(これから先、僕は役に立てるのかな・・・。)
ヒナタは自分のベッドで横になっていた。
眠れずに、ただその場で寝転んでいる。
カイトの言葉を思い出していた。
(『正しさを失くしちゃいけない』、か。)
ヒナタの思う、ヒナタの正しさ。
それはきっと、いや間違いなく、子供たちを守ること。
その一点だ。
今改めて、確かに心に刻んだ。
子供たちを守る。
そのための特異性。
そう信じて、彼は眼を瞑った・・・。
「ねえ、ここ居心地悪いって、なんかどうにかならいの? はるきの能力でしょ?」
「しょうがないじゃんか使うと疲れるんだから。」
「ねえお腹すいた、なんかないの?」
「黙ってろえりん。」
「うるさいなあゆうき!」
「話聞け。いいか、この前言った施設、おぼえてるな?」
「え、なにそれ。」
「ゆうき、えりんを殴れ。」
「いっった!!」
「そこにいる職員とかのを全員ぶっ殺す。いいな?」
「だいき、それ作戦なの?」
「リーダーって呼べ。いいか? 俺たちペッパー団としてのはじめての作戦なんだ。全力でやれよ。」
「はぁあわかったよ。」
「ねえごはんーっ!」
「あとでだっての!」
「うるさいなあ!」
「うるさいのはお前だろ。」
「お前らだよ!!」
「いった!」
「っつつ・・・。」
「ほら、あともうちょっとで施設につくから、それからご飯にしよ。」
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