SHU 特異性保持中学生部隊

未田不可眠

文字の大きさ
12 / 19
第1部 SHU始動編

12

しおりを挟む
 事後処理は支援班が行った。
 周囲の景観の保全、記憶の攪乱、情報処理、記録。
 今回の功績者である第1・4小隊は、SCHに留まらず世界各国の事情を知る者から賞賛された。
 長らく日本を密かに脅かしていたウラユビケンタの撃破。
 当分語られる功績だ。
 同時に、W.T.w.Tが解析したウラユビケンタの過去に同情も寄せられた。
 両親の死により親戚をたらい回しにされ、引き取り先で虐待を受け、学校ではその事情から担任からもいじめを受ける。
 そんな中殺傷能力のある特異性を発現すれば、自分の障壁を殺してしまうのは無理もない。
 その後の殺人を過去の経験を持って正当化することはできないが、意図は認められる。
 ウラユビケンタはとにかく、悲しい少年だった。
 消滅、すなわち死亡の要因も肉体の損傷ではなく、特異性の過剰使用からだと、後に判明した。
 悲しい、幼い少年だった。

 ヒナタはその少年を、殺した。
 周囲は自分のことを高く持ち上げてくれるが、彼の物語を聞いて心を痛めている。
 ・・・・・・。
 (正しいことをしたのだろうか。)
 その疑念ばかりが彼の頭を占めていた。
 後悔していた。
 その様子を見てカイトが諭す。
 「ヒナタが殺したんじゃない。世間が殺したんだよ。罪があるのなら、それはヒナタだけが背負っていいものじゃない。」
 それでも心のわだかまりは解けなかった。
 そこでカイトが言った。
 「家来なよ。」
 カイトは家に一人でいることが多い。
 父親は交番勤めの警官で、家にいることの方が稀だ。
 母親はカイトが中学に上がった頃交通事故で亡くなった。
 ヒナタも彼女の葬儀に参加したが、遺体はどこか歪んでいて、恐怖を覚えた経験がある。
 「なんなら泊ってってもいい。」
 カイトが言った。
 「いや、泊るのはいいや。」
 ヒナタは答える。
 「でも晩ご飯くらいは一緒に食べよ。」
 「うん・・・。」
 公衆電話でヒナタは母親に夕食がいらないことを伝え、帰路に就いた。
 夕日が山の淵に触れて輝きを増していた。
 濃い橙の熱い陽が二人を横から照らす。
 反面影は極端に黒く、地面の凹凸さえ影が覆っていた。
 「暑いね。」
 「俺はそんなんでもない。」
 「そう?」
 カイトの家は学校から北に1キロメートル歩いたところにある。
 平屋の一軒家で、2年前に越したばかりだ。
 家に着き、カイトは早速夕飯の支度にとりかかった。
 「アレルギーとかなかったよね。」
 「俺はないよ。」
 ユウヒにはあるけど、と普段のヒナタならつづけたが、今日はそうしなかった。
 リビングとキッチンが一つの部屋の中にあるから、カイトがフライパンを振っているのがソファに座っていても見れる。
 156センチの身体はヒナタから見れば少し小さかった。
 「ヒナタ、これそっちに持ってって。」
 とカイトは完成した料理を示して言った。
 肉野菜炒めだった。
 白米とわかめの味噌汁もあとからカイトが持ってきた。
 いい香りが二人を覆う。
 「いただきます。」
 炒め物からたれや油の焦げた香りが立ち上がる。
 口の中にそれを入れると、肉から出た油がキャベツやニンジンを装飾して香りづけている。
 たれの香りとそれが絡んで、鼻を抜けていく感覚が心地よい。
 甘辛の味付けが米を食えと催促する。
 うまい。
 「前よりおいしくなった。」
 ヒナタが言った。
 「もう3年経とうものならね。」
 とカイトが答える。
 静かな食卓だった。
 食べ物の熱さに息を漏らす音や味噌汁を啜る音が響く。
 それが静寂を強めている。
 でも気まずくなかった。
 二人の信頼が故の食卓だった。
 固定電話が鳴った。
 ヒナタの母親からだ。
 あと数十分で迎えに行くとのことだった。
 「じゃあ風呂入る?」
 とカイトが聞いてきた。
 「そうしよっかな。」
 「じゃあお風呂の用意してくるね。」
 「ありがとう。」
 カイトが食器を流しに入れ、そのまま風呂場へと向かう。
 ヒナタもまた食器を流しに入れ、洗うことにした。
 スポンジを泡立てて食器を擦る。
 油から何まで落ちていく。
 水で泡の付いたものをすべて洗い流したところで、カイトが戻ってきた。
 「あ、食器ありがとう。あと20分もすれば沸くから待ってて。」
 「ああ、ありがと。」
 何度か水の噴出する音が鳴り、時間をかけて風呂が沸いた。
 それまでの間二人はテレビを見ていた。
 よく見るバレエティだが、出演者が笑っているのを見て次第に見るのをやめた。
 「先入っていい?」
 ヒナタが聞いた。
 「あ、ねえ。」
 カイトが言葉に詰まる。
 「何?」
 「一緒に入ろ?」

 ヒナタから見て、カイトの身体は細かった。
 もちろんトレーニングをしているから筋肉がないわけでもない。
 だが肌の白さも相まって病弱に見えた。
 対するヒナタの身体はたくましかった。
 がたいがいいわけではなく、ただ戦闘員らしい筋肉がついた華奢な中学生。
 そういう身体だった。
 ただヒナタの背中の傷は隠せそうにもない。
 身体を洗うヒナタを、カイトが浴槽に浸かりながら見て言った。
 「背中、痛くないの?」
 「これ? グリーン・グリーンオクタマ ハナに手当てしてもらったから別に。」
 「そう、ならよかった。」
 身体に付いた泡をシャワーで流したヒナタが浴槽に沈んだ。
 水位が上がり、湯が少し溢れ零れる。
 二人とも膝を抱えて座っていた。
 白い湯気が浴室に充満している。
 「ヒナタ。」
 「・・・。」
 「まだ考えてるんでしょ。」
 「・・・ごめん。」
 「ヒナタのことだもん。そんなもんだよ。」
 「でも俺、どうしても許せなくてさ。」
 「何が?」
 「・・・・・・わからない。何を責めればいいのか、判らない・・・!」
 「ヒナタ。」
 カイトがヒナタの首に腕を回した。
 そのまま彼を抱きしめる。
 「・・・カイト。」
 「これが戦うってことなんだよ、きっと。正しさとか、そういうのなんて関係ない。でも失くしちゃいけない。失くしたら今のヒナタじゃなくなっちゃうよ・・・。」
 カイトがヒナタの胸元で泣き出した。
 (僕だって我慢してたのにさ。)
 「なんでカイトが泣くのさ。」
 「だって・・・・・・。」
 ヒナタの目が潤んだ。
 涙が浴槽の中へと溶けていく。
 ヒナタの腕が自然とカイトの背中へと回る。
 二人して泣きあった。
 幼子のように。
 しばらく二人は感情を涙に替えていた。

 ヒナタの母親がカイトの家に迎えに来た。
 「夜遅くまでごめんなさいねホント。お父さんは今日は・・・」
 「仕事です。」
 「あらそう大変ねぇ。」
 カイトも彼女のおしゃべりを知っていた。
 ここまでよくしゃべる人はカイトの生活の中で彼女だけだったから、正直苦手だった。
 母親の後ろにユウヒもいた。
 母親とは対照的な、親友の弟とは今でも交流がある。
 読書の趣味が似通っていた。
 「それじゃあ、お休みカイト。」
 ヒナタが切り出した。
 それに続いて母親も別れの挨拶を紡ぐ。
 「おやすみなさいカイトくん。」
 「お休み。」
 ユウヒも小さく手を振りながら言った。
 「ええ、じゃあね。」
 カイトも返す。
 そうしてカイトはまた、家に一人でいた。
 いつも以上に静かに感じる。
 チラシを丸めて、それを殴って線でつないだ。
 ソファに仰向けに寝転んで、ヨーヨーみたいに天井目掛けて投げてみる。
 適当に投げても必ず自分の手の中に納まる。
 カウボーイ。
 カイトの特異性。
 先の戦いを思い出していた。
 (これから先、僕は役に立てるのかな・・・。)
 

 ヒナタは自分のベッドで横になっていた。
 眠れずに、ただその場で寝転んでいる。
 カイトの言葉を思い出していた。
 (『正しさを失くしちゃいけない』、か。)
 ヒナタの思う、ヒナタの正しさ。
 それはきっと、いや間違いなく、子供たちを守ること。
 その一点だ。
 今改めて、確かに心に刻んだ。
 子供たちを守る。
 そのための特異性。
 そう信じて、彼は眼を瞑った・・・。




 「ねえ、ここ居心地悪いって、なんかどうにかならいの? はるきの能力でしょ?」
 「しょうがないじゃんか使うと疲れるんだから。」
 「ねえお腹すいた、なんかないの?」
 「黙ってろえりん。」
 「うるさいなあゆうき!」
 「話聞け。いいか、この前言った施設、おぼえてるな?」
 「え、なにそれ。」
 「ゆうき、えりんを殴れ。」
 「いっった!!」
 「そこにいる職員とかのを全員ぶっ殺す。いいな?」
 「だいき、それ作戦なの?」
 「リーダーって呼べ。いいか? 俺たちペッパー団としてのはじめての作戦なんだ。全力でやれよ。」
 「はぁあわかったよ。」
 「ねえごはんーっ!」
 「あとでだっての!」
 「うるさいなあ!」
 「うるさいのはお前だろ。」
 「お前らだよ!!」
 「いった!」
 「っつつ・・・。」
 「ほら、あともうちょっとで施設につくから、それからご飯にしよ。」
 「うん!!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...