それは雨に濡れる日

ぐざい

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それは雨に濡れる日 10

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店のドアが開いた。男性が入ってくる。明るい髪の色、色の白い男性だった。
コウノが「いらっしゃいませ」とお声がけすると、男性はにこりと笑って会釈をして、店内を見まわした。
「窓際の席は空いていますか?」
とコウノに尋ねる。
「ええ、空いております。どうぞ」
とコウノは男性を促した。男性は笑顔を返す。非常にスマートだった。姿勢もいい。整った顔立ち、仕立てのよい服に身を包んでいて、すべてが絵になる男だった。
男性は荷物を椅子に置き、自身はその隣の席に腰を降ろす。モデルだろうか。コウノは視界の隅で男性を目で追う。

外は小雨のようだ。窓の外が灰色に見える。
別の席では、女性の一人客が、入ってきた男性に目を奪われている。無理もない。コウノでさえ美しいなと思うのだ。男性は静かにコーヒーを飲んでいた。椅子に座る姿勢も美しかった。長い足が見える。

店内の音楽が何曲ながれただろうか。男性が席を立った。手荷物を手に取り席を離れる。コウノの目を見て笑顔を見せる。コウノはお会計のためにそちらへ向かう。

「とても美味しかったです」
男性が言う。コウノはありがとうございますと答える。
領収書のやり取りなどをし、コウノはその人を見た。長いまつ毛が見える。形の良い唇が柔らかく閉じられている。華奢な肩、長い腕、長い指、整った爪、その手がジャケットのえりをつかみ、財布を、ジャケットの内ポケットにしまう様を、コウノは見た。
コウノはその時、自分の職業病を少しだけ恨んだ。コウノは見逃さなかったのだ。ジャケットの内側に入れられた『 Kuzaki 』の刺繍。クザキ?思わずあっと声が出る。クザキは顔をあげる。
「なにか…?」
「いえ、いえ、とても仕立ての良いお召し物でしたので、思わず声が。失礼いたしました」
コウノは軽く頭を下げると、クザキはそんなと言って笑う。そしてご馳走様でしたと言って店を出て行った。

あの人がクザキかとコウノは思った。ヒトモリ君はこういう人が好みなのか。

ヒトモリは、クザキに手紙を渡せるのだろうか。コウノは考えた。
もし渡せなくても、と、そこまで考えて、コウノは否定るように頭を左右に小さく振る。

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