ぐざい

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『森』

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『森』
それから数日、ルデルタはネモゼラの看病に助けられて過ごした。痛みは少しずつなくなっていき、左腕に痛みが少し残る程度で立ち上がることができるようになった。こんなに怪我をするほど、なにをしていたのかと思うと不安な気持ちがわいてくるが、今はこうして立って歩くことができるようになったことで、ルデルタの心は明るくなった。森の穏やかさが、ルデルタの心をさらに明るくした。ネモゼラが守るこの森は、そういう森だった。

ネモゼラはオオカミなどの獣に近い獣人で、小さな森に住んでいた。豊かな土地で水も美しく、周辺に人間が住む町や村がないため、ネモゼラは長く静かにここで暮らしてきた。時々遠く離れた森の獣人が訪ねてくることもあったが、ネモゼラは群れない生き方を好んだ。ひとりでも不便はない。寂しいこともなかった。森はいつでも呼吸をしていて、生まれ死んで、決して終わりはなく、いつでも終わりで始まりだった。ネモゼラはそんな森の営みを見て生きてきた。獣人は人間よりいくらか長く生きる。小さな芽が自分よりも大きくなる様を何度も見た。

ネモゼラが住む土地は妖精のような生き物も住んでいる。
ネモゼラが薪割りをしているのをルデルタはそばで見守る。割れた薪を運んだり、これから割る薪を持って来たりした。彼なりにネモゼラを助けようとしていた。その様子を見ているネモゼラは、少し心配そうな顔をするのだが。
そんな時にふわりと妖精がやってきて、ルデルタにもわかる言葉で話しかけてくる。
「おまえ、たすかったんダな」
透けた羽根をきらきらさせた妖精が、ルデルタを見下ろしている。
「ネモゼラが助けてくれたんだ。ネモゼラに俺のことを教えてくれたのはこの森なんだろう?」
「じゃまダったから」
「うん?」
「もりはおまえ、ジャまダったから、もりはいやダったのに」
それを聞いたネモゼラが手を止めて妖精を見る。目がちょっと怒っている。
「***** ***」
「****!」
ふたりはルデルタにはわからない言葉で話し始める。表情から察するに、ネモゼラは怒っていて、妖精はそれに対して不貞腐れているようだ。ルデルタがふふっと笑う。妖精はそれに気が付いたのか、ばっとルデルタを見て大きな声を出した。
「タタ、おまえ、きらいなんダからなっ!」
「それなら帰れ、タタ」
タタという妖精は、ネモゼラとルデルタに「いーっ」をして去っていった。タタの飛んだ後にキラキラと舞うなにかが見える。
「あいつはいつもああなんだ、すまん」
ネモゼラは肩を落とす。
「ネモゼラは悪くないだろ。それに全然不愉快に思っていないよ」
「うむ」
「タタ?の言う通りだろう?俺はよそ者だ。タタの言うことはよくわかるよ」
ネモゼラがルデルタを見つめる。ルデルタはそれを笑顔で返して、割られた薪を拾い始める。
「ルデルタ、お前の身体の具合がよくなったら、森を案内するよ」
「本当か?嬉しいな」
ルデルタは屈託なく笑って答えた。
「お前は…よそ者じゃないよ」
ネモゼラが言った言葉がルデルタには届かなかったのか、なんだいという表情でネモゼラを見返す。なんでもないよとネモゼラは答えた。その時ネモゼラの頬が赤くなるのを見たのは、おそらく森だけだった。
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