【書籍化】親愛なる友へ 今日も僕は、鞭に打たれています。

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
24 / 60

24:選ばれなかった王子様

しおりを挟む
◇◆◇

パラリ、パラリ。

 ケインがウィップを捲る音を聞きながら、僕は隣に立つ随分と立派に成長した大切な友達を見上げます。もっとゆっくり読めばいいのに。そうやって、僕がジッとケインの顔を見つめている時でした。

「ん?」

 それまで柔らかい表情をしていたケインの眉間に深い皺が寄りました。
 どうしたのだろうと、僕がウィップに目をやると、そこには、つい先程書き終えたばかりのページが見えます。どうやら、ケインはもう一カ月分のウィップを読み終えてしまったようです。

「おい、ラティ。コレ……」
「え?」

 ケインの呟きに、僕は「あれ?一体何を書いたっけ」と首を傾げました。ケインが来てくれた嬉しさですっかり記憶が飛んでいます。すると、ケインがチラリと此方へと目を向けました。その目は、まるで今までのケインとは違っていました。

「ラティ、お前……変な事を考えているんじゃないだろうな」
「変?な、何の……こと?」

 ケインの声が地を這うような低さで、お腹の底に響いてきます。あれ?さっきまでケインは笑っていたのに。どうしたのでしょう。明らかにケインは“怒って”いました。

「ラティ、思い上がるなよ。お前なんかが人質を申し出た所で、戦争が止められると思うな」
「……け、ケイン、どうしたの?何を怒ってる?」
「もう何がどうあっても、バーグとの戦争は避けられない。ラティ、お前はフルスタ様とはまるで違う。どうせ何も出来やしないんだから、戦争が終わるまでこの城の中でぬくぬく暮らしてろよ」
「……ぁ」

 ケインの容赦ない言葉に、僕はやっと自分の書いた日記の中身に思い至りました。

------
もしかすると戦争を回避させられるかもしれない。
でも、僕は何も言わない。言えない。
------

「バカな事書きやがって!いい加減にしろよ!」
「っ!」

 ケインに怒鳴られた瞬間、僕は背筋に冷たいものを感じました。あぁ、僕は一体何て愚かな事を書いてしまったのでしょう。しかも、命を懸けて戦争の前線で戦わなければならない相手に見せるなんて。不謹慎にも程があります。

「っ!あ、違う……違うよ!ケイン!あの、僕そういうつもりじゃ……!」
「おい、だから触るなって!」

 とっさに体に触れようとする僕に、ケインは身をよじって僕から体を避けました。

「ぁ……ケイン?」

 ケインに拒絶された。その瞬間、目の前がクラリと揺れた気がしました。そんな僕に、ケインの冷たい言葉が更に追い打ちをかけます。

「ラティ。お前はもう余計な事を考えるな。ウィップに書いている通り、お前は鞭の痛みだって自分で請け負えないような“弱い”ヤツなんだ」

 ケインの声がとても厳しく、鋭く、僕の心に突き刺さります。でも、これは仕方のない痛みです。だって、実際にそうなのですから。

「ラティ。お前の痛みは、全部俺が請け負ってきた……そして、それはこれからもそうだ。開戦はほぼ決定している。全軍が動き始めてる。俺は前線に立つ」
「っあ、あ……。お、お願いだから……そんな事、言わないで。ケイン」
「お前は此処でジッとしてろ。なんなら、フルスタ様に王位継承権を譲ればいい。古い慣例や慣習なんて変えちまえよ」
「っ!」

 ケインの言葉に、僕はゴクリと唾液を飲み下しました。まさか、慣例を無視してまで、フルスタに王位継承権を譲れなんて言われるとは思ってもみませんでした。

------俺もあぁ言う人にお仕えしたかった。

 いつかのケインの言葉が頭を過ります。ケインは、俺ではなくフルスタに仕えたいと思っている。そう、ハッキリと言われた気がしました。

「ラティ、お前に王は無理だ」

 そう言って僕にウィップを突き返してくるケインに、僕は震える手でケインへと手を伸ばしました。

「あ、あのね……け、ケイン?」
「何だよ」

 ウィップを受け取るフリをして、僕はソッとケインの手に触れようとしました。しかし、僕の手が触れる前に、ケインの手はパッと離れて行きます。あぁ、息がとても苦しい。

「僕……な、なんでもするから……」
「は?何だよ、急に」
「なんでも、するから……だから、嫌いにならないで!」

 僕はケインを前に悲鳴を上げるように叫びました。すると、次の瞬間ケインの静かな声が僕の耳に響きました。僕には怖い事がたくさんあります。ムチに打たれる事。人質になる事。そして、死ぬこと。
 でも、一番怖いのは――!

「分かった」
「っじゃ、じゃあ……僕、何をっ」

 ケインに、見捨てられる事。それなのに。

「お前はもう、何もするな」
「っ!」

 ケインの美しいエメラルドグリーンの瞳が、鋭く僕の全てを貫きます。
 あぁ、終わった。そう思いました。僕は、ケインに諦められたんです。今までは「治療」と「ウィップ」でケインから許されていた僕達の関係だったのに。

 もう、ケインは僕に何も求めてくれません。

 僕の名前は、ラティ。
 大国スピルの第四十七代目の王太子です。なので、僕はとても「尊い」人間です。
 尊い?どこが?誰一人、僕を必要としていないのに?



 ケインは、僕ではなく弟のフルスタを選びました。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

処理中です...