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32:親愛なるケイン(6)
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ゴウゴウと炎が街を覆い尽くす。
首都バーグが陥落した。俺の軍の……いや、俺の手によって。
「ラティ……」
俺の腹の中には、狼が居る。
ラティの言葉だ。その狼が食い殺すのが何なのか、俺もよく分からない。分からないまま、俺は戦争の前線に立っていた。剣を振るって、ともかく前にだけ進み続けた。
「あぁ、ラティ。もうすぐだ」
ラティがバーグに渡って二年が経過した。
人質として渡ったラティによって、一時は領土の割譲は免れたものの、結局、停戦協定は結ばれなかった。あぁ、そうさ。元々こうなる事は分かっていた。そもそも陛下も、ラティの身柄一つでどうにかなるとは思っていなかった筈だ。
ラティは開戦の時間稼ぎに使われただけ。結局、ラティは母国から使い捨ての駒にされたのだ。
「このまま、城内に居る王族を全員捕らえろ」
俺は火の海となったバーグの城を見つめながら兵達に命令を下した。首都バーグはもうすぐ陥落する。後は城に居る王族を全員捕らえて母国に連れ帰れば良い。俺は血の匂いと、火に包まれるバーグ城の中へと歩を進めた。
「ラティ」
城の中を逃げ惑う王族や貴族達が兵によって捕らえられていく。怒号や悲鳴が響き渡り、兵達は王族を血眼になって探している。その中を、俺はゆっくりと歩を進める。
ここに、ラティが居る。もうすぐ、ラティに会える。
「ラティ、どこだ?」
俺の中の飢えた狼が唸り声を上げた気がした。この数年、俺の狼は飢えきっていた。なにせ、ラティという餌を与えられていないから。
-----死なないで、ケイン。
「俺が死ぬワケないだろうが。ラティ」
ここに辿り着くまでに、俺は一体何人殺してきただろう。もちろん、答えは分からない。数えようとも思わない。
ただ一つ言える事は「俺は死んでいない」という事だけだ。それが最も重要な事。生きてさえいれば、ラティに会える。
「ラティ、お前は知らないだろうけど、俺はクヌート家一の武才として名高いんだ。父上だって、今や俺に敵わない」
あぁ、毎日怪我をしてラティの前に現れていたせいで、弱いと勘違いさせていたのかもしれない。心外だが、それは仕方が無い事だ。全てわざと負っていた傷だなんて、武芸の事を分からないラティには思いもよらなかっただろう。
「ふふっ、わざと怪我してたなんて言ったら。どう思うんだろうな。鞭だって痛くも痒くもなかったのに……お前が悲しむ顔が見たくて、わざと悲鳴をあげたりして」
なんて酷い奴なんだろう!
ラティに口付けをして欲しくて、弟にわざと顔を殴らせた事もあった。それも一回や二回の話ではない。何度も、何度も殴らせた。弟には随分気味悪がられたが、お陰で俺はラティと口付けを交わす事が出来た。
ラティが俺の傷を見て、悲しみに暮れる顔が好きだ。あの顔が、俺を堪らなく熱くさせる。
部屋を一つ一つ開いて確認していく。ラティは居ない。あぁ、どこだ。どこに居る。
「ラティ、どこに隠れてるんだよ。いつもは俺が来たら駆け寄って来てくれていたのに。もしかして、怖くて泣いてるのか?」
だとしたら、早く見つけてやらなければ。ラティの涙は全部俺のモノだ。
だから、俺はずっとラティの嫌がる事を言ってきた。わざと傷を見せて痛がったり。わざと弟のフルスタ様と比べてたり。悪いとは思っていた。でも、愚かな俺は、自分の欲望を止められなかった。
それでも、ラティは俺の傍から離れない。そう、思っていたのに。
------ケイン。今日からお前がフルスタ様に付け。ラティ殿下はもうこの国には戻ってこられないだろう。
父の言葉に目の前が真っ暗になった気がした。そう、遠征から戻った時には、既にラティは国によって敵国に売られていたのだ。二年前のあの日から、俺の腹の狼は常にラティを求め、乾き、飢えている。
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ゴウゴウと炎が街を覆い尽くす。
首都バーグが陥落した。俺の軍の……いや、俺の手によって。
「ラティ……」
俺の腹の中には、狼が居る。
ラティの言葉だ。その狼が食い殺すのが何なのか、俺もよく分からない。分からないまま、俺は戦争の前線に立っていた。剣を振るって、ともかく前にだけ進み続けた。
「あぁ、ラティ。もうすぐだ」
ラティがバーグに渡って二年が経過した。
人質として渡ったラティによって、一時は領土の割譲は免れたものの、結局、停戦協定は結ばれなかった。あぁ、そうさ。元々こうなる事は分かっていた。そもそも陛下も、ラティの身柄一つでどうにかなるとは思っていなかった筈だ。
ラティは開戦の時間稼ぎに使われただけ。結局、ラティは母国から使い捨ての駒にされたのだ。
「このまま、城内に居る王族を全員捕らえろ」
俺は火の海となったバーグの城を見つめながら兵達に命令を下した。首都バーグはもうすぐ陥落する。後は城に居る王族を全員捕らえて母国に連れ帰れば良い。俺は血の匂いと、火に包まれるバーグ城の中へと歩を進めた。
「ラティ」
城の中を逃げ惑う王族や貴族達が兵によって捕らえられていく。怒号や悲鳴が響き渡り、兵達は王族を血眼になって探している。その中を、俺はゆっくりと歩を進める。
ここに、ラティが居る。もうすぐ、ラティに会える。
「ラティ、どこだ?」
俺の中の飢えた狼が唸り声を上げた気がした。この数年、俺の狼は飢えきっていた。なにせ、ラティという餌を与えられていないから。
-----死なないで、ケイン。
「俺が死ぬワケないだろうが。ラティ」
ここに辿り着くまでに、俺は一体何人殺してきただろう。もちろん、答えは分からない。数えようとも思わない。
ただ一つ言える事は「俺は死んでいない」という事だけだ。それが最も重要な事。生きてさえいれば、ラティに会える。
「ラティ、お前は知らないだろうけど、俺はクヌート家一の武才として名高いんだ。父上だって、今や俺に敵わない」
あぁ、毎日怪我をしてラティの前に現れていたせいで、弱いと勘違いさせていたのかもしれない。心外だが、それは仕方が無い事だ。全てわざと負っていた傷だなんて、武芸の事を分からないラティには思いもよらなかっただろう。
「ふふっ、わざと怪我してたなんて言ったら。どう思うんだろうな。鞭だって痛くも痒くもなかったのに……お前が悲しむ顔が見たくて、わざと悲鳴をあげたりして」
なんて酷い奴なんだろう!
ラティに口付けをして欲しくて、弟にわざと顔を殴らせた事もあった。それも一回や二回の話ではない。何度も、何度も殴らせた。弟には随分気味悪がられたが、お陰で俺はラティと口付けを交わす事が出来た。
ラティが俺の傷を見て、悲しみに暮れる顔が好きだ。あの顔が、俺を堪らなく熱くさせる。
部屋を一つ一つ開いて確認していく。ラティは居ない。あぁ、どこだ。どこに居る。
「ラティ、どこに隠れてるんだよ。いつもは俺が来たら駆け寄って来てくれていたのに。もしかして、怖くて泣いてるのか?」
だとしたら、早く見つけてやらなければ。ラティの涙は全部俺のモノだ。
だから、俺はずっとラティの嫌がる事を言ってきた。わざと傷を見せて痛がったり。わざと弟のフルスタ様と比べてたり。悪いとは思っていた。でも、愚かな俺は、自分の欲望を止められなかった。
それでも、ラティは俺の傍から離れない。そう、思っていたのに。
------ケイン。今日からお前がフルスタ様に付け。ラティ殿下はもうこの国には戻ってこられないだろう。
父の言葉に目の前が真っ暗になった気がした。そう、遠征から戻った時には、既にラティは国によって敵国に売られていたのだ。二年前のあの日から、俺の腹の狼は常にラティを求め、乾き、飢えている。
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