【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
197 / 284
第3章:俺の声はどうだ!

178:友達に欲情

しおりを挟む



「っい゛でぇぇぇっ!」
「っ!サッ、サトシ!?」

 俺の首にかかっていたイーサからのネックレスが、またしても凄まじい痛みを俺へと与えてきたのだ。俺の突然の悲鳴に、それまで子供を拘束していたエーイチが、慌てて俺の方へと駆け寄ってくる。

「っあ゛っつぅぅっ!」

 俺はと言えば、シャツの中に隠していたネックレスを肌から離すべく、シャツの前を乱暴に開けた。

「っはぁ、っはぁ。いだいっ!」
「ちょっ!?大丈夫!サトシ!そのネックレスがどうかしたの!?」

 駆け寄ってきてくれたエーイチに対し、俺はといえば既に衝撃を放たなくなったネックレスを手に、心臓が早鐘のようになり続けるのを静かに聞いた。

「……だ、だいじょうぶ」
「いや、全然大丈夫に見えないんだけど!?サトシってすぐにそうやってバレバレな嘘つくよね!それ、止めな!?」

 エーイチの怒ったような顔が俺の目の前に移り込む。いや、もう大丈夫なんだ。エーイチ、この件に付いては触れないでくれ。
 なにせ、このネックレスが俺に痛みを与える時には条件がある。そして、その条件は、ソラナ姫の件で既にハッキリしている。


『俺以外に、欲情するな。サトシ』


 そんなイーサの色っぽい声が、耳元で聞こえた気がした。

「う、嘘だろ……?」

 そう、このネックレスが反応するのは、俺がイーサ以外に「性的欲求を覚えた時」なのだ。と言う事は、先程、俺はエーイチに……、

「エーイチ、ごめん」
「え?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。マジでごめん。ほんとにごめん」
「え!ちょっ!?ええ?何々?何事?」

 蹲りながら、俺はエーイチに心からの謝罪を送った。送られた当のエーイチは、意味が分からないと言った様子で、心底戸惑っている。うん、そのまま一生意味など分からないでいて欲しい。

 まさか、いくらエーイチが可愛くとも、友達に対して欲情するなんてあり得なさ過ぎる。最低だな!?俺!

「大丈夫!コレたまにイーサがおふざけで俺に電撃食らわせてくるんだよ!」
「は!?そのネックレスって、そんな拷問具みたいなモノだったの!?」
「そうそう!でも、一瞬だから全然大丈夫!はい!そのガキが誰の差し金か、それとも単独犯なのか痛めつけて吐かせようぜ!」

 な!
 そう、余りにも無理やりな切り返しで、エーイチの肩を叩く。

「いや、でも……」
「エーイチ!」
「な、なに?」

やはり、エーイチはどこか腑に落ちない様子だ。しかし、ここは早いところ話題を変えてしまいたい。でなければ、察しの良いエーイチの事だ。

 変に勘付かれでもしたら、羞恥心で死ねる!

「エーイチ!俺、何があってもエーイチとは一生友達だから!」
「っ!さ、さとし……!」

俺の言葉に、エーイチは先程まで浮かべていた不審気な目を消し去り、感動一色で俺の事を見ていた。心なしかその目は潤んでいるように見える。

「あ、ありがとう……サトシ。僕、そんなの言われたの、初めてだ」
「うん、うん!お礼を言われるような事じゃねぇから!俺達は!友達!だから!」

 俺のバカな頭がまた勘違いを起こす前に、俺が蹲っていたその場からスクリと立ち上がった。
そういえば、今ここにエーイチが俺に付きっきりになっているという事は、あの子供はどうしたんだ?

「ってか、待てよ!あの子供は!?まさか逃げたんじゃ、」
「居るよ」
「うわっ!」

 まさか逃げたのでは?と俺が周囲を見渡しているすぐ隣から、あの少年の声が聞こえてきた。いや、本当にこんなに近くに居るとは思わなかった。

「なぁ、お前。つまんない男の癖に面白いネックレス付けてるね」
「あっ、コレ?」
「そう」

 赤毛の少年は物珍しそうに俺の首に掛かるネックレスを指さしてきた。

「コレ、面白いか?」
「うん、凄く面白い」

 モチーフも小さいし、普通のシンプルなネックレスにしか見えないのだが。そう、俺が首元にあるネックレスに手をかけて改めて見ていると、エーイチがまたしても厳しい声を上げた。

「ねぇ、もしサトシからネックレスを盗ろうとでもしてみなよ。今度は脅し抜きで骨を折るから」
「えぇぇ、こんなつまんないヤツのどこがいーんだか!俺の方が絶対良い男じゃん!」
「僕は金のないヤツには興味無いよ。……あ。サトシは友達だから別だよ」
「あ、うん。ありがと」

 この期に及んで、未だにエーイチに対してアプローチを止めない少年に、俺はなんとも憎めない感情を抱き始めていた。いや、声もなかなか良いモノを持っているし。こういうキャラ、嫌いじゃない。

「さて、逃げてなかった事は褒めてあげる。という事は、素直に僕の言う事を聞いてくれるって事かな?それとも痛めつけられたい悪い子なのかな?」
「嫁になってくれるなら、何でも答えてやるよ!」
「本当の事を教えてくれたら、少しくらい好きになってあげてもいいよ?」
「やっぱ、エーイチって最高!」

 もう完全にエーイチに弄ばれる事を楽しみ始めた少年は、そのくすんだ長髪の赤毛をはためかせ、エーイチの手を取った。

「約束だからな!教えるから、少しでも俺の事好きになってくれよ!」
「いいよ、少しならね」
「それでいいよ!少し扉を開けてくれたら、そこからは俺が絶対に落としてみせるから!」
「はいはい。戯言はいいから、早く言いな」

 一切取り付く島すら与えようとはしないエーイチに対し、赤毛の少年は一切気にした様子は見せなかった。
それどころか、その直後。嬉しそうに彼が口にしたのは、なんとも予想外かつ、驚きの名前だった。

「エイダに言われてやったんだ!」
「「は?」」

 俺とエーイチの言葉がピタリと重なる。ついでに、向けられる視線も赤毛の少年に一極集中していた。

何だって?今、この少年は何と言った?

「ちょっ!今、エイダって言った?」
「あぁ、言ったよ」
「ねぇ、あのさ……もしかして、エイダって」
-------ハーフエルフ?

そう、俺が恐る恐る尋ねると、少年は「そうだぜ!」と、まるで自慢するように頷いてみせた。

「エイダも、俺も、そして孤児院に居る皆も。みーんな!ハーフエルフだ!」
「は?」

 ハーフエルフ。狭間の者。クリプラントでは穢れた血と呼ばれ、迫害される者達。そして、見つかれば問答無用で罪に問われ首を刎ねられる。

「エイダは俺達をずっと昔から育ててくれてる!最高に格好良い!俺達の兄貴だ!」
「……」

 そう言って笑う少年のどこが罪人なのだろう。
 目の前しか見えていないバカな俺は、ハッキリとそう思ってしまうのだった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ同盟

kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。 魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...