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第4章:俺の声を聴け!
208:リーガラントの首都
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腰が痛い。
「おーし、ここがリーガラントの首都だ。どうだ、クリプラントで生活してたお前にはビックリだろ?な?なぁ、おい。サートーシぃ?」
「あ?あぁ、うん」
俺は隣で得意気な様子で手を広げて見せるエイダに、腰をさすりながら返事をした。あぁ、クソ。腰が痛てぇ。
「なんだよ、その返事。強がってんじゃねぇよ。この田舎モン」
「田舎モンって……」
俺の返事が不満なのか、エイダは眉間に皺を寄せながら此方を見ている。いや、別に「こんなモン全然凄くねぇし」と、斜に構えてこんな反応になっているワケではない。
イロイロあって、マジで腰が痛い……というより重いのだ。
「あー、えっと。うん、スゲェよ。なんかSF小説に出てくる近未来の都市みたいだし」
そう、確かに到着したクリプラントの首都は凄かった。
周囲を高層ビルに囲まれているのは現代日本でもよく見る光景なのだが、そのビル一つ一つが、ともかく見た事もない変わった形をしているのだ。妙に捻じれていたり、わざと傾いていたり、はたまた一本の高層ビルにもう一本のビルが蛇のように絡みついていたり。
いや、最後のヤツとか、中はどうなってるんだよと言いたい。
「うん、スゲェよ。ビックリした」
近未来で科学的なのに、建物の一つ一つが妙に芸術的形をしているせいで、街全体が近代美術館のような雰囲気を出している。確かに【セブンスナイト】で、リーガラントの背景は何度も目にしたが、こうして立体的に目の前に広がると、それはもう別物だ。
「……っはーー!薄っい反応!クソつまんねー!」
「いや、つまんねぇとか言われても」
「あーあ!つまんねぇ!つまんねぇ!エーイチと来たかったわ」
だから、何で俺がお前を楽しませなきゃなんねーんだよ!?とは、言わなかった。マジで腰が重くて苦しい。ともかく俺は、地味に不愉快さを主張し続ける腰を撫でる事に終始した。
「なんだよ。さっきからずっと腰なんか撫でて。もう寿命か?短命ご苦労さん」
「うっわ。ソレ、久々に聞いたわ」
もう寿命か?短命ご苦労さん。
ここに来たばかりの頃、よく部隊の皆からバカにするように言われてきた言葉。ソレが人間に対する侮蔑を含んだ差別用語だと知ったのは、大分後になってからのことである。エーイチが教えてくれるまでは、言葉を言葉のまま受け取っていたので、「毎度同じ絡みでしつけぇな!?」という感じだった。
「っは、なつかしーな」
まぁ、今思えば知らなくて丁度良かったと思う。だって、俺もわざわざ傷つきたくはない。別に俺は打たれ強い人間ではないのだから。
「もう誰も言ってこねぇもんな。そんな事」
そうなのだ。当時はそんな風に言っていた皆も、今では俺にそんな事は言ってこない。
むしろ、こないだの飲み会なんて、途中、何人かから『サトシ。お前、長生きしろよな』と、けっこうガチ目で声をかけられてしまった。
「……急に孫がジジイに言うような温かい台詞を吐くじゃん。そう、仲本聡志は思い出しながら苦笑した」
「あ?何だって?」
「ふふっ。いや、何でもない」
「変なヤツ」
俺はつまらなそうな表情を浮かべるエイダの横で、ソッと口元を抑えた。いや、本当に懐かしい。懐かし過ぎて笑えてくる。
最初こそ、皮肉だけで温かみなどは皆無の台詞だったのに、今では言葉通りの意味で言ってくれている。その中にはナンス鉱山で、ガッチガチに俺をイジめてきていたエルフも居るのだから、人って……いや、エルフって変わるモンだなと感慨深い気分だ。
「まぁ、確かにお前らから比べると短命だけど、まだ寿命じゃねぇよ。まだ死なねぇから安心しろ」
「全然、心配してねぇから安心しろ」
ベッと軽く舌を出しながら、イタズラっ子のように言うエイダに、本気で何歳なのか尋ねたくなった。まぁ、俺にはイーサっていう大人な三歳児を相手にしていた経験もあるので、今更エイダが何歳だと言ってきても驚きはしないだろう。
「ったく、口の減らないヤツだな。んな事言ったらエーイチだって短命だからな」
「……そーなんだよなぁ。エーイチも、人間なんだよなぁ」
エイダは高層ビルの合間から覗く青空を見上げながら、感情の籠らない声で言った。今のエイダはエルフである事を隠す為か、完全に髪の毛で耳を隠している。出発する時に顔を合わせたら、急に髪の毛が伸びていて驚いた。マナがどうのこうのと言っていたので、ほんと便利な設定ですねーと肩をすくめずにはおれなかった。
「エーイチも、ヴィタリックみたいに先に死ぬんだよな」
朱色の髪が高層ビルから反射した光に照らされる姿は、まるでスチル画像のようだ。そんなエイダに、俺は「あぁ、コイツは本当にゲームのキャラなんだな」と改めて思う。
「エーイチ。死んで欲しくねぇな。せめて五百年くらい生きてくんねーと」
「……無茶言うなよ」
「なぁ、サトシ」
「なんだよ」
どこかぼんやりした表情を浮かべたエイダが、チラと俺の方を見てくる。その目は、深い感情を秘めているのに、俺にはどうも読み取る事が出来なかった。
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