【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中

文字の大きさ
228 / 284
第4章:俺の声を聴け!

208:リーガラントの首都

しおりを挟む


        〇


 腰が痛い。


「おーし、ここがリーガラントの首都だ。どうだ、クリプラントで生活してたお前にはビックリだろ?な?なぁ、おい。サートーシぃ?」
「あ?あぁ、うん」

 俺は隣で得意気な様子で手を広げて見せるエイダに、腰をさすりながら返事をした。あぁ、クソ。腰が痛てぇ。

「なんだよ、その返事。強がってんじゃねぇよ。この田舎モン」
「田舎モンって……」

 俺の返事が不満なのか、エイダは眉間に皺を寄せながら此方を見ている。いや、別に「こんなモン全然凄くねぇし」と、斜に構えてこんな反応になっているワケではない。
 イロイロあって、マジで腰が痛い……というより重いのだ。

「あー、えっと。うん、スゲェよ。なんかSF小説に出てくる近未来の都市みたいだし」

 そう、確かに到着したクリプラントの首都は凄かった。
 周囲を高層ビルに囲まれているのは現代日本でもよく見る光景なのだが、そのビル一つ一つが、ともかく見た事もない変わった形をしているのだ。妙に捻じれていたり、わざと傾いていたり、はたまた一本の高層ビルにもう一本のビルが蛇のように絡みついていたり。

 いや、最後のヤツとか、中はどうなってるんだよと言いたい。

「うん、スゲェよ。ビックリした」

 近未来で科学的なのに、建物の一つ一つが妙に芸術的形をしているせいで、街全体が近代美術館のような雰囲気を出している。確かに【セブンスナイト】で、リーガラントの背景は何度も目にしたが、こうして立体的に目の前に広がると、それはもう別物だ。

「……っはーー!薄っい反応!クソつまんねー!」
「いや、つまんねぇとか言われても」
「あーあ!つまんねぇ!つまんねぇ!エーイチと来たかったわ」

 だから、何で俺がお前を楽しませなきゃなんねーんだよ!?とは、言わなかった。マジで腰が重くて苦しい。ともかく俺は、地味に不愉快さを主張し続ける腰を撫でる事に終始した。

「なんだよ。さっきからずっと腰なんか撫でて。もう寿命か?短命ご苦労さん」
「うっわ。ソレ、久々に聞いたわ」

 もう寿命か?短命ご苦労さん。
 ここに来たばかりの頃、よく部隊の皆からバカにするように言われてきた言葉。ソレが人間に対する侮蔑を含んだ差別用語だと知ったのは、大分後になってからのことである。エーイチが教えてくれるまでは、言葉を言葉のまま受け取っていたので、「毎度同じ絡みでしつけぇな!?」という感じだった。

「っは、なつかしーな」

 まぁ、今思えば知らなくて丁度良かったと思う。だって、俺もわざわざ傷つきたくはない。別に俺は打たれ強い人間ではないのだから。

「もう誰も言ってこねぇもんな。そんな事」

 そうなのだ。当時はそんな風に言っていた皆も、今では俺にそんな事は言ってこない。
 むしろ、こないだの飲み会なんて、途中、何人かから『サトシ。お前、長生きしろよな』と、けっこうガチ目で声をかけられてしまった。

「……急に孫がジジイに言うような温かい台詞を吐くじゃん。そう、仲本聡志は思い出しながら苦笑した」
「あ?何だって?」
「ふふっ。いや、何でもない」
「変なヤツ」

 俺はつまらなそうな表情を浮かべるエイダの横で、ソッと口元を抑えた。いや、本当に懐かしい。懐かし過ぎて笑えてくる。
最初こそ、皮肉だけで温かみなどは皆無の台詞だったのに、今では言葉通りの意味で言ってくれている。その中にはナンス鉱山で、ガッチガチに俺をイジめてきていたエルフも居るのだから、人って……いや、エルフって変わるモンだなと感慨深い気分だ。

「まぁ、確かにお前らから比べると短命だけど、まだ寿命じゃねぇよ。まだ死なねぇから安心しろ」
「全然、心配してねぇから安心しろ」

 ベッと軽く舌を出しながら、イタズラっ子のように言うエイダに、本気で何歳なのか尋ねたくなった。まぁ、俺にはイーサっていう大人な三歳児を相手にしていた経験もあるので、今更エイダが何歳だと言ってきても驚きはしないだろう。

「ったく、口の減らないヤツだな。んな事言ったらエーイチだって短命だからな」
「……そーなんだよなぁ。エーイチも、人間なんだよなぁ」

 エイダは高層ビルの合間から覗く青空を見上げながら、感情の籠らない声で言った。今のエイダはエルフである事を隠す為か、完全に髪の毛で耳を隠している。出発する時に顔を合わせたら、急に髪の毛が伸びていて驚いた。マナがどうのこうのと言っていたので、ほんと便利な設定ですねーと肩をすくめずにはおれなかった。

「エーイチも、ヴィタリックみたいに先に死ぬんだよな」

 朱色の髪が高層ビルから反射した光に照らされる姿は、まるでスチル画像のようだ。そんなエイダに、俺は「あぁ、コイツは本当にゲームのキャラなんだな」と改めて思う。

「エーイチ。死んで欲しくねぇな。せめて五百年くらい生きてくんねーと」
「……無茶言うなよ」
「なぁ、サトシ」
「なんだよ」

 どこかぼんやりした表情を浮かべたエイダが、チラと俺の方を見てくる。その目は、深い感情を秘めているのに、俺にはどうも読み取る事が出来なかった。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ同盟

kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。 魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...