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第4話 この瞬間、彼女の笑顔が運命に響く。【竜胆 朱音 視点】
しおりを挟むその笑顔は、まるで野原に咲く一輪の花の様な存在感を放っていた。
そんな笑顔を浮かべた貴方に、私は惹き付けられた。
これが恋の始まりだったのかは私にも分からない。しかし、私の中に彼女という存在が刻まれたきっかけが、この笑顔であったことは間違いない。運命の出会いとは、この瞬間の事を指すのだろう。そう言い切れるほどに私にとって印象的で、刺激的な一瞬であった。人生の転換期は高校入学時ではなく、彼女の笑顔に見蕩れた今、この瞬間であったのだ。
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私、竜胆 朱音は孤独だった。
いや、親は良い理解者であるし、仲が悪いとかでは無いのでこの表現は少し不適切かもしれない。正しく言うと、そう、ぼっちであったのだ。
ぼっち生活のきっかけは、小学校へ入学した時だ。昔から読書が好きで、少し内気な性格だった。そんな私は小学校に入学した時期に丁度、長編小説にハマっていた。分からない漢字や単語も多かったが、文を読む、というその行為に対して楽しみを見出していたのだ。
だが、本を読んでいる人には話し掛けにくいものである。そう、周りが活発に会話を交わし、グループを形成する中、それに参加せず黙々と本を読んでいた私はすっかり取り残されてしまったのだ。
気づいた時にはもう手遅れで私はクラスで浮いた存在となっていた。今さら話しかけに行くのも恥ずかしくて少し焦ったが、別に問題は無い。どうせ進級してクラス替えをしたら今度こそ普通に友達ができるだろうと思っていたからだ。
しかし、それは甘い考えであった。
私は周りから、大人びていて、近寄り難いと思われているらしい。それが祟ってクラス替えをした直後でも、まったく話し掛けられなかった。ここで自分から話しかけに行ければ良かったのだが、内気な性格が災いして、結局友達は出来なかった。
小学生時代をぼっちで過ごした私は中学校では友達を作ろうと決心した。その為に、読書もしないし、内気な性格も直すと誓った。
そんな決意を胸に抱き、教室に入った私はその光景に愕然とした。何故か皆、とても仲が良いのだ。今日が初対面の人も居るはずなのに、そうとは思えないほど馴染んでいる。(私以外)
混乱した私はとりあえず自分の席に座り、聞き耳を立ててみた。すると、衝撃の事実が発覚してしまった。なんと皆、連絡ツールアプリ『LIME』を用いて、既に友達になっていたらしい。
この事実を知って心が折れた私は、話し掛ける事を諦め、一人で読書をしていた。
今にして思えばこの時に読書をしていなかったら気の利くクラスメイトが声を掛けてくれたり、Limeを交換してくれたりしたかもしれない。
しかし、それは最早たらればの話で、私は中学校もぼっちで過ごした。
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この春から私は高校生となる。高校は実家から出て、一人暮らしをしながら東京の女子校に通うことにした。そこで心機一転、高校生ライフを楽しむのだ。
しかし、まさか入学式で新入生代表として挨拶をすることになるとは…。すごく緊張したが無難にこなせたと思う。
さて、私の人生観が変わったのはこの後のホームルームからである。
五十嵐先生が、話を聞いていなかった生徒を注意したのだ。先生が、私とその生徒を結んだ直線上の間にいるので最初、生徒の顔は確認出来なかったが、先生が少し位置をずらした時、そちらへ注目していた私とその生徒とを遮るものは無くなり、私と彼女は目が合った。
初めて見る彼女は、輝かしい笑顔を浮かべていた。その笑顔のが放つ膨大なエネルギーに飲まれ、私は一瞬思考が停止してしまった。そしてその後、意識が戻ると、私は反射的にすぐ視線を逸らしてしまった。
(な、なんとなく視線を逸らしてしまったけれど良くなかったかしら…。変に思われていなければよいのだけど。いや、でもずっと目を合わせ続けるのも変だし…。だけどもう少し良い選択肢もあったはず…)
そんなことを延々と考えているとホームルームが終わってしまっていた。思考を切り替え、急いで帰り支度をした私は、さて、この後どうしようかと考えていた。
そんな時だった。声をかけられたのは。
「こんにちは。初めまして、竜胆さん。私は小森 華奈って言います。よろしくね!」
近くで見る彼女、小森さんは人懐っこいオーラを身に纏っていた。
「えぇ、よろしく、小森さん。」
私は急に声を掛けられ、驚いた。辛うじて返事をするも、口が回らず、軽いパニックになってしまった。心の準備をする暇も無かったので、頭は真っ白だ。そんな中でなんとか続きを口に出す。
「それで、何か用かしら。もう帰るところなのだけれど。」
しかし、焦った私の口からはそんな素っ気ない言葉が出てしまった。これでは拒絶している様に見えてしまう。
「いや、一緒に帰りたいなって!」
しかし、小森さんは気にする素振りを見せる事は無く、それどころか一緒に帰宅しようと誘ってくれた。クラスメイトと共に帰るなど、まさに夢の様なシチュエーションである。
「私と一緒に…?そう、それはとても良い提案ね。」
内心の動揺が表に出ないように注意する。
「ということは…?」
「えぇ、一緒に帰りましょう。
…と言いたいところだけれど、貴方には反省文を書くという仕事がまだ残っているでしょう?」
「…っ!!?」
そう、確か小森さんは、先生の話を聞いていなかった罰として反省文の提出を命じられていた。
(まぁ、小森さんはもう忘れていた様子だけれど。)
小森さんは感情が全て顔に出るので、慌てているのがすぐに分かった。彼女は感情が豊かなのか、この短時間でも多様な表情を目にした。
その中でも一際魅力的なのは笑顔だ。
小森さんと話していると、ホームルームで見た輝かしい笑顔が頭に浮かんでくる。もう私から、あの笑顔の記憶は消え去ることは無いのだろうと、そう感じる程に。それほど鮮明に脳裏へと焼きついている。それはまるで呪いのようで、しかし不思議と悪い感じはしない。むしろ幸せを感じている様にも思う。一体私はどうしてしまったのだろうか。誰にともなく問いかけるも、当然答えは帰ってこない。
だから自分で答えを探すのだ。
まずは小森さんと仲良くなろう。それが答えを知る事に繋がると、直感的にそう思うから。
「そうね…。」
まずは勇気を出して一歩踏み出そう。
自分からも彼女へ歩み寄ってみよう。
そう決意して私は続きを口にした。
「折角だし、私も貴方が反省文を書き終えるまで待たせてもらうことにするわ。」
この決断を、未来の私は感謝し、褒め称えるであろう。
一回り成長した私宛てに、そんな予感を春風が運んだ。
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