初恋が惨敗だったが感傷に浸る時間が無い件

椿紅颯

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これはただの打ち上げですよ?

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 本日の大会は無事終了。
 諸々後片付けを終えた俺達は、大会後の恒例行事に参加していた。

「はーい、皆さんグラスを拝借、カンパーイ!」

 先生の音頭により開かれたのは、単なる打ち上げだ。
 特に深い理由はなく、ただ飲食をして喋る。お疲れ様会兼、分け隔てなく上下関係なくコミュニケーションの幅を広げる場、ということだ。

 さて、配席は誰がやったのか、それとも交換させられたのか。どうしてこうなった。

 四人座席で通路側左に俺、隣に美雪。
 窓側に愛海、隣に彩智。
 他テーブルを見渡すと和気藹々と賑やかな声が響いている。この曲者三人のお世話役に見事抜擢されたわけだ。
 この手の小細工は部長のやりそうなことだ。諦めるしかない。

「頼むやつ決まった?」
「どれが良いのかしら。初めてで全くわからないわ」

 美雪は物珍しそうにメニューを眺めている。
 いや、メニューと闘っていると言った方が良いのだろうか。

「それまじ?」
「ええ、映像でしか見たことがなくて、お好み焼きって色んな物が沢山混ざった液体で作られているのね」
「いや言い方よ」

 美雪に聞いても埒が明かない。
 愛海と彩智に任せた方が良さそうだ。

「なあ、そっちは決まった?」
「任せなさい、決まったわよ」
「任せました」

 自信ありげな愛美は店員にオーダーを伝え始めた。
 俺はこのタイミングでドリンクバーへ向かった。

 席に戻ると、賑やかな雰囲気になっていた。ドリンクを口に運びながらその話に耳を傾けると、俺はドリンクを喉に詰まらせかけた。

「そうなのよ美雪、これで自分でも注文できるわねっ」
「そうなのね。一つのお好み焼きに複数のトッピングを注文するのね。そして、今回のオススメが、豚辛チーズ、餅明太子玉、エビ、タコ、イカなのね。なら次の二品目は何にしようかしら」
「ブフォ」
「どどどうしたの直輝、大丈夫ですの? ハッ、ハンカチ使います?」

 咳き込み、咽る俺を気遣う美雪に親指を立てサインを送る。
 呼吸を整えた俺は咳き込んだ理由を話した。

「なあ、注文は終えたんだな? その時、店員さんは何も言わなかったのか?」
「ええ、何も言ってなかったわよ」
「それがどうかしたのですか?」

 愛海と彩智はキョトンとした顔で俺に視線を送っている。美雪はともかく、この二人にはしっかりと教えないといけない。

「あのな、その注文の仕方だと、結構な量がくるぞ」
「え? トッピングが多いってこと?」
「いや、それトッピングじゃなくて、一つ一つが商品な」
「え……もしかして……」
「そうだな、これから五品来るな」

 青ざめて言葉を失う二人、これを聞いてもキョトンとしている美雪。この状況に俺は頭を抱えずにはいられなかった。
 程無くして届けられる品々。ここでようやく美雪も理解したようで顔が引きつっていた。

 この後、俺達は無事に完食した。全員が運動部じゃなかったら間違いなく残していた。
 散々な日だったが、最近の俺は三人をいつもと違う目線で見始めたのかもしれない。
 起点はどこだっただろうか、いつしか三人の表情や態度は柔らかくなり始めている。
 今までは切磋琢磨し合う仲間だったはずが、気づけば一人一人を少しづつ意識し始めているかもしれない。


 儚く散った初恋。
 俺はこいつらのせいで感傷に浸る時間なんて無かった――。
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