2 / 6
夢のような現実
しおりを挟む
「――はよう――みや。――てば、ねえってば!」
「ん……」
俺は身に覚えのないアラーム音に目を覚ました。
片目の霞む視界には白色の天井。そして、ピンク色に肌色。身に覚えのない色彩に、未だ夢の中だと錯覚し目を擦った。
視界が晴れた俺は、更に驚愕することになった。
「あー、やっと目が覚めた。おっはよー、文哉」
「ああ、おはよう、リサ……?」
俺は声の主を見て、思考が停止した。
聴き馴染みある声につい、その名を口に出したが、そこに居るのはアンドロイドのリサだ。だが、喋り方、仕草、それら全てはAIのリサだ。
なんだこの状況。やっぱり夢の中にいるのか?
いやでも、俺は今布団を手にしている。感触は確かにある。じゃあこれは一体……。
「リサ、朝食モード実行」
「ん? 何それ」
音声認識コードが認識されない。それどころか受け答えをし始めた。
この行動自体に不可解なことはない。これらの行動は全て音声入力で幾らでも可能なのだから。
俺はベッドから立ち上がり、再びコードを口にした。
「リサ、休日外出支度モード」
「え? だから、何を言ってるのかわからないよ。え、って、え? ちょ、ちょっと!」
俺は衣類を上半身から脱ぎ捨て始めた。
通常ならこのまま俺は風呂場に向かい、事を済ませると脱衣所には着替えが用意されている。
そのはずなのだが、まさかの反応が返って来た。
「す、ストーップ! 文哉、脱ぐのストーップ!」
「はい?」
「ぬ、脱ぐなら私の見えない所で、お、お願い……」
リサは頬を赤く染め、両手で自らの目を覆っている。
今会話しているのはアンドロイドだ。会話の受け答えが可能なのは理解ができるが、このような感情表現が可能ということは初めて聞いた。説明書にもそのような記述はされていない。
俺は、行動ではなく対話を試みることにした。
「んー、えっと、質問していいかな。キミの名前は?」
「リサだよ?」
「キミはいつも僕のお世話をしてくれているね?」
「えー? 私、文哉のお世話なんてしたことないよ? あっそうそう、忘れてた! ちょっと、聞いてよ文哉! 私、お外に出ちゃって、動けてるの! 凄くない!?」
話が見えてきた。
つまり、今目の前に居るのは、いつも現実で接していたアンドロイドのリサではなく、パソコンの中に居たアシスタントAIのリサというわけだ。
まだまだ考察しないといけないだろうが、今は何より感情について考慮しなければならない。
「とりあえず、俺は風呂に入ってくるから、そこら辺で休んでて」
「うん、わかった!」
元気の良い返事と共に、ひらひらと揺れるフリル付きのメイド服が、リサの動きと連動してふわりと揺れ動く。
現状を愉しむようにクルクルと回った後、ベッドにストンッと腰を落とした。
ベッドの感触を楽しむリサを見届けた俺は、脱ぎ捨てた衣類を拾い風呂場へと向かった。
◇◇◇
「あっ、やっべ」
俺はバスタオルで体を拭きながら後悔していた。
いつもの要領でいたら、着替えを運び忘れていた。このままだと、リサにガミガミと説教されそうだ。と、思っていたが、洗面所の縁に衣類一式が掛けてあった。考えるのは後にして、着替え終えた俺は、リサが待つ寝室へと戻った。
「リサ、着替えを探し出してくれてありがとう」
「ふっふーん偉いでしょ、もっと褒めて!」
「うん、助かったよ」
胸を張り、得意げに鼻を鳴らしているリサへ感謝の意を伝えた。すると、何やら不思議なことを言い始めた。
「あー、でもねでもね、私も驚いたんだけど勝手に体が動いたと言うか、考えなくても衣類の場所がわかったと言うか」
「ほう? んー、じゃああれか。これは憶測にすぎないけど、聞いてくれ。意識的なものはAIのリサ。潜在的なものはアンドロイドのリサ、という感じに融合とまでは言わずとも、そんな感じになってるんじゃないかな」
「たぶんそうだね」
「随分と物分かりが良いな」
「まーね!」
流石、学習型アシスタントAI。状況把握能力に優れていると素直に感心する。だがこの表情、そして動作。一挙手一投足が人間のそれと類似、いや正に人間そのものだ。
興味をそそられる状況ではあるが、ここでインターホンが鳴り、話は中断。来訪者を確認すると、引っ越し業者だった。
俺達二人は急ぎ準備し、慌てふためきながら引っ越し作業が始まった。
「ん……」
俺は身に覚えのないアラーム音に目を覚ました。
片目の霞む視界には白色の天井。そして、ピンク色に肌色。身に覚えのない色彩に、未だ夢の中だと錯覚し目を擦った。
視界が晴れた俺は、更に驚愕することになった。
「あー、やっと目が覚めた。おっはよー、文哉」
「ああ、おはよう、リサ……?」
俺は声の主を見て、思考が停止した。
聴き馴染みある声につい、その名を口に出したが、そこに居るのはアンドロイドのリサだ。だが、喋り方、仕草、それら全てはAIのリサだ。
なんだこの状況。やっぱり夢の中にいるのか?
いやでも、俺は今布団を手にしている。感触は確かにある。じゃあこれは一体……。
「リサ、朝食モード実行」
「ん? 何それ」
音声認識コードが認識されない。それどころか受け答えをし始めた。
この行動自体に不可解なことはない。これらの行動は全て音声入力で幾らでも可能なのだから。
俺はベッドから立ち上がり、再びコードを口にした。
「リサ、休日外出支度モード」
「え? だから、何を言ってるのかわからないよ。え、って、え? ちょ、ちょっと!」
俺は衣類を上半身から脱ぎ捨て始めた。
通常ならこのまま俺は風呂場に向かい、事を済ませると脱衣所には着替えが用意されている。
そのはずなのだが、まさかの反応が返って来た。
「す、ストーップ! 文哉、脱ぐのストーップ!」
「はい?」
「ぬ、脱ぐなら私の見えない所で、お、お願い……」
リサは頬を赤く染め、両手で自らの目を覆っている。
今会話しているのはアンドロイドだ。会話の受け答えが可能なのは理解ができるが、このような感情表現が可能ということは初めて聞いた。説明書にもそのような記述はされていない。
俺は、行動ではなく対話を試みることにした。
「んー、えっと、質問していいかな。キミの名前は?」
「リサだよ?」
「キミはいつも僕のお世話をしてくれているね?」
「えー? 私、文哉のお世話なんてしたことないよ? あっそうそう、忘れてた! ちょっと、聞いてよ文哉! 私、お外に出ちゃって、動けてるの! 凄くない!?」
話が見えてきた。
つまり、今目の前に居るのは、いつも現実で接していたアンドロイドのリサではなく、パソコンの中に居たアシスタントAIのリサというわけだ。
まだまだ考察しないといけないだろうが、今は何より感情について考慮しなければならない。
「とりあえず、俺は風呂に入ってくるから、そこら辺で休んでて」
「うん、わかった!」
元気の良い返事と共に、ひらひらと揺れるフリル付きのメイド服が、リサの動きと連動してふわりと揺れ動く。
現状を愉しむようにクルクルと回った後、ベッドにストンッと腰を落とした。
ベッドの感触を楽しむリサを見届けた俺は、脱ぎ捨てた衣類を拾い風呂場へと向かった。
◇◇◇
「あっ、やっべ」
俺はバスタオルで体を拭きながら後悔していた。
いつもの要領でいたら、着替えを運び忘れていた。このままだと、リサにガミガミと説教されそうだ。と、思っていたが、洗面所の縁に衣類一式が掛けてあった。考えるのは後にして、着替え終えた俺は、リサが待つ寝室へと戻った。
「リサ、着替えを探し出してくれてありがとう」
「ふっふーん偉いでしょ、もっと褒めて!」
「うん、助かったよ」
胸を張り、得意げに鼻を鳴らしているリサへ感謝の意を伝えた。すると、何やら不思議なことを言い始めた。
「あー、でもねでもね、私も驚いたんだけど勝手に体が動いたと言うか、考えなくても衣類の場所がわかったと言うか」
「ほう? んー、じゃああれか。これは憶測にすぎないけど、聞いてくれ。意識的なものはAIのリサ。潜在的なものはアンドロイドのリサ、という感じに融合とまでは言わずとも、そんな感じになってるんじゃないかな」
「たぶんそうだね」
「随分と物分かりが良いな」
「まーね!」
流石、学習型アシスタントAI。状況把握能力に優れていると素直に感心する。だがこの表情、そして動作。一挙手一投足が人間のそれと類似、いや正に人間そのものだ。
興味をそそられる状況ではあるが、ここでインターホンが鳴り、話は中断。来訪者を確認すると、引っ越し業者だった。
俺達二人は急ぎ準備し、慌てふためきながら引っ越し作業が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる