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リサはリサでリサはリサ
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リサとの共同生活が始まり、一カ月が過ぎようとしていた。
俺達の間にぎこちなさは既になく、パソコン中に居た時のような関係性になっていた。家を空けている時は自分の意思で家事や買い物もこなす姿は見て、意思を持たないアンドロイドだったことを忘れさせていた。
そんな何不自由ない生活を送っている日々に異変が訪れた。
「今日も疲れたなー」
「おかえりなさいませ文哉様。お荷物をお運び致します――それと、ソファーにお着替えもご用意致しました」
「ありがとうリサ。今日は随分と用意がいいね。お疲れ様」
「お褒めに預かり光栄です。文哉様、ありがとうございます」
今日は随分と手の込んだいたずらを考えたもんだ。どうせ、映画でも見て影響されたのだろうが、流石というか完璧すぎる演技だ。
そっちがその気ならこっちだって考えがある。覚悟するがいい!
俺はリビングに行くなり一枚、また一枚と衣類を脱ぎ始めた。この行動にリサは、演技を継続不能なリアクションをするだろうと思った。
だが、俺の予想は的中しなかった。
「……」
俺は悪戯な笑顔を浮かべながらリサの表情を伺った――すると、リサは頬を赤らめ、目線を少しだけ逸らしているだけだった。
この状況を理解できず、俺はパンツ一丁のままリサの両肩に手を伸ばした。
「えっ――ど……どーしたんだよリサ。俺の裸にはもう慣れたってか?」
「ふ……文哉様、そろそろお洋服を着て頂けると……ありがたいです……」
「あ、ああ。ごめん、そうだな……着替えるよ」
どういうことだ。この様子、完全に別人のようだ。手の込み過ぎたロボットジョークなんて、何一つ笑えやしない。
故障。そんな嫌な言葉が頭を過る。ただでさえ世の中からはイレギュラーな存在のリサ。彼女をもし修理に出し、その異変に気付いた者が居るとすれば、もしかしたら研究対象になってしまう可能性だってある。最悪なイメージが頭の中で次々に形成されていく。
悪い妄想が広がる中、着替え終わった俺はある違和感を覚え、それを確かめることにした。
「もしかして、リサは、リサ……なのか……?」
「質問の意味を理解し兼ねますが、意図を読み取ると、はいと回答致します」
「――やっぱりそうなのか」
その回答を聞いた俺は、激しく高鳴る心臓の鼓動は徐々に収まり始めた。状況を完全に理解できたわけではないが、故障という言葉が消えたことに安堵した。
まずは、情報を整理する必要がある。
「リサ、記憶はあるかい? 例えば、引っ越しをする前に話をしたと思うんだけど、そこぐらいから」
「はい、私が最後に文哉様と会話させて頂いたのは、約一カ月前の引っ越し前夜です」
「なるほど、じゃあ、それ以降の記憶はどうかな? もう一人のリサは憶えていると思うけど、その関係性については?」
「じ、実はなのですが……」
「うん?」
今まで淡々と会話を進めてきたリサの表情が変わった。先程見た表情。頬を赤く染め、目を伏せ始めた。
「そ、その……全ての記憶があります……」
「あー、なるほどね……なんというか、同情するよ」
「恐れ入ります……」
リサとリサ、存在的には似通った二人ではあるが性格は真逆。更には自分の意識がある中、自分では想像が付かない行動を次々とされていたのだから、恥ずかしくて今にも消えたいぐらいだろう。
だが、更なる疑問が出てきた。
「あれ、ということは、リサも音声コード入力がなくても、行動している?」
「そうなのです。それに、今まで感じたことすらない感覚……? があります。まるで、私がこの世に生まれ落ちたような、とても不思議な感覚があります」
リサはその話をしながら胸に手を当て、薄っすらと綻んでいるように見える。
リサがそうだったように、目の前にいるリサも感情を持ち始めた、ということになるのか。だが、今までこんなことがなかったというのに、何が原因で入れ替わった(?)のだろうか。
「家にいる間、何かあったの? 怪我とか大丈夫?」
「何もなかったと言いたいところですが、物凄く心当たりがあります」
意味深な事を言い出したリサは左手で頭を押さえ落胆し始めた。
「はぁ……笑わないでくださいね。お恥ずかしながら、動画を視聴後、テンションが上がった私は鼻歌を交え、ダンスをして舞い上がっていました。その後、足を滑らせて――ソファーの角に足の小指をぶつけて転倒しました。そして気絶した私は目を覚まし、今に至るという経緯があります」
「ぷっぐぐっ」
こんなの卑怯すぎる。リサには申し訳ないけど笑わない方が無理だ。だって面白すぎるだろ、足を滑らせて小指をぶつけて――とか、リサ、すまない。
「ふ、文哉様っ、私が一番恥ずかしいのですからねっ!」
半泣き状態で顔を真っ赤にしているリサが更に俺のツボに刺さった。
腹を抱え笑う俺を見て、リサは両手で顔を覆い隠し始めた。
「あーっはっは、ごめんごめんリサ。ま、まあ状況は理解できた。それにその様子だと、もしかしたらまた入れ替わることがありそうだな。と言うことは、案外一番恥ずかしいのは、もう一人のリサかもな」
「ええ、それはもう羞恥心に悶えながら、しっかりと反省してもらいたいですね」
以前のリサは表情一つ変えないアンドロイドだった。それが、今では表情豊だ。今のリサも人間と差はない。
一瞬でも、二度とリサに会えないと冷や汗を掻いたが、その心配もいらなそうだ。
俺達の一風変わった日常は今後も続くだろう。
そして、自分でも気づき始めている。俺はリサに恋心を抱き始めているということを――。
俺達の間にぎこちなさは既になく、パソコン中に居た時のような関係性になっていた。家を空けている時は自分の意思で家事や買い物もこなす姿は見て、意思を持たないアンドロイドだったことを忘れさせていた。
そんな何不自由ない生活を送っている日々に異変が訪れた。
「今日も疲れたなー」
「おかえりなさいませ文哉様。お荷物をお運び致します――それと、ソファーにお着替えもご用意致しました」
「ありがとうリサ。今日は随分と用意がいいね。お疲れ様」
「お褒めに預かり光栄です。文哉様、ありがとうございます」
今日は随分と手の込んだいたずらを考えたもんだ。どうせ、映画でも見て影響されたのだろうが、流石というか完璧すぎる演技だ。
そっちがその気ならこっちだって考えがある。覚悟するがいい!
俺はリビングに行くなり一枚、また一枚と衣類を脱ぎ始めた。この行動にリサは、演技を継続不能なリアクションをするだろうと思った。
だが、俺の予想は的中しなかった。
「……」
俺は悪戯な笑顔を浮かべながらリサの表情を伺った――すると、リサは頬を赤らめ、目線を少しだけ逸らしているだけだった。
この状況を理解できず、俺はパンツ一丁のままリサの両肩に手を伸ばした。
「えっ――ど……どーしたんだよリサ。俺の裸にはもう慣れたってか?」
「ふ……文哉様、そろそろお洋服を着て頂けると……ありがたいです……」
「あ、ああ。ごめん、そうだな……着替えるよ」
どういうことだ。この様子、完全に別人のようだ。手の込み過ぎたロボットジョークなんて、何一つ笑えやしない。
故障。そんな嫌な言葉が頭を過る。ただでさえ世の中からはイレギュラーな存在のリサ。彼女をもし修理に出し、その異変に気付いた者が居るとすれば、もしかしたら研究対象になってしまう可能性だってある。最悪なイメージが頭の中で次々に形成されていく。
悪い妄想が広がる中、着替え終わった俺はある違和感を覚え、それを確かめることにした。
「もしかして、リサは、リサ……なのか……?」
「質問の意味を理解し兼ねますが、意図を読み取ると、はいと回答致します」
「――やっぱりそうなのか」
その回答を聞いた俺は、激しく高鳴る心臓の鼓動は徐々に収まり始めた。状況を完全に理解できたわけではないが、故障という言葉が消えたことに安堵した。
まずは、情報を整理する必要がある。
「リサ、記憶はあるかい? 例えば、引っ越しをする前に話をしたと思うんだけど、そこぐらいから」
「はい、私が最後に文哉様と会話させて頂いたのは、約一カ月前の引っ越し前夜です」
「なるほど、じゃあ、それ以降の記憶はどうかな? もう一人のリサは憶えていると思うけど、その関係性については?」
「じ、実はなのですが……」
「うん?」
今まで淡々と会話を進めてきたリサの表情が変わった。先程見た表情。頬を赤く染め、目を伏せ始めた。
「そ、その……全ての記憶があります……」
「あー、なるほどね……なんというか、同情するよ」
「恐れ入ります……」
リサとリサ、存在的には似通った二人ではあるが性格は真逆。更には自分の意識がある中、自分では想像が付かない行動を次々とされていたのだから、恥ずかしくて今にも消えたいぐらいだろう。
だが、更なる疑問が出てきた。
「あれ、ということは、リサも音声コード入力がなくても、行動している?」
「そうなのです。それに、今まで感じたことすらない感覚……? があります。まるで、私がこの世に生まれ落ちたような、とても不思議な感覚があります」
リサはその話をしながら胸に手を当て、薄っすらと綻んでいるように見える。
リサがそうだったように、目の前にいるリサも感情を持ち始めた、ということになるのか。だが、今までこんなことがなかったというのに、何が原因で入れ替わった(?)のだろうか。
「家にいる間、何かあったの? 怪我とか大丈夫?」
「何もなかったと言いたいところですが、物凄く心当たりがあります」
意味深な事を言い出したリサは左手で頭を押さえ落胆し始めた。
「はぁ……笑わないでくださいね。お恥ずかしながら、動画を視聴後、テンションが上がった私は鼻歌を交え、ダンスをして舞い上がっていました。その後、足を滑らせて――ソファーの角に足の小指をぶつけて転倒しました。そして気絶した私は目を覚まし、今に至るという経緯があります」
「ぷっぐぐっ」
こんなの卑怯すぎる。リサには申し訳ないけど笑わない方が無理だ。だって面白すぎるだろ、足を滑らせて小指をぶつけて――とか、リサ、すまない。
「ふ、文哉様っ、私が一番恥ずかしいのですからねっ!」
半泣き状態で顔を真っ赤にしているリサが更に俺のツボに刺さった。
腹を抱え笑う俺を見て、リサは両手で顔を覆い隠し始めた。
「あーっはっは、ごめんごめんリサ。ま、まあ状況は理解できた。それにその様子だと、もしかしたらまた入れ替わることがありそうだな。と言うことは、案外一番恥ずかしいのは、もう一人のリサかもな」
「ええ、それはもう羞恥心に悶えながら、しっかりと反省してもらいたいですね」
以前のリサは表情一つ変えないアンドロイドだった。それが、今では表情豊だ。今のリサも人間と差はない。
一瞬でも、二度とリサに会えないと冷や汗を掻いたが、その心配もいらなそうだ。
俺達の一風変わった日常は今後も続くだろう。
そして、自分でも気づき始めている。俺はリサに恋心を抱き始めているということを――。
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