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第二章

第8話『戦術授業』

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 これからは座学授業。
 作戦、戦略、戦術などの戦略面の内容を主に進行する。

「昨日、実技授業で感覚を取り戻したと思います。皆さんの中には毎日が実技授業なら、と望む人もいるかと思いますが、実際のダンジョンでは戦った、勝っただけのシンプルなものではなりません」

 先生の手には教本ではなく、代わりに数枚の資料書がありそれらの枚数を数え始めた。

「この資料を基に進行します。ですが、残念ながら全員に配ることはできないので、五つのグループに分かれてください。移動が面倒だと思うので今回は前後の席で組むんでください」

 先生は軽い説明を交えながら資料を各グループへと配布。
 それには、少ない説明文と数個の図が描かれていた。

「今から少しだけ設定を解説します。っとその前に、初めて同士の人もいると思うので自己紹介などしておいてください」

 最高段に集まる僕たちは自己紹介を始めた。
 まず初めに口を開いたのは桐吾とうご

「2人とは初めましてだね。僕は白刀はくとう桐吾とうご、クラスはウォーリア、よろしく」
「次は僕……かな。楠城くすのき志信しのぶです。クラスはアコライト、よろしく」

 流れのまま何気ない顔で、すらすらと言葉を並べたけど、つい目線で口元や顔色を窺っている。
 そんな内心とは裏腹に2人は、順々に自己紹介を進めた。

「こうやってしっかりお話しするのは初めてよね。あたしは古宇田こうだ彩夏さやか、メイジよ。よろしくー」

 そういば古宇田こうださんは、守結まゆ姉のことを根掘り葉掘り訊かれていたときに居た記憶がある。
 活気があるというか、気が強そうな印象がある。

「最後は私ね。月森つきもり美咲みさき、クラスはプリーストです。よろしくお願いします」

 少し大人しそうで、落ち着いて淡々と話すその口調からは、感情をあまり表に出さなそうな印象を抱いた。
 自己紹介を終えたタイミングで、先生の説明が始まった。

「では、そろそろ始めますね。まず第一項――初の初層へ到達したとします。序層で、討伐済みのモンスターと色違いだが瓜二つの姿形をするモンスターに遭遇した場合、目の前に居る一体と少し離れたところの三体、どちらを優先するべきしょうか。理由など記入せず三十秒以内に判断してください」

 課題伝達が終了後、すぐに各所から討論の声が上がり始める。
 話を切り出したのは桐吾とうご

「みんなはどちらだと思う?」
「あたしは初めの一体で良いと思うわ」
「私もそう思います」
「うん、僕もそうだと思う」

 僕たちのグループ全員の意見一致にして即決だった。

「はい、では以上では時間です。一体は右手を、三体は左手を挙げてください。――はい、ありがとうございます。圧倒的にというか一つのグループ以外は三体の方を選んだようですね。効率的に考えれば、もっともな解答だと思います。が、ダンジョン内での正解は一体の方です」

 周りのグループからは不服と疑問を嘆く声が次々に上がる。
 先生はその声々を掻き消すように授業を進め始めた。

「何故かというと、モンスターには瓜二つの姿形をしていても、色や模様によって名称が分かれています。ということはもちろん、攻撃パターンや行動パターンなどが違います。そのような状態で、効率だけを考慮してしまうと対処法を図り違える可能性があります。そうならないために、まずは孤立しているモンスターを相手に思慮深く戦う必要があるというわけです」

 解説を耳にしても、不服を漏らす声が残る。が、先生はそれらを無視して進行を続けた。

「次は陣形についてです。これは現在の各グループ毎のクラス編成で思索してもらいます。図面上に登場するモンスターはそれぞれランダムで設定してありますので、最善策を導いてみてください。制限時間は三十分にします」

 先生は最後に制限時間を告げた後、教卓に置時計を乗せた。
 資料図には、中心の小さい円。そして、前方にモンスターと見做す小さい円が六個。と、問い文が『前方六体のモンスターを討伐するには』と短い文がある。
 このグループは他の所に比べてアンバランスだ。人数だけなら比較的簡単に対処可能であろうけど、前衛職が1人しかいないため、これぐらいの設定は運が良いかもしれない。

「僕たちの編成は後衛職が多いから僕が単独最前線、後衛職は後方で展開するのがセオリーだよね」
「うん、そうね。あたしたち後衛はできるだけ展開、視界を広くしつつ戦闘する方がいいよね」
「そう……かな? 私は彩夏さやかちゃんが最後方、志信しのぶ君と私は白刀はくとう君の近くで断続的に回復をした方が良いのかなって思うかな。こう、一直線陣形な感じで」

 各々が意見を積極的に出し合っているなか、僕は1人思考を巡らせてた。

「確かに、僕を起点とするならその方が良さそうかも……んー、志信はどう思う?」
「そう……だね。これは推測論で過剰警戒かもしれないんだけど、この場合だと桐吾は最前線で立ち回る感じは変わらず、僕たち後衛職は古宇田こうださんを中心に密集陣形をとった方がいいと思う」
「え、でも、それじゃ白刀君の回復が遅れちゃうし、何より密集した方に敵が来たら対応できないんじゃ?」
「確かに回復の循環は遅くなるかもだけど、それも視野に入れた戦術でもあるんだ。――それに、敵は常に前だけではない」

 納得のいかなそうな顔をしているのは月森さん。だけど、話に耳を傾けていた古宇田さんがある点に気づいたようだ。

「あっ、そっかなるほど。ヘイト管理ね」
「なるほど、僕の行動に制限を掛けないようにできるというわけか。だけど、敵は前だけじゃないってどういうこと?」
「えっと――ヘイト管理を主に考えると、ヘイト管理から外れた敵が左右側面から攻めてこられると対処できない、ということ。それに、ダンジョン内では正直に前だけから攻めてくるわけないよね。そこを、密集して僕と月森さんで警戒することによって、古宇田さんを攻撃魔法だけに集中してもらうって感じ。それと、支援職には盾を有効活用して時間稼ぎもできるからね」

 落ち着いた口調だったからか、みんなは目を丸くして僕に視線を一点に向けて口を開けている。まるで、驚愕を隠せないでいるかのように。

「た、確かに……うん、僕は志信の意見を尊重したいと思う。2人はどうかな?」
「あたしは文句の付け所すらないと思ったわ。守ってもらう側からすれば死界がなくなって心強いし、何よりこのバランスの悪いパーティでも心配なく戦えるから同じく賛成」
「――私も、賛成……かな。私にヘイトが向いた時の対処もできるってことだよね。ということは、後衛職が全員でカバーし合えるから孤立する心配もなくなることにもなるし」
「じゃあ、意見の一致ということで、僕たちの解答は決まりだね」

 資料へ自分たちの立ち位置と陣形を記入終了。
 そして、程無くして先生から終了の合図が出た。

「では、各グループの資料を前まで持ってきてください」

 僕が提出することになり、前に行くことになった。
 手渡しする際に先生は「ほほう」と、興味を示しているような反応を見せてたけど、特に質問をされることもなくそのまま自席に戻った。

「今回の授業は盤面戦術という形でやっていきましたが、本来はこのような判断をその場しなければなりません。今回のようにその場その場で対処していては対処しきれないことがあります。ですので、これらをより潤滑に進めるため必要なのが作戦です。そして、これらをまとめ上げるようなものが戦略です」

 先生の言ってることはピラミッド型に置き換えて説明できる。
【戦略】が階層を攻略するためのシナリオ。
【作戦】が戦略達成するために必要な大小の目標。
【戦術】は戦略や作戦を成功に導くための陣形や配置。
【戦法】は実戦においての立ち回りやスキルの使い回し方。
 このように上から成り立てることができる。

「なので、今まで通り目の前にいる敵のことだけ考えていてはダメというわけです。皆さんが今後、ダンジョンから無事に生還するために必要なことですので、必ず心得ておいてください。――では、本日はここまでとなります。明日からお休みですので、三連休だからといって予習復習を欠かさないように。週明けには大規模実戦演習を行いますので覚悟しておいてください」

 先生は気になる言葉を言い残し、授業を締め退出していった。
 授業が終わるやすぐにクラス内は歓喜の声で溢れて騒がしくなっている。

 三連休かあ、特に予定もないしどうしようかな。
 それに、大規模実戦演習――三連休の内に色々と想定しておかないとかな。
 よし、かえで椿つばきと一緒に、勉強会でもしよう。
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