還る場所

マナ

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序章 拾い物

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人の少ない小さな駅の男子トイレで赤ん坊を見つけた。それも二人。泣いてなどおらず、目を閉じて息をしていた。鳴き声の一つでも上げていれば、流石に自分が見つけるより早く発見され、駅員の元へ報告があっただろう。
女子トイレではなく、男子トイレなのだ。このような事態において、即座に対応できるような男など早々おらず、精々が駅員に泣きつくくらいだ。這々の体で赤子を同時に抱き上げるか、駅員を呼びに行くか。
常の自分でもそのくらいのことしかできない。
ーーそれが最良の筈だった。赤子たちには。
ただ、この時自分は、諸事情によりほとんど空のキャリーケースを持っていた。
男子トイレには自分一人しか居なかった。
赤ん坊は熟睡していて、起きる気配などなかったし、抱き上げたら暖かかった。
外は土砂降りの雨でとても寒く、自分にはこの二つの温かな塊がカイロに思えてならなかった。
だから、巻き付けられていたふわふわのタオルケットやクッションと一緒に、その二つの塊をキャリーケースにそっと入れ、その駅を後にしてしまった。
ついでに言うのなら、その駅を利用したのは人生でその時だけであり、その先、未来永劫自分が訪れることはなかった。
そう、言わば、通りものに当たってしまったのだ。魔が差したのだ。心底厄介だと自覚しているのは、自分の心に欠片も罪悪感が存在しなかったことと、浮き足立つような高揚感もなかったこと。
ただ、ただ、何処までも冷たい雨の中を歩くのに嫌気がさし、泥より深く沈殿した心をほんの少し労ってやりたいという思いだった。
自分へのささやかなお土産みたいだった。家に帰って、ケースを開ける瞬間を少しでも楽しみにさせるための、自分への偽装工作だった。
後悔も罪悪感も高揚感もなく、水平線の様に限りない永遠の退屈さで拾った赤子たちだった。

もし、この先、自分というどうしようもない人間が誰かに謝る日が来るのなら、それはこの赤子たちになるだろうな、と思った。
ようやく帰宅してキャリーケースを開けた時、そんな殊勝なことを考えた自分に笑ったら、静かに目をぱちりと開けていた赤子たちが二人同時に笑って、小さな手を伸ばしてきた。
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