王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

文字の大きさ
28 / 79
精霊候補編2

05

しおりを挟む
 身の毛もよだつようなおぞましい内心を持つ聖女ミーアスだが、悪魔としてのチカラはまだまだなのか……精霊候補生であるイザベルに天から観察されているとは気づかない様子。醜い心の声とは真逆の清純な泣き声で、ミーアスは王太子アルディアスの棺を見送る。

「ふぇええんっアル様ぁああっ。ミーアスは、これからどうやって生きていったらいいのぉおお」
「落ち着いてくださいませ、聖女ミーアス様。残念ながらアルディアス様は天に召されてしまいましたが、例えアルディアス様がいなくなったからと言ってミーアス様の地位が下がることはありません。国の加護は引き続きミーアス様に保証されますゆえ」

 恐ろしいことに、葬儀に参列している大衆の大半は、聖女ミーアスの小芝居にすっかり飲まれていて、心底同情しているようだ。

「……うぅグスッ。本当に、本当にミーアスはこの国にいても良いの? アル様はもう現世にはいないんだよぉ」
「ご安心ください、聖女ミーアス様には引き続き、この国を見守って頂かなくては」

 自分のポジションが国で守られることを聞いて安心したのか、ミーアスは泣くのを一旦やめて棺から離れる。

「出棺致します、お下がりください」


 * * *


 黒く大きな葬儀用の馬車で棺が運ばれ、その後ろから御付きの者の馬車、大勢の人々が列をなして練り歩く。

「さようなら、王太子様。我々はあなたのことを忘れません……丘の上で安らかに」
「不慮の死は王太子様も無念のはず。天国へと行けるように、国民で祈りを捧げましょう!」

 哀しみの花を娘達が籠から路上に振り撒き、白や青の花吹雪が風と共にさらわれた。丘の上の王家の墓に降り注ぐ夕刻の陽射し、オレンジの光は別れの時が近づいていることを知らせている。

 すると埋葬直前、何かを思い出したように突然、聖女ミーアスが墓を掘り起こしてアルディアスの棺に魔法をかけようとする。

「待って! 最後に、最後にアル様が安らかに眠れるように、おまじないをさせて頂戴っ」
「なりません、ミーアス様っ」

 最後に棺に向けて何かの魔法を使おうとしたミーアスだったが、途中で聖職者達に止められてしまう。

「なんで、なんで、どうして私の魔法を止めるの?」
「申し訳ございません、ミーアス様。聖女様とはいえ、埋葬時に別の呪術をかけることは禁止されております」

 するとそれまで大人しくしていたミーアスが、プライドを傷つけられたのか我を忘れて怒鳴り始めた。

「はぁああっ? 雇われ聖職者の分際で、選ばれし聖女たる私の祈りを疑うっていうのっ」
「……非常に申し上げにくいのですが、アルディアス様は黒魔法によって殺されたという説もあります。ここは引き下がった方が、賢明かと」
「…………チッ」

 ついに王太子アルディアスの棺は、丘の上に設置されている王家の墓に埋葬された。
 恨めしそうな目で王家の墓を見つめるミーアスをよそに、聖職者達はアルディアスの魂を宥めるために必死の覚悟で高レベルの魔除や除霊術を施す。

「若き王太子アルディアス、肉体は滅んでも魂は永遠に守られるであろう!」

 聖職者達が祈りを墓の前で捧げて、永遠の眠りを願う儀式を終える……はずだった。

 カタカタカタカタ……ガタンッ!
 グシャッ!

「ぐぎゃあああっ!」
「し、神父様ぁああっ!」

 永遠の眠りを願う祈りが届かなかったのか、はたまた風の反逆か。王家の墓を守る墓標が、突然バランスを崩して地面に落ちた。そしてその拍子に祈りを捧げていた聖職者が一名、巨大な墓標の先端に頭を打たれて死亡したのである。

「きゃああっ! 王太子様の墓標が、突然崩れたわぁっ。神父様まで巻き添えにィイイイ。やはりこの国は呪われている、不吉よ、不吉なんだわっ」
「もうダメだ、この国はっ! 無実の罪で投獄されたイザベルは、死を見ずに天に登ったと言われている。そのイザベルを殺そうとした王太子アルディアス様が、神の御加護を受けられるはずがない。遅かれ早かれ、この国は滅亡するっ」


 ――大混乱の中、王太子アルディアスの葬儀は幕を閉じた。
 最後に天のモニターに映し出された聖女ミーアスは、一瞬だけ口角をあげてニヤッと笑った。まるで、国が滅ぶカウントダウンを祝うかのように。

(これが今のこの国の現状、故郷の現実……!)

 精霊候補であるイザベルが天から確認出来た地上の様子は、そこで一旦中断された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

処理中です...