王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

文字の大きさ
29 / 79
精霊候補編2

06

しおりを挟む
 地上が想像よりも荒れていたため、イザベルは驚きで思わず立ち尽くしていた。

(本来はもっと厳粛に行わなくてはいけない王太子アルディアスの葬儀でさえ、騒ぎの中で終わってしまったわ。それに私が天に上がってから、しばらく時間が経っている気がするけれど……。もしかして、地上と精霊界では時間の流れが違うの?)


「大丈夫かい、イザベル。今の地上は思ったよりも悪い瘴気に満ちているから、気に当てられたのかも知れないね。少し、休んだ方が良い」
「私も休憩取るの賛成! あんなに地上が悪魔に乗っ取られてるなんて、予想外だもん。聖職者のお祈りが失敗したのも、多分悪魔ミーアスがお祈りの妨げになっているからだと思うよ。イザベルも影響受ける前に休んだ方が……」

 画面が消えた『天のモニター』を見つめて呆然とするイザベルだったが、精霊神ティエールや小妖精リリアに話しかけられてふと我に帰る。

「えっええ、まさか王太子が亡くなっているなんて思わなかったし。聖女ミーアスが、あんなに本格的な悪魔憑きだとは気づかなかったから。ありがたく休ませてもらうわ」

 いくつかの場面が切り替わり天のモニターでは、静かな夕刻の湖畔の景色や菩提樹周辺の様子を流すのみ。時折、人々が菩提樹の前に設置された精霊像の前で、平和の祈りを捧げている。この祈りの様子が、本来精霊が加護すべき人々の姿なのだろう。

「地上の様子を見て気づいたかも知れないけれど、実は精霊界と地上では時間の流れがイコールではないんだ。時空の歪みで、タイムラグが発生するから。精霊界ではまだ一日しか経っていないように見えても、地上ではイザベルが天に上がってから数日経っているはず」
「やっぱりそうだったのね。それにしても瘴気に満ちた地上の様子をモニターで見ていただけなのに、随分と疲れちゃった……」

 身体に満ちていたエネルギーが多少なりとも奪われた感覚のあるイザベルは、テラス席に腰をかけて深くため息をつく。祈り聞きの部屋は空気が澄んでいて清らかなせいか、呼吸をするたびに自身が浄化されていくのをイザベルは感じ取っていた。
 小妖精リリアも地上の景色がまともなものに切り替わり、ようやく安心したのか蝶々のような羽をたたんでテーブルの上でひと休みしている。

「精霊候補生は、人間から精霊になりたてのいわば赤子のようなもの。人間時代に比べれば気力が充実しているけれど、本来的な精霊よりも悪い気に当てられやすいのが弱点なんだ。試験期間が終わるまでは、【地上の悪魔ミーアス】に関わらないようにして、無難な祈願だけ引き受けた方が良いだろう」
「地上の悪魔って……さっきの聖女ミーアスは、やっぱり」

 精霊官吏という職務についているティエールが、聖女ミーアスを迷わず悪魔と断言したことに驚く。

「あぁ。キミをかつて嵌めた聖女ミーアス、彼女の本来的な魂はとっくに悪魔に飲まれていて人間とは呼べない代物だ。とても危険な存在だが、地上にいる限りはキミに手出しは出来ないだろう。遠くからなるべく関わらないように距離を取って、上層部に対処は任せた方が無難だ」

 てっきり精霊候補生になった限りは、地上の悪魔や聖女ミーアスへの対処も担当させられると考えていたが、見習いのイザベルには時期尚早のようだ。むしろ危険性が高いという理由で、距離を置くようにやんわりと命じられてしまった。

「では、今日の祈り聞きのお仕事は?」
「休憩が終わったら、無難な平和の祈りをいくつかピックアップして、地上に加護を与えておこう。悪魔から受けた瘴気の影響で、本来ならば悪夢を見るところを平和な夢に差し替えることが出来る」

 加護の内容が夢に介入するとは意外な精霊の仕事だが、毎日悪夢にうなされるより過ごしやすくなるだろう。

「精霊様の加護というのは、心の平安を守る意味合いもあるのね」
「うん、精霊信仰が低くなっている今となっては加護はそれほど効かないだろうけど。それでも救いを求める人々の役に立ちたいから」

 精霊神として優しく微笑むティエールは、部下であり婚約者であるイザベルにとって頼もしい存在。

(きっと地上の人々にとっても、ティエールはいざという時の心の支えになる精霊神に違いないわ)

 しかしながら、いかにティエールがイザベルを守ろうとしても、イザベルは悪魔と対峙する宿命を背負っていた。
 イザベルはその後、王太子アルディアスの魂が地獄のハデスに送り込まれる瞬間に宿命的な遭遇をするのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...