30 / 79
精霊候補編2
07
しおりを挟む
「イザベルさん、初めての精霊候補任務お疲れ様でした。精霊の加護によって、地上の人間達もしばらくは瘴気による悪夢から守られることでしょう」
祈りの場本部から長老宅に戻ると既に、イザベル達の仕事ぶりが通達済みだった。メイドのラズから労いの言葉をかけられて、ほっと胸を撫で下ろすイザベル。
「ふぃー。いきなり地上が荒れててびっくりしたけど、イザベルは結構冷静に地上を判断してたと思うよ! 今日のお仕事は合格だねっ。さぁてと、アタシも今日は、この邸宅の妖精待機室でマッタリとさせてもらおうっと」
ずっとイザベルの肩に乗っていたお目付役の小妖精リリアが、今日の任務終了と言わんばかりにパタパタと羽を広げて浮遊する。どうやらしばらく、長老宅で仕事以外の時間は待機するようだ。
「ふふっ今日は一日ありがとうね、リリア。ところで、明日も祈りの場本部で、加護のお仕事をすれば良いのかしら?」
イザベルの素朴な疑問に、ラズが書類をパラパラ捲り確認をし始める。どうやら明日以降のスケジュールの具体的な内容は、まだ決まっていないようだ。
「そうですね……精霊界で夜が更けるうちに、地上では再び一週間ほど経過するでしょうから。地上の社会情勢に合わせて、活動拠点を決めたいと思います。原則として、長老宅から勤務先に向かう仕組みだけは変わりませんので」
「分かりました。ではまた明日……」
一通りの手続きを済ませて、無事に初日の仕事を終えたイザベル。上司であるティエールも長老への報告を終えたようで、ようやくロビーで合流。
「やぁイザベル、僕の方も長老様への報告終わったよ。初仕事から瘴気にあてられて大変だったけど、大丈夫そうで良かった。さて、今日の夕食は霊力補充が出来る精霊御用達、霊峰七面鳥のローストセットでも買って行こうか」
「霊峰七面鳥のロースト? 人間界では冬のお祈り期間しか七面鳥を食べないけれど、精霊界では結構普段から頂いているの?」
「そうだね。滋養を蓄えたい時やちょっとしたお祝いの場でも食べるから、人間界の食生活より身近な存在かな。市街地に有名なお店があるから、オススメだよ」
地上の荒れた葬儀の様子を見てすっかり奪われてしまった霊力を回復するため、霊峰七面鳥のローストを購入してから帰宅することに。
* * *
役場的な存在の長老宅を出ると、外は綺麗な夕焼け色。虹や星がキラキラと輝いている空が、次第に闇色に沈む姿は不思議な景色である。
しばらく大通りを歩くと、精霊達で賑わう街の中心地に到着。ザワザワする人混みに、イザベルは一瞬だけまだ自分が人間でいるような錯覚を覚えてしまう。
「えぇとチキン屋さんは……もしかして、あの行列のお店かしら。【優しいハーブで育てた霊峰七面鳥や高位種鶏で霊力回復】って看板」
「うん、あの一番人気の店舗だけど、それにしても混んでいるなぁ。テイクアウトだし、番号札を貰って先に注文して時間になったら、お店に七面鳥を取りにこよう」
多数並ぶ飲食店の中でも一際目立つ行列は、この界隈で最も人気があることを示していた。高齢者のみならず若いカップルや親子連れも多く、幅広い世代から支持されている霊力回復のチキンショップのようだ。
「いらっしゃいませ! テイクアウトのお客様ですね。ご注文は……霊峰七面鳥ローストと霊力回復セット二人分。一時間ほどでご用意出来ますので、しばらくお待ち下さい」
メニュー表を配る店員にテイクアウトの注文を素早くして、番号札を受け取り行列から外れる。
「一時間待ちか……どうするイザベル、ちょっとだけウインドウショッピングでもするかい」
「そうね、仕事用のメモ帳やペンがちょっと心許ないから、補充しておいた方が……あら、何かしら。あの人だかり……通行止め?」
先程まで買い物中の精霊達が行き交っていたはずの大通りが、兵士たちの手によって通行止めとなっている。
「大変だっ! 地獄のハデス行きの護送馬車から、凶悪霊魂が逃亡したらしいぞっ」
「いやぁああっ。怖いわ、あの人間の魂……完全に悪霊よっ」
「気をつけてください……王太子の霊魂に近づかないように、落ち着いて」
地獄のハデス行き。
護送馬車から逃走。
そして、王太子の霊魂という稀有な特徴。
(逃走中の王太子の霊魂って、まさか……まさかっ)
ようやく落ち着いてきたイザベルの背筋に、ゾッ……と悪寒が走る。
「見つけたぞぉ~イザベルゥウウウウ! 頼む、頼むから助けてくれぇえええっ」
「きゃああっ!」
狂った様に精霊界を逃げ惑う邪悪な霊魂の男は、イザベルの元・婚約者『王太子アルディアス』に他ならなかった。
祈りの場本部から長老宅に戻ると既に、イザベル達の仕事ぶりが通達済みだった。メイドのラズから労いの言葉をかけられて、ほっと胸を撫で下ろすイザベル。
「ふぃー。いきなり地上が荒れててびっくりしたけど、イザベルは結構冷静に地上を判断してたと思うよ! 今日のお仕事は合格だねっ。さぁてと、アタシも今日は、この邸宅の妖精待機室でマッタリとさせてもらおうっと」
ずっとイザベルの肩に乗っていたお目付役の小妖精リリアが、今日の任務終了と言わんばかりにパタパタと羽を広げて浮遊する。どうやらしばらく、長老宅で仕事以外の時間は待機するようだ。
「ふふっ今日は一日ありがとうね、リリア。ところで、明日も祈りの場本部で、加護のお仕事をすれば良いのかしら?」
イザベルの素朴な疑問に、ラズが書類をパラパラ捲り確認をし始める。どうやら明日以降のスケジュールの具体的な内容は、まだ決まっていないようだ。
「そうですね……精霊界で夜が更けるうちに、地上では再び一週間ほど経過するでしょうから。地上の社会情勢に合わせて、活動拠点を決めたいと思います。原則として、長老宅から勤務先に向かう仕組みだけは変わりませんので」
「分かりました。ではまた明日……」
一通りの手続きを済ませて、無事に初日の仕事を終えたイザベル。上司であるティエールも長老への報告を終えたようで、ようやくロビーで合流。
「やぁイザベル、僕の方も長老様への報告終わったよ。初仕事から瘴気にあてられて大変だったけど、大丈夫そうで良かった。さて、今日の夕食は霊力補充が出来る精霊御用達、霊峰七面鳥のローストセットでも買って行こうか」
「霊峰七面鳥のロースト? 人間界では冬のお祈り期間しか七面鳥を食べないけれど、精霊界では結構普段から頂いているの?」
「そうだね。滋養を蓄えたい時やちょっとしたお祝いの場でも食べるから、人間界の食生活より身近な存在かな。市街地に有名なお店があるから、オススメだよ」
地上の荒れた葬儀の様子を見てすっかり奪われてしまった霊力を回復するため、霊峰七面鳥のローストを購入してから帰宅することに。
* * *
役場的な存在の長老宅を出ると、外は綺麗な夕焼け色。虹や星がキラキラと輝いている空が、次第に闇色に沈む姿は不思議な景色である。
しばらく大通りを歩くと、精霊達で賑わう街の中心地に到着。ザワザワする人混みに、イザベルは一瞬だけまだ自分が人間でいるような錯覚を覚えてしまう。
「えぇとチキン屋さんは……もしかして、あの行列のお店かしら。【優しいハーブで育てた霊峰七面鳥や高位種鶏で霊力回復】って看板」
「うん、あの一番人気の店舗だけど、それにしても混んでいるなぁ。テイクアウトだし、番号札を貰って先に注文して時間になったら、お店に七面鳥を取りにこよう」
多数並ぶ飲食店の中でも一際目立つ行列は、この界隈で最も人気があることを示していた。高齢者のみならず若いカップルや親子連れも多く、幅広い世代から支持されている霊力回復のチキンショップのようだ。
「いらっしゃいませ! テイクアウトのお客様ですね。ご注文は……霊峰七面鳥ローストと霊力回復セット二人分。一時間ほどでご用意出来ますので、しばらくお待ち下さい」
メニュー表を配る店員にテイクアウトの注文を素早くして、番号札を受け取り行列から外れる。
「一時間待ちか……どうするイザベル、ちょっとだけウインドウショッピングでもするかい」
「そうね、仕事用のメモ帳やペンがちょっと心許ないから、補充しておいた方が……あら、何かしら。あの人だかり……通行止め?」
先程まで買い物中の精霊達が行き交っていたはずの大通りが、兵士たちの手によって通行止めとなっている。
「大変だっ! 地獄のハデス行きの護送馬車から、凶悪霊魂が逃亡したらしいぞっ」
「いやぁああっ。怖いわ、あの人間の魂……完全に悪霊よっ」
「気をつけてください……王太子の霊魂に近づかないように、落ち着いて」
地獄のハデス行き。
護送馬車から逃走。
そして、王太子の霊魂という稀有な特徴。
(逃走中の王太子の霊魂って、まさか……まさかっ)
ようやく落ち着いてきたイザベルの背筋に、ゾッ……と悪寒が走る。
「見つけたぞぉ~イザベルゥウウウウ! 頼む、頼むから助けてくれぇえええっ」
「きゃああっ!」
狂った様に精霊界を逃げ惑う邪悪な霊魂の男は、イザベルの元・婚約者『王太子アルディアス』に他ならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる