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精霊候補編2
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西方大陸の小国家バルディアが誇る第二王太子アルディアスといえば、神から選ばれた麗しい銀髪の美青年と評判で、若い娘達の憧れの的だった。
『あぁ……小国家バルディアの随一の良い男といえば、アルディアス様よね。どうしてお告げは、イザベルを花嫁にすると決めたのかしら? わたくしがアルディアス様の相手だったら良かったのに!』
『さらに聡明で乗馬も得意、天はこの世の栄光すべてをアルディアス様に与えてしまったのね』
『銀髪が風になびく姿は絵画のようで、まるで御伽噺から抜け出してきた方だわ。アルディアス様と同じ時代に生まれてこられただけでも神に感謝しなくては……!』
かつて彼の婚約者として地上で暮らしていたイザベルは、アルディアスが同世代の娘達からどれほど好かれていたか痛いほど実感している。
『白馬に乗った王子様、アルディアス』
人間時代の記憶を振り返っても、多くの娘達がアルディアスを称賛していたのだから。
* * *
だが、今イザベルの目の前にいる男の魂からは、羨望を一身に集めた華やかな王太子の面影すら見受けられない。悪魔の瘴気で汚れた銀髪は健康な老人の白髪よりも生気がなくパサパサで、透き通る泉のようだと謳われていた瞳は恐怖の色で濁っていた。
立派なマント姿だったはずの死装束は、護送馬車から逃げる道のりでボロボロになったのか、ただの布切れを纏っただけに見えなくもない。
「イザベルゥウウウウ! イザベルだよな、あぁオレはなんて運がいいんだっ。本当にお前が精霊になって天で生活しているとはっ。なあ頼むよ、お前を投獄したことは謝るから、オレをハデス送りにするのは辞めてくれないかっ。悪気は無かったんだ。全部あの悪魔ミーアスが悪いっオレだって被害者なんだよっ」
「きゃっ辞めて、スカートの裾を触らないでっ」
「堅苦しいこと言わないでくれよ、イザベルッ! なぁお前、精霊神に気に入られているんだろう? なんとか取り入って、説得してくれよ」
冥土に落とされ、護送馬車から霊魂の状態で逃げ果せたアルディアスの姿は、かつての栄光も美貌も見る影すら無い。地べたに這いつくばりながら、必死にイザベルの足下で命乞いをする姿は王太子として、そして男としてのプライドすら捨ててしまった感じである。
イザベルに縋るように纏わり付くアルディアス王太子の霊魂を追い払うように、ティエールが二人の間に割って入った。ざわつく民衆が遠巻きながら三人のやり取りを見守る中、死者のルールについてティエールが説明する。
「彷徨える王太子アルディアスの霊魂よ、罪人に関する地獄のハデス行きは我々精霊神が決定を下すわけでは無い。人間の罪に関するデータをすべて所有する冥界の神が、最終的に決めることだ。肉体を持たない霊魂が、このまま浮遊するのは危険な行為。大人しく、護送馬車に戻った方が身のためだ」
「そっそんなっ。イザベルには慈悲を与えるのに、オレには無いのか? オレだって、あのミーアスとか言う悪魔に取り憑かれるまでは、国のために頑張っていたのにっ! イザベルのことだって、オレは殺す気なんかなかったんだっ。分かってくれよ……慈悲を、慈悲をぉおおっ」
あまりにも情けなく命乞いするアルディアスをイザベルはこれ以上直視出来ず、思わず目を背けてしまう。一方、ティエールは精霊神という職業柄、淡々と対処していた。
「敢えて慈悲と言うのなら、安全な護送馬車に乗せてもらえる事だろう。地獄の道のりを気性の荒い馬に引き摺られて行くよりは、かなり楽なはずだが……。警備兵、アルディアス王太子の霊魂を護送馬車へ……早く」
ティエールは護送馬車の警備を行う兵士と連携して、アルディアスの霊魂を安全な護送馬車へと再び戻そうとした。兵士にグイグイと背中を押されて、無理やり歩かさせられながら、アルディアスの霊魂は最後の抵抗をする。
「ひぃいいいいっ嫌だっ。地獄は嫌だぁっ」
「オラッ! 早く歩くんだっ。直接縄で縛られて、地面に引き摺られたくなければなっ。急げよっ」
「そんな馬鹿な。どうしてなんだよ、なんでオレが地獄のハデス行きなんだっ。オレは……オレは、バルディアの王太子アルディアスなんだぞぉぉおお」
バタンッ!
護送馬車の頑丈な格子付きの扉が閉じると、不思議なことにアルディアス王太子の声はピタッと聴こえなくなった。
だが、イザベルの心にはしばらくの間、アルディアス王太子の悲鳴にも似た叫び声が鳴り響いていたという。
『あぁ……小国家バルディアの随一の良い男といえば、アルディアス様よね。どうしてお告げは、イザベルを花嫁にすると決めたのかしら? わたくしがアルディアス様の相手だったら良かったのに!』
『さらに聡明で乗馬も得意、天はこの世の栄光すべてをアルディアス様に与えてしまったのね』
『銀髪が風になびく姿は絵画のようで、まるで御伽噺から抜け出してきた方だわ。アルディアス様と同じ時代に生まれてこられただけでも神に感謝しなくては……!』
かつて彼の婚約者として地上で暮らしていたイザベルは、アルディアスが同世代の娘達からどれほど好かれていたか痛いほど実感している。
『白馬に乗った王子様、アルディアス』
人間時代の記憶を振り返っても、多くの娘達がアルディアスを称賛していたのだから。
* * *
だが、今イザベルの目の前にいる男の魂からは、羨望を一身に集めた華やかな王太子の面影すら見受けられない。悪魔の瘴気で汚れた銀髪は健康な老人の白髪よりも生気がなくパサパサで、透き通る泉のようだと謳われていた瞳は恐怖の色で濁っていた。
立派なマント姿だったはずの死装束は、護送馬車から逃げる道のりでボロボロになったのか、ただの布切れを纏っただけに見えなくもない。
「イザベルゥウウウウ! イザベルだよな、あぁオレはなんて運がいいんだっ。本当にお前が精霊になって天で生活しているとはっ。なあ頼むよ、お前を投獄したことは謝るから、オレをハデス送りにするのは辞めてくれないかっ。悪気は無かったんだ。全部あの悪魔ミーアスが悪いっオレだって被害者なんだよっ」
「きゃっ辞めて、スカートの裾を触らないでっ」
「堅苦しいこと言わないでくれよ、イザベルッ! なぁお前、精霊神に気に入られているんだろう? なんとか取り入って、説得してくれよ」
冥土に落とされ、護送馬車から霊魂の状態で逃げ果せたアルディアスの姿は、かつての栄光も美貌も見る影すら無い。地べたに這いつくばりながら、必死にイザベルの足下で命乞いをする姿は王太子として、そして男としてのプライドすら捨ててしまった感じである。
イザベルに縋るように纏わり付くアルディアス王太子の霊魂を追い払うように、ティエールが二人の間に割って入った。ざわつく民衆が遠巻きながら三人のやり取りを見守る中、死者のルールについてティエールが説明する。
「彷徨える王太子アルディアスの霊魂よ、罪人に関する地獄のハデス行きは我々精霊神が決定を下すわけでは無い。人間の罪に関するデータをすべて所有する冥界の神が、最終的に決めることだ。肉体を持たない霊魂が、このまま浮遊するのは危険な行為。大人しく、護送馬車に戻った方が身のためだ」
「そっそんなっ。イザベルには慈悲を与えるのに、オレには無いのか? オレだって、あのミーアスとか言う悪魔に取り憑かれるまでは、国のために頑張っていたのにっ! イザベルのことだって、オレは殺す気なんかなかったんだっ。分かってくれよ……慈悲を、慈悲をぉおおっ」
あまりにも情けなく命乞いするアルディアスをイザベルはこれ以上直視出来ず、思わず目を背けてしまう。一方、ティエールは精霊神という職業柄、淡々と対処していた。
「敢えて慈悲と言うのなら、安全な護送馬車に乗せてもらえる事だろう。地獄の道のりを気性の荒い馬に引き摺られて行くよりは、かなり楽なはずだが……。警備兵、アルディアス王太子の霊魂を護送馬車へ……早く」
ティエールは護送馬車の警備を行う兵士と連携して、アルディアスの霊魂を安全な護送馬車へと再び戻そうとした。兵士にグイグイと背中を押されて、無理やり歩かさせられながら、アルディアスの霊魂は最後の抵抗をする。
「ひぃいいいいっ嫌だっ。地獄は嫌だぁっ」
「オラッ! 早く歩くんだっ。直接縄で縛られて、地面に引き摺られたくなければなっ。急げよっ」
「そんな馬鹿な。どうしてなんだよ、なんでオレが地獄のハデス行きなんだっ。オレは……オレは、バルディアの王太子アルディアスなんだぞぉぉおお」
バタンッ!
護送馬車の頑丈な格子付きの扉が閉じると、不思議なことにアルディアス王太子の声はピタッと聴こえなくなった。
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