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精霊候補編3
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「イザベル嬢が、生きたまま精霊様に連れて行かれて、もう二ヶ月が経つのか。精霊神の感覚からすればまだ数日にしか過ぎないだろうが、その間に我々人間の生活はすっかり変わってしまったなぁ」
「カエラート男爵はイザベル嬢の断罪決定に伴い、隔離されていたが……幸か不幸か娘が天に昇ることにより無実が証明されて、本日解放されたとか。けれど、随分と痩せられてしまって、見る影がないよ」
「無理もないさ、生きたまま精霊界へと昇ったと言われても、愛する娘と永遠に会えなくなったのだから」
人間の男爵令嬢であるイザベルが、生きたまま天の上にある精霊界に魂ごとあげられてからしばらく経った。いや、正確には精霊界の基準ではまだ三日だが、地上の基準では既に二ヶ月以上が過ぎ去ろうとしていた。地上と精霊界は時間軸が異なり、星の動きによりその軸のズレ方も大幅に異なる。イザベルの父であるカエラート男爵はようやく邸宅に戻ることが出来たが、そのやつれた姿は人々の同情を誘った。
「心労でどうにかなりそうなのは、カエラート男爵だけじゃないよ。ここのところ、あまりにもこの国の様子がおかしいのさ。イザベル嬢が天に昇り、婚約破棄した王太子も若くして亡くなられて、残ったのは旧王族と例の聖女だ。噂ではあの聖女が、この国の新たな中心人物として信仰国家にするつもりらしいが。嫌な予感しかしないよ」
「あぁっ聖女ミーアス様は、気に入らない庶民をどんどん殺していく気だという。オレは……まだ死にたくないっ。精霊様にお祈りに行ったところで、信仰のない者は救われない。やっぱり、星読みに頼って安全な暮らしを指南してもらおう」
そして王太子死去により崩壊しつつある政治体制を立て直すために、国の権力を一旦あの聖女ミーアスに預けることとなった。いよいよ始まった聖女ミーアスの独裁は、気まぐれに人を処刑するといった悪政だという評判。
不安を覚えた地上の民は精霊神に祈るよりも、すぐに返答がもらえる占星術師達の元へ、こぞって詰めかけた。
「星読み様達のお力で、この変貌する国を救って下さいな」
「一体、いつになったらこの国は良くなるのか、ホロスコープとやらで検討はつかないのですか?」
星の吉兆を占って欲しいという依頼がひっきりなし、ホロスコープの図面を片手に、占星術研究所でため息をつく術師達。
「うーむ、天の星はいつもよりもはるかにせわしなく、その天体図はまるで大移動でも控えているようですなぁ」
奇しくももうすぐ、天体の百獣の王ともいえる獅子座のドアが開く日。精霊達でさえ目で見て認識することが出来ないという『全てのものを見守る神』が、あらゆる魂を見定める日が近いのだ。
――そしてそれは、精霊たちの加護を地上の人間にいつまで与えるか、検討する時期がやってきた事を示しているのであった。
* * *
祈り聞きを主な仕事とする精霊神達のミーティングが、長老オリヴァードの邸宅で行われた。担当地域が遠い初めて顔合わせする精霊も多く居合わせたが、それぞれ忙しいのか、それともまだ完全な精霊ではないイザベルとの接触は制限されているのか。仕事内容を確認すると、担当の祈りの場へと散り散りに出かけていった。
詳しい説明を受けるためにミーティングの場に残ったのは、オリヴァード長老、精霊官吏ティエール、精霊候補生イザベル、お目付役の妖精リリア、そしてボディガード役の二人。
「本日は祈りの場で遠隔的に地上の様子を探るのではなく、もう少し身近なところで直接的に人間の祈りを聞き届ける訓練を行う」
「そうだ、イザベル。ボディガードとして、ロマリオ君とサポート役のミンファちゃんに協力してもらえることになったんだ。彼らは鉱石精霊と呼ばれる種族でね、我々植物系の精霊とは拠点を共有する仲間なんだよ」
オリヴァード長老とティエールに改めて紹介されて、ロマリオが自分のボディガードをするために居残っていたことに気づく。
(てっきり別の仕事のために居合わせていると思ったんだけど、私のボディガードをするためだったのね。それって、やっぱり私の周囲はだんだん危険になっているということ?)
精霊の中でもかなり目立つ端正な顔立ちでありながら、自惚れる様子すら見せず緊張した面持ちで真面目にミーティングに参加していたオリヴァードに感心していたイザベル。鉱石の特徴から考えても、硬い石の中に美しい貴石が隠されているように、硬さと麗しさの両面を持つ種族なのだろう。
「ロマリオさん、ボディガードを引き受けてくださったんですね。今日は一日、お世話になります。ミンファちゃんも……よろしく」
「はっ! 命を救われた恩は必ず返すのが、鉱石精霊の家訓。イザベルさんのお役に立てるよう精一杯努力いたしますゆえ」
「もう……ロマリオお兄ちゃんったら……気合入れすぎ……。イザベルさん、こちらこそよろしくお願いします」
和気藹々としたムードで始まった三日目の任務。わざわざボディガードが必要となった意味に何となく気付きながらも、イザベルは一人前の精霊になるために平静を心がける。
地上の様子を記した資料には、悪魔の化身である聖女ミーアスが、ついに本格的に国を支配し始めたことが記されていた。
「カエラート男爵はイザベル嬢の断罪決定に伴い、隔離されていたが……幸か不幸か娘が天に昇ることにより無実が証明されて、本日解放されたとか。けれど、随分と痩せられてしまって、見る影がないよ」
「無理もないさ、生きたまま精霊界へと昇ったと言われても、愛する娘と永遠に会えなくなったのだから」
人間の男爵令嬢であるイザベルが、生きたまま天の上にある精霊界に魂ごとあげられてからしばらく経った。いや、正確には精霊界の基準ではまだ三日だが、地上の基準では既に二ヶ月以上が過ぎ去ろうとしていた。地上と精霊界は時間軸が異なり、星の動きによりその軸のズレ方も大幅に異なる。イザベルの父であるカエラート男爵はようやく邸宅に戻ることが出来たが、そのやつれた姿は人々の同情を誘った。
「心労でどうにかなりそうなのは、カエラート男爵だけじゃないよ。ここのところ、あまりにもこの国の様子がおかしいのさ。イザベル嬢が天に昇り、婚約破棄した王太子も若くして亡くなられて、残ったのは旧王族と例の聖女だ。噂ではあの聖女が、この国の新たな中心人物として信仰国家にするつもりらしいが。嫌な予感しかしないよ」
「あぁっ聖女ミーアス様は、気に入らない庶民をどんどん殺していく気だという。オレは……まだ死にたくないっ。精霊様にお祈りに行ったところで、信仰のない者は救われない。やっぱり、星読みに頼って安全な暮らしを指南してもらおう」
そして王太子死去により崩壊しつつある政治体制を立て直すために、国の権力を一旦あの聖女ミーアスに預けることとなった。いよいよ始まった聖女ミーアスの独裁は、気まぐれに人を処刑するといった悪政だという評判。
不安を覚えた地上の民は精霊神に祈るよりも、すぐに返答がもらえる占星術師達の元へ、こぞって詰めかけた。
「星読み様達のお力で、この変貌する国を救って下さいな」
「一体、いつになったらこの国は良くなるのか、ホロスコープとやらで検討はつかないのですか?」
星の吉兆を占って欲しいという依頼がひっきりなし、ホロスコープの図面を片手に、占星術研究所でため息をつく術師達。
「うーむ、天の星はいつもよりもはるかにせわしなく、その天体図はまるで大移動でも控えているようですなぁ」
奇しくももうすぐ、天体の百獣の王ともいえる獅子座のドアが開く日。精霊達でさえ目で見て認識することが出来ないという『全てのものを見守る神』が、あらゆる魂を見定める日が近いのだ。
――そしてそれは、精霊たちの加護を地上の人間にいつまで与えるか、検討する時期がやってきた事を示しているのであった。
* * *
祈り聞きを主な仕事とする精霊神達のミーティングが、長老オリヴァードの邸宅で行われた。担当地域が遠い初めて顔合わせする精霊も多く居合わせたが、それぞれ忙しいのか、それともまだ完全な精霊ではないイザベルとの接触は制限されているのか。仕事内容を確認すると、担当の祈りの場へと散り散りに出かけていった。
詳しい説明を受けるためにミーティングの場に残ったのは、オリヴァード長老、精霊官吏ティエール、精霊候補生イザベル、お目付役の妖精リリア、そしてボディガード役の二人。
「本日は祈りの場で遠隔的に地上の様子を探るのではなく、もう少し身近なところで直接的に人間の祈りを聞き届ける訓練を行う」
「そうだ、イザベル。ボディガードとして、ロマリオ君とサポート役のミンファちゃんに協力してもらえることになったんだ。彼らは鉱石精霊と呼ばれる種族でね、我々植物系の精霊とは拠点を共有する仲間なんだよ」
オリヴァード長老とティエールに改めて紹介されて、ロマリオが自分のボディガードをするために居残っていたことに気づく。
(てっきり別の仕事のために居合わせていると思ったんだけど、私のボディガードをするためだったのね。それって、やっぱり私の周囲はだんだん危険になっているということ?)
精霊の中でもかなり目立つ端正な顔立ちでありながら、自惚れる様子すら見せず緊張した面持ちで真面目にミーティングに参加していたオリヴァードに感心していたイザベル。鉱石の特徴から考えても、硬い石の中に美しい貴石が隠されているように、硬さと麗しさの両面を持つ種族なのだろう。
「ロマリオさん、ボディガードを引き受けてくださったんですね。今日は一日、お世話になります。ミンファちゃんも……よろしく」
「はっ! 命を救われた恩は必ず返すのが、鉱石精霊の家訓。イザベルさんのお役に立てるよう精一杯努力いたしますゆえ」
「もう……ロマリオお兄ちゃんったら……気合入れすぎ……。イザベルさん、こちらこそよろしくお願いします」
和気藹々としたムードで始まった三日目の任務。わざわざボディガードが必要となった意味に何となく気付きながらも、イザベルは一人前の精霊になるために平静を心がける。
地上の様子を記した資料には、悪魔の化身である聖女ミーアスが、ついに本格的に国を支配し始めたことが記されていた。
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