王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

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精霊候補編3

02

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 昨日使用した便利なワープゲートだが立地の関係で今日は使用せず、馬車に乗り直接祈りの場へと移動することに。大型馬車の座席は三列で、一列目が運転席、二列目がイザベルとティエール、三列目がロマリオとミンファだ。
 精霊界の中心地から離れた山間を目指すらしく、ガタガタと揺れる道のり。山道特有の揺れにもだいぶ慣れて、イザベルは今日の任務をティエールに改めて確認する。

「ところで、今日の祈りの場は昨日よりも、地上の人々との距離が近いと聞いたけれど。具体的には、どれくらいの距離感なのかしら」

 今回の任務はイザベルがより一層、精霊らしく振る舞えるようになるための『模擬試験』のようなものだという。元人間という立場からすると、お祈りをしていた側の者が、祈りを聞き届ける側に変わるのだから、それなりの心の準備が必要だろう。精霊として認められたからと言って、突然女神の真似事が出来るようにも思えなかったイザベルとしては、研修期間や模擬試験があってホッとしていた。

「そうだね、地上の距離感で例えると……いつもの祈りの場が遠隔魔法で通信するくらいの距離感。そして今日の祈りの場は、教会の懺悔室で聖職者と当事者が話し合うくらいの距離感……かな」

 意外とよくある光景のような例えに、イザベルは思わず驚きの声をあげてしまう。昨日までは遠隔モニター越しに地上の様子を俯瞰の目で見ていたのに対し、随分と近距離になってしまうからだ。直接、今の肉体が地上に行かないという条件があるにしても、ごく目の前に意識を下ろして対話するのは大胆な気がした。

「えぇっ? それって、殆ど個人面談じゃない。あっ……でも直接地上に降りるわけではないから、向こうの人には私の姿が認識出来ないのよね」
「うん。よっぽど霊感が強いとか、あとはイザベルの魂と因縁が深いとかない限りは。おそらく、目の前にイザベルの魂が降霊していること自体、気づかないと思うよ」
「強い霊感の持ち主、もしくは因果が深い人物。私の降霊に気づく可能性のある人物は、数人に絞られるわね」

 恐ろしいことに霊感が強い人物の筆頭は、イザベルを断罪に追い込もうとした聖女ミーアスである。また、個人的な因果がある人物といえば、当然のように家族の姿が思い浮かんだ。

(万が一、聖女ミーアスが今回の祈りの場に現れてしまったら、私の姿が認識されてしまうかも知れない。けど、今は地上で信者を増やすのに必死で忙しいらしいし。多分、大丈夫)

「わざわざ足を使い教会などの施設にお祈りに来るような人間は、精霊神をごく身近な相談相手として頼っている。だから、僕も人間を身近な守るべき存在として、懸命に祈りに応えてきたつもりだ。次第にそういう人達が、減っているのも事実だけどね……」

 そう語って何処か切なげな目で窓の向こうを見つめたティエールには、諦めに近い雰囲気が漂っていた。

(どういうことなの、ティエール。まるで、精霊信仰の人間がそのうちいなくなってしまうような言い回し。それほどまでに、地上の様子は変わってしまったというの?)

 やがて馬車は山道を越えて、なだらかな坂道を登りきり、地上の教会とリンクしている特別な祈りの場へと到着した。


 * * *


「ようやく着いたね。実はこの辺一帯の施設を利用するには、奥の祠に蝋燭の日を灯して封印を解かなきゃ使えないんだ。人が一人入るのがようやくの場所だから、僕一人で行くよ。イザベルはロマリオさん達と待機していて」
「ティエール、気をつけて。けど一人は危険なんじゃ……リリア、貴女も着いていってあげて」
「はぁい! いざとなったら、ピュンってイザベル達のところまで飛んで、緊急をお知らせするから。安心してね」

 イザベルの肩の上で、チョコンと座っていたお目付役の小妖精リリアが、ティエールのマントの肩の上に移動する。

「あはは。簡単な封印だけど、一応気をつけるよ」

 時を同じくしてイザベルの父であるカエラート男爵が、地上の教会の扉を開ける。それは遠く離れてしまった親子の邂逅が、始まることを意味していた。
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