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精霊候補編3
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しおりを挟む霊力を回復するというハーブティーで休息をとり、心身の疲れがだいぶ癒えた頃。やや足早に、精霊神官長がその手に古い書物を携えて、満面の笑みでイザベル達の元へと戻ってきた。
「見つかりましたぞ! 例の書物が……水鏡を使い、過去の因果にアクセスする秘術が記されておる。儀式決行の夜までの間に、必要な記述のコピーに目を通せば、なんとかなるじゃろう。ふう……ちと張り切り過ぎたから、腰がぎくぎくするのう」
「まぁ……大変! 気休め程度で良ければ、治癒魔法を……」
年齢的な持病だから仕方がないと、腰のあたりをトントンと叩く姿は、精霊と言えどもお年寄り特有の仕草である。すかさずイザベルが呪文を詠唱して治癒魔法をかけると、曲がっていたはずの精霊神官長の腰がピンッと回復した。
「すまんのう……イザベルさん。ほう、この回復魔力は。あっという間に、痛みが消えて……いやぁ驚いたわい。これほどの回復魔法を使える者は、丘の上の修道院の者でも殆どいないレベル……」
何度も自分の腰に手を添えて、イザベルの回復魔法の凄さを体感する精霊神官長。するとティエールが年老いた精霊神官長の背中を支えて、取り敢えずはテーブル席に座らせる。
「精霊神官長様、大丈夫ですか……イザベルは他の精霊よりも回復魔法力に長けているようなんです。きっと良くなりますよ……おや、儀式の書物以外にも何か見つけられたのですか?」
「うぬ。精霊候補生について記された書物も、不思議と同時に発見してな。一応、皆が目を通した方が良いと思う箇所は、写本魔法でコピーしといたぞい」
「私よりも以前に人から神になったという伝説の女性、どんな方なのかしら?」
イザベルは手渡された写本を胸に、自らの運命と似た定めを辿った女性に対して不思議な親近感を抱いた。その感情は、言葉では言い表せないような懐かしさと、チクリとした痛みを伴うもの。儀式までの待機時間を利用して、今日からしばらくの宿泊場所で各々写本に目を通すことに。
* * *
男性が大半を占める修道院という空間だが、女性が来客としてやってきた場合の離れを紹介してもらえることになった。一旦ティエール達と分かれて、イザベル、ミンファ、小妖精リリアの三人は案内役に従い中庭の向こう側へと移動する。
「イザベルさんとミンファさん、それにリリアさんには、女性のお客様専用の離れの部屋を用意致しました。男ばかりの修道院本部とは、中庭を経て行き来出来るようになっていますが、プライバシーは守られておりますゆえご安心を」
「何から何まで、ありがとうございます」
「へぇ……結構綺麗なお部屋だね。さあて、お星様が空に昇るまで、読書タイムにしようっと! この大きなベッドは今日からしばらく小妖精リリア様の専用スペースよっ」
案内役の修道士に丁寧におじきをするイザベル、小妖精のリリアはパタパタと羽をはためかせてヒトサイズのベッドへとダイブ。年若い魔法使いのミンファは、そんな様子をニコニコと見守っている。
「もう……リリアったら、はしゃいじゃって。けど小妖精にとって、ヒトサイズのベッドで眠るのは、かなり贅沢な気分なのかもね」
「ふふっ。私はそんなリリアちゃんのお茶目なところ好きだわ。ねぇイザベルさん、私達も早速、読書タイムにしましょう!」
部屋のベッドはグループ用の宿泊施設に相応しく、四つ用意されていて、一つはカラのベッドとなった。サイドテーブルはデスクがわりにもなる便利な仕様で、ゆっくりと読書を愉しむのに丁度良い。最初は騒がしさもあった小妖精のリリアでさえ、集中し始めたのか次第に無言となり……穏やかなひと時が流れた。
写本は必要なシーンのみを抜粋したもので、短時間で目を通すのに最適な長さだ。
――かつて精霊候補生と呼ばれる地上出身の娘が天にやってきたことは、精霊界の歴史の一幕として書物に記されていた。彼女の名はレイチェルといい、精霊の若者と恋に落ち、駆け落ちという形で無謀にも生きたまま天に昇ったらしい。
だが、その無謀な駆け落ちを実行した若者がどの種族の精霊であるか、今現在二人はどのように暮らしているのか……などの詳細は歴史から抹消されているのであった。まるでその事実が、タブー視されていると言わんばかりに。
「駆け落ちがきっかけで精霊候補生になったのね、私とは経緯が少しばかり違うようだわ。寿命は純粋な精霊に比べて然程長くなく……けれど人間よりもかなり長く……か。おそらく、もう存命していない」
「イザベル……多分、レイチェルさんは自分の好きな人と一緒になって幸せだったんじゃないかな。あぁ……もうすっかり外は夜になってきたよ。ほら見て、お星様が私達を見下ろしてる!」
「まぁ……本当に。そろそろ、儀式の部屋へと行かないと」
宿泊場所として提供された修道院離れの窓辺からは、煌く星々が絵画のように映し出されていた。
小さな星の瞬きは、何処かで生まれては消えゆく命の儚さを示しているようだ。長い時を生きる精霊神達とは異なり、一瞬一瞬を懸命に生きなくてはいけない人間のような星の輝き。イザベルにとって、まるで地上に戻ったかのような懐かしい夜空だった。
(かつての精霊候補生レイチェル……貴女は一体、どんな気持ちでヒトから神になったの?)
見上げた星にはきっとレイチェルの輝きがあると信じて、イザベルは心の中で問いかける。
そしてその命の光が、イザベルとティエールに受け継がれていることを……今夜の儀式で知ることになるのだ。
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