王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星井ゆの花

文字の大きさ
56 / 79
逆行転生編2

01

しおりを挟む

 ――物語の場面は、現代精霊界に戻る。
 水鏡を介してティエール達にもたらされた情報、それはイザベルの転移先がアリアクロス暦1720年の秋であること。さらにそれが、逆行転生という禁呪だということだった。
 光の粒となって、水鏡をゲート代わりに過去へと流れ込んだイザベルの魂、キラキラと瞬く星のように命の輝きを空間内に漂わせ……やがて闇へと沈む。

「逆行転生、とは……現代の魔法ではあまり聞きなれない技術! もしや、我々はとんでもない禁呪に、手を出してしまったのではっ」
「それって、過去の世界ではイザベルさんが、ご先祖様自身に成り代わっちゃったってことでしょう? もし、万が一何かが起きて、歴史が変わってしまったらどうするの」
「ロマリオ、ミンファ、落ち着くのじゃ。長い精霊界の歴史において、時代の節目にはそのような儀式を行い、過去と現在の因果を調整していたと聞く。おそらく数百年ぶりの節目に、我々が当たってしまったのだろう。それに過去を大幅に変えることは、未来から子孫が訪れることを否定することになる。そのパラドックスが存在している限りは、大丈夫なのじゃよ」

 鉱石精霊の2人が同様の声を漏らすが、かなり昔の精霊界では時折行われていたということ。しばらくは変化を見守るしかない、という結論に至った。

「イザベルは、彼女自身のご先祖様の肉体に魂を宿すことで、過去の世界へとワープしたのか……。しかしだとすると、その肝心のご先祖様の魂は、イザベルが逆行転生した後にどうなってしまうのか」

 するとティエールが別視点から、『過去の時代のご先祖様に成り代わる』という現象の疑問点を指摘。

「そういえば、そうですよね。イザベルさんの魂が、ご先祖様の肉体に宿るとして。ご先祖様の魂そのものは、どこに滞在するのかしら。学校では逆行転生なんて禁呪について、学ぶ機会すら無いし」
「小妖精の中には、時を超える儀式のお供を行っていた子もいたらしいけど。私の周囲にはそのお仕事をしている子はいないの……多分、その禁呪は東方の国から伝承されたものだから。噂好きが小妖精の特徴なのに、あんまり役に立てなくてごめんなさい」

 魔法を専門的に勉強中のミンファも続いて疑問点を呟くと、小妖精リリアが情報不足を悔いて小さな羽根を畳んで謝った。

「いや、逆行転生という禁呪が、東方の国由来だと分かっただけでも、大きな進歩だよ。そうか、この水鏡は東の方の精霊界から、もらってきたものなのかも知れないね。どうりで見慣れない記号が、水鏡周囲の石に刻まれていると思ったよ。いや、これは記号では無いか……おそらく東の方の国で使用される【漢字】というものだ!」
「確かに……この水鏡が星を使う占星術盤をモチーフにしたものであるなら、ホロスコープ的な記号が周辺に刻まれていてもおかしく無いのに、見覚えのないものばかりだわ。つまり、この技術は西方の国の占星術ではなく、東方の国に伝わるいずれかに由来した星読み技術なのかも」
「そうだったのか……んっ……。オレの記憶違いでなければ、確かイザベルさんを窮地に追いやったとされる聖女ミーアスも、東方の国から流れてきた輩だったような気が。いや、杞憂であれば良いが、イザベルさんは過去の世界で無事なのだろうか」

 イザベルを追いやった元凶である聖女ミーアスも、逆行転生の禁呪に関する何らかの知識を持つ可能性があるとしたら……。不安要素となり得る情報だが、伝えたくとも既に過去へと旅立ったイザベルの魂は、瞼の裏に残像として残るばかりとなっている。ティエールをはじめとする儀式に立ち会った面々が、その余韻までも吸い込む水鏡を複雑な気持ちで見守っていると、ある変化が。

 水鏡が天窓から浴びた光を投影するかの如く、その光は次第に人間の姿を形作っていき……まるで召喚魔法のように一人の女性をこの場に喚び出した。

 ストンッ!
 空中から降りてきた女性は咄嗟に受け身の姿勢をとり、床に頭をぶつけないように身体を守る。

「だっ大丈夫ですかっ」
「お嬢さん、しっかり!」
「ん……うん。ここは、どこ?」

 イザベルと入れ替わるように突然現れた女性の身の安全を確保するため、慌ててティエール達は彼女に駆けつける。見覚えのある金髪、イザベルと似て非なる顔立ちの美しい娘は、一体何が起きたのか分からないと言った様子。彼女を動揺させないように、極力優しい口調でティエールがゆっくり説明をすることに。

「ここは精霊界のとある儀式場ですよ、本来ならば人間は訪れることすら叶わない場所ですが。儀式を行ったのは我々ですから、貴女の身はしっかりと守られるでしょう。身辺確認のため、お名前を聞かせてもらえますか?」
「私の名は、ララベル。ララベル・ホーネット。貴方こそ、姉の婚約者のオリヴァードではなくて? ううん……僅かに違うわ。貴方、どこかレイチェルお姉様に似ている。どう言うこと……意識が遠のく……」
「オリヴァードは、祖父の名前のはずですが……ララベル・ホーネット、まさか貴女はイザベルの先祖! はっ……いけない、早く手当を!」

 水鏡の術を用いて行われた逆行転生の時間軸は、別の時代ながら並行して同時に時が進んでいた。イザベルの魂が先祖に成り代わった瞬間に、ララベル・ホーネットという過去の時代の巫女が現代の精霊界にタイムワープしたという事実がその証拠。

 この時ようやく、自分達が過去と未来の砂時計を『同時に』ひっくり返してしまったことに、気づくのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...