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逆行転生編2

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 ――場所は再び、精霊界の修道院食堂。
 突然の精霊界、そして時間を超えたことに緊張気味だったララベルだが、お目付役の小妖精リリアとはだいぶ心が通じるようになった様子。

「はぁ……ご馳走様でした! 最後のスープはちょっとだけ、慣れない苦味がありましたけど。それ以外は本当に食べやすくて美味しかったです。けど、魂の状態でお食事するなんて、貴重ですわ」
「その魂に直接響く、薬膳スープを残さず食べるなんて、感心感心! この小妖精リリアが褒めてあげるわ。薬膳スープは以前アタシも味見したことがあってね……良薬口に苦しって感じだけど、でも他の朝食は本当に美味しかったよね」
「うふふ。リリアさんに褒められちゃいました」

 ……リィンゴォン!
 時空の歪みという特別なゲートを守る丘の上の教会に、仕事開始準備の予鈴が鳴り響く。朝食を終えた修道士達は、それぞれの持ち場へと移動する。

「これから皆さん本格的にお仕事なのね、私にも何かお手伝い出来ることがあるといいんですが。こうしている間も私の子孫……イザベルは過去の世界で私に代わって巫女の暮らしをしているんですよね。あのティエールさん……ちょうど、お姉様が精霊界に嫁ぐ時期に被っていますが、大丈夫かしら?」
「保証しますよ、ララベルさん。時間軸への介入というのは、ちょっとやそっとでは歴史を大きく変えることは出来ないはず。過去の魂である貴女が健在でいれば、イザベルは必ず無事に戻って来ます。詳しい事情は話せませんが、現代においては僕自身の健在がレイチェルさんが精霊界に嫁いだ証拠でもあるのです」

 水鏡の儀式を行った側からすると過去に遡っているイザベルのことも心配だが、ご先祖様であるララベルが健在であれば成り代わっているイザベルも守られるはずだ。そして、暗黙的にレイチェルの子孫であるティエールが現代の精霊界に存在していること自体、過去の嫁入りが成功していることを示していた。

「ティエールさん……そうね、ありがとう。やっぱり貴方、どこかレイチェルお姉様に似ているわ。でも……詳しくは詮索してはいけないのよね。これ以上は私の胸の内にしまっておかないと」

 遠い未来を知りすぎることは良くないと、ララベルは自分の好奇心を律する。だが、ほぼ間違いなく今目の前にいるティエールという精霊の青年が、ララベルの双子の姉レイチェルの子孫だという確信が持てた。
 本来ならば会うことさえ叶わない遠い未来の甥っ子に会えたような、不思議な気持ちを抑えていると、ララベルに意外な依頼が飛び込んできていた。それは苦味を含んだ魂を維持するスープをようやく飲み終えて、ララベルが未来の精霊界に飛ばされた因果と向き合い始めた合図のようだ。

「ララベルさん、ですね? 実は緊急で、貴女に地上の教会の祈りを聞き届ける役割を行って欲しいとの依頼が来てまして……」

 事務員らしき修道士の精霊が手にした依頼書には、確かに【ララベル・ホーネット様に祈りを捧げたい】との文字が。

「えっ……私に、ですか? 今日、ここに来たばかりなのに、もう依頼が。何故……」
「先祖様への祈願とか、そう言った系統のものなら、名指しされる可能性もあるんですよ。ララベルさんの子孫に当たるカエラート男爵が、毎日教会でお祈りをしているとの話ですし」
「そうそう。本当はイザベルがお父様のお祈りを聞き届けるのが、精霊候補の研修内容だったんだけど……」

 鉱石精霊のミンファと小妖精リリアが、ララベルに教会経由の依頼内容について説明する。カエラート男爵が教会通いを行なっている情報も併せて考えれば、先祖の霊魂への祈願の部類なのだろう。
 推測通りだったのか、事務員が羊皮紙と万年筆をララベルに手渡して、この仕事を引き受けるか否かの選択を迫る。

「ララベルさんの魂は儀式の手違いで迷い込んできたため、本来ならば地上の仕事を受け持つわけにはいかないのですが。偶然とはいえ、祈願が届いたタイミングで教会に魂が滞在しているのだから、引き受けた方が良いのでは……との意見が出ておりまして」
「……分かりました。これも何かの縁ですわ。祈願の仕事、お引き受け致します!」

 羊皮紙にサラサラと【ララベル・ホーネット】の名前が書き込まれ……この時より、過去と未来の因果が同時に動き始めたのだった。
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