王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

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終幕編1〜ララベル視点〜

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「地上は聖女ミーアスの支配でどんどん変わってしまっているけど、でも、まだ間に合うよね」
 小妖精リリアは自らの羽根をたたみ、ララベルの肩に乗ってからポツリと不安を漏らした。その言葉には、過去でさえ操れる可能性を持つ聖女ミーアスに、恐怖を覚えている様が感じ取られた。

「幸い、私は未来の情報を持って過去に帰還することが出来るわ。聖女ミーアスの力の源を探し出して、悲劇を回避するの」

 震える小鳥のような仕草のリリアを宥めるように、優しく落ち着いた声でララベルは過去修復の計画を語る。

「うん……ありがとうララベル。きっと過去の世界で頑張っているイザベルも、同じことを言うと思うよ。やっぱり、二人は同じ生命の樹の系譜を持つ魂なんだね」

 怯えた様相を見せていたリリアに、僅かながら笑顔が戻った。本来ならば、リリアが肩に乗るべき人物は、ララベルの子孫イザベルであったはずだ。逆行転生という魂の入れ替わり現象によって、不可抗力で未来の情報を得てしまったララベル。だが、彼女は驚くほど冷静だった。

 そしてその冷静さは、イザベルとも共通するものがあり、やはり二人は同じ生命の系譜であるとリリアの心に確信させる。だからといってその生命の系譜に、まさか精霊官吏のティエールも含まれているとは……リリアには想像出来ていなかった。双子の姉妹の生命の枝が過去に分かれて、ティエールとイザベルという二人の男女を結びつける未来を導くとは、因縁とは不思議なものである。

 ――その時までは、双子の生命の枝は再び結ばれるはずだったのだ。

 きっと、全てが上手くいく。
 遠い遠い未来の血縁であるティエールが、笑顔で出迎えてくれる。時の旅人ララベルは、地上から精霊界に戻るワープゲートの波に身を任せながら、そんな風に考えていた。それはもう、至極当然のように。しかしながら現実というものは、時として無情なものである。


 * * *


「おかえりなさいっ。ララベル、リリアッ!」

 長閑な田園風景、全ての魂を迎え入れる精霊界の修道院は、ララベルにとってもホームとして機能していた。
 しかしながら、出迎えてくれたメンバー構成は思っていたものではなかった。まとめ役である精霊神官長、無口ながら気遣いが出来る騎士ロマリオ、魔法使いの見習いである少女ミンファ。ララベルと顔見知りとなった精霊達が皆、出迎えに訪れたがティエールの姿だけがない。それどころか、ティエールという存在そのものの気配が無い。
 言い知れぬ違和感を覚えながらも、ララベルは平常心を心掛けながら報告を進めるため事務室へ。

「これが大まかな報告内容です……」
「お勤めご苦労、小妖精リリア、時の旅人ララベル。ふむ……どうやら顔色が優れぬのう……地上との行き来は精霊力を消耗するからな。今日はハーブティーでも飲んで、魂の回復に励みなさい」
「はい、精霊神官長様。ところで、ティエールさんの姿が見えないのですが、今は用事で?」

 ティエールの気配が、精霊力そのものが消え失せたことを意を決して尋ねる。

「はて、ティエール……とな。聞いたことのない名前じゃのう」
「えっ……聞いたことが、無い? でも、ティエールさんは確か、この修道院で幼少期を過ごされたって……」
「ははは……もしかして、記憶違いを起こしていませんかな。ティエールという名の精霊は、ワシの精霊名簿には存在しておりませぬ。うむ……時を渡った影響で、よほど疲れが溜まっていると見える。報告書はこれ以上いいから、とにかく休むように」

 バタン。
 事務室の扉が閉じる音が、最後通告の合図のように聞こえてしまう。

(嘘でしょう。まさか、既に過去がすり替えられた? ティエールの存在が消えているということは、先祖のレイチェルの身に何かが?)

 彼女が親しみを覚えていた同じ生命の系譜であるティエールは、精霊界から存在そのものが消されていた。ショックで立ちくらみのような状態になり、廊下にペタンと座り込む。

「ララベル、しっかり……! 過去に戻れば、レイチェルさんやイザベルと合流すればきっと……」
「ええ、分かってる。早く、早く、過去に戻らないと……! もう一度、逆行転生の儀式を……!」
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