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終幕編1〜ララベル視点〜
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「さあっ! ララベルさん、貴女もこの聖女ミーアス様を崇める聖典を真の教本と認めるのですっ」
世界中に様々な考えに基づいた聖典が存在しているが、悪魔を信仰する聖典があっていいはずがない。精霊神官長の胸元にはとてもじゃないが聖典とは呼べない異端の教本、さらにそれを無理矢理ララベルに押し付けてきた。
「精霊神官長様は騙されているわっ。聖女ミーアスは、聖女であった元の魂を奪われて悪魔に魅入られた忌むべき存在。報告書にもそう記したはずです」
「黙らっしゃいっ! 人間の魂風情が、精霊たる我に逆らうというのかっ?」
ビクッ!
温和なイメージを貫いていた精霊神官長だが、その心の奥に隠された本音を垣間見た気がして、ララベルは思わず肩を震わせる。精霊神官長の本音の部分……即ち、人間を精霊よりも低い存在と見做していることだった。
「まぁまぁ精霊神官長様。ララベルさんは所詮、迷い込んできた人間の魂なのです。我々精霊族のように理解が速くないのは当然のこと、落ち着いて下さい。ララベルさんも、ここは大人しく部屋に戻られた方が得策かと……貴女の為ですよっ」
「えっ……あのっ」
流石に脅かしているようで不味いと思ったのか、お付きの修道士達がフォローに入った。それでもなお脅しに聞こえなくもないが、お付きの彼らなりにこれ以上揉めないように配慮しているのだろう。半ば強制的に、与えられた部屋へとトンボ帰りさせられる。
「明日の朝まで、絶対に外に出てはなりません。朝がくれば【何か】が変わり、貴女も心が浄化されて、聖女ミーアス様への愛に目覚めるはずです。ララベルさんに聖女ミーアス様の加護があらんことを!」
バタンッ。ガチャンッ!
よっぽど警戒されているのか、部屋の外側から扉に鍵をかけられてしまった。窓からの脱出を検討するが、やはり外側に格子がついており出られない。これでは今宵のうちに、逆行転生の儀式部屋に辿り着くことは不可能だろう。
「お願いっ! 部屋から出してっ。誰かっ」
ドンドンドンッ!
地上が【悪魔に取り憑かれし聖女ミーアス】に制圧されたことはその恐ろしい様子から窺い知れていた。だが、こんなに早く精霊界までもが聖女ミーアス信仰に変貌しているとは、想像の範疇を超えてしまっている。
朝がくれば【何か】が変わり、聖女ミーアスへの愛に目覚めるという表現から察するに、一定時間の間この修道院に滞在することでなんかしらの洗脳効果があることが推測出来た。
「ララベル、あんまり騒ぐと余計に警戒されちゃうよ。大丈夫、大丈夫だから……」
「リリア……けど、朝になったら何かが変わってしまうのでしょう? 急いで逆行転生の儀式を行わなくては、地上も精霊界も悪魔の手に堕ちてしまうわ」
「夜が明ける前に逆行転生の儀式を完成させたいんだよね。まだ方法は残ってるよ、ほら……ララベルだって最初言ってたじゃない? あのティーカップに映る月。あれを使えば……」
ベッドのサイドテーブルには、未だに手付かずのティーカップがゆらゆらと小窓から見える月を映している。
リリアが提案する方法は、『小妖精サイズの者しか儀式が出来ない』と語っていたティーカップを水鏡の代用品にする方法。それが無理だからこそ、この部屋を出て人間サイズの水鏡が設置されている儀式部屋を目指したのだが。
「リリア、さっきも話し合ったけど、ティーカップでの代用は多分難しいわ。サイズのちょうど良い水鏡の代用品さえあれば、解決出来るのに。せめて簡易の水鏡になりそうな洗面器でもあればよかったけど、この部屋って洗面台はあっても洗面器はないのよね」
「うん……外から鍵をかけられてしまったし、小妖精の私じゃ外に出れても重いものは調達は出来ないよ。だからね、あのティーカップで……!」
「リリア……それは小妖精くらいしか使えないサイズだって、貴女が……」
これでは議論も堂々巡りで、そのうち夜が明けてタイムリミットを迎えるだろう。するとリリアはまっすぐな瞳でララベルを見つめてから、ゆっくりと優しくララベルの耳元まで移動してこう囁いた。
「出来るよ、ララベル。私の小妖精の羽根……ララベルにアゲル……」
「リリア、一体……何を言って? そんなことしたら、貴女の命が……」
――小妖精が自ら羽根を人に差し出すことは、小妖精の死を意味する。
つまり小さなティーカップを水鏡の代用品とする方法は、小妖精リリアの命と引き換えだということにララベルは今更気付いたのだった。
世界中に様々な考えに基づいた聖典が存在しているが、悪魔を信仰する聖典があっていいはずがない。精霊神官長の胸元にはとてもじゃないが聖典とは呼べない異端の教本、さらにそれを無理矢理ララベルに押し付けてきた。
「精霊神官長様は騙されているわっ。聖女ミーアスは、聖女であった元の魂を奪われて悪魔に魅入られた忌むべき存在。報告書にもそう記したはずです」
「黙らっしゃいっ! 人間の魂風情が、精霊たる我に逆らうというのかっ?」
ビクッ!
温和なイメージを貫いていた精霊神官長だが、その心の奥に隠された本音を垣間見た気がして、ララベルは思わず肩を震わせる。精霊神官長の本音の部分……即ち、人間を精霊よりも低い存在と見做していることだった。
「まぁまぁ精霊神官長様。ララベルさんは所詮、迷い込んできた人間の魂なのです。我々精霊族のように理解が速くないのは当然のこと、落ち着いて下さい。ララベルさんも、ここは大人しく部屋に戻られた方が得策かと……貴女の為ですよっ」
「えっ……あのっ」
流石に脅かしているようで不味いと思ったのか、お付きの修道士達がフォローに入った。それでもなお脅しに聞こえなくもないが、お付きの彼らなりにこれ以上揉めないように配慮しているのだろう。半ば強制的に、与えられた部屋へとトンボ帰りさせられる。
「明日の朝まで、絶対に外に出てはなりません。朝がくれば【何か】が変わり、貴女も心が浄化されて、聖女ミーアス様への愛に目覚めるはずです。ララベルさんに聖女ミーアス様の加護があらんことを!」
バタンッ。ガチャンッ!
よっぽど警戒されているのか、部屋の外側から扉に鍵をかけられてしまった。窓からの脱出を検討するが、やはり外側に格子がついており出られない。これでは今宵のうちに、逆行転生の儀式部屋に辿り着くことは不可能だろう。
「お願いっ! 部屋から出してっ。誰かっ」
ドンドンドンッ!
地上が【悪魔に取り憑かれし聖女ミーアス】に制圧されたことはその恐ろしい様子から窺い知れていた。だが、こんなに早く精霊界までもが聖女ミーアス信仰に変貌しているとは、想像の範疇を超えてしまっている。
朝がくれば【何か】が変わり、聖女ミーアスへの愛に目覚めるという表現から察するに、一定時間の間この修道院に滞在することでなんかしらの洗脳効果があることが推測出来た。
「ララベル、あんまり騒ぐと余計に警戒されちゃうよ。大丈夫、大丈夫だから……」
「リリア……けど、朝になったら何かが変わってしまうのでしょう? 急いで逆行転生の儀式を行わなくては、地上も精霊界も悪魔の手に堕ちてしまうわ」
「夜が明ける前に逆行転生の儀式を完成させたいんだよね。まだ方法は残ってるよ、ほら……ララベルだって最初言ってたじゃない? あのティーカップに映る月。あれを使えば……」
ベッドのサイドテーブルには、未だに手付かずのティーカップがゆらゆらと小窓から見える月を映している。
リリアが提案する方法は、『小妖精サイズの者しか儀式が出来ない』と語っていたティーカップを水鏡の代用品にする方法。それが無理だからこそ、この部屋を出て人間サイズの水鏡が設置されている儀式部屋を目指したのだが。
「リリア、さっきも話し合ったけど、ティーカップでの代用は多分難しいわ。サイズのちょうど良い水鏡の代用品さえあれば、解決出来るのに。せめて簡易の水鏡になりそうな洗面器でもあればよかったけど、この部屋って洗面台はあっても洗面器はないのよね」
「うん……外から鍵をかけられてしまったし、小妖精の私じゃ外に出れても重いものは調達は出来ないよ。だからね、あのティーカップで……!」
「リリア……それは小妖精くらいしか使えないサイズだって、貴女が……」
これでは議論も堂々巡りで、そのうち夜が明けてタイムリミットを迎えるだろう。するとリリアはまっすぐな瞳でララベルを見つめてから、ゆっくりと優しくララベルの耳元まで移動してこう囁いた。
「出来るよ、ララベル。私の小妖精の羽根……ララベルにアゲル……」
「リリア、一体……何を言って? そんなことしたら、貴女の命が……」
――小妖精が自ら羽根を人に差し出すことは、小妖精の死を意味する。
つまり小さなティーカップを水鏡の代用品とする方法は、小妖精リリアの命と引き換えだということにララベルは今更気付いたのだった。
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