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終幕編2〜イザベル視点〜
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しおりを挟む――昏い、昏い、箱の中。
イザベル達が吸い込まれた小さな箱の中は、逆行転生によって生じた時間軸の歪みを凝縮した時が詰まっていた。点々と、塵の様な光が点在し、ダストボックスにでも放り込まれたのかと、錯覚するくらいである。
(うぅ……これは、アリアクロスの箱の中なの? 僅かに塵の様な光の粒が見えるだけで、何も聞こえない。ただ、グルグルと頭の中で回転するような目眩がするだけ)
逆行転生の入れ替わりが解けた影響か、イザベルの魂は箱の中ではついに光の粒のみの存在となった。つまり、塵に見える光の粒の正体こそがイザベルであり、他の塵もおそらく未来に生まれるはずの魂達だ。本来的にララベルは、この時代には存在し得ない未来の魂。光の粒という存在に戻ったとしても、それは仕方のないこと。
一方で、この時代の住人であるララベルとアルベルトは箱の中でも魂の形を保てており、居なくなったイザベルの魂をキョロキョロと探していた。
「おいっ。ララベル、イザベル、二人とも大丈夫か?」
「カエラート男爵、私は大丈夫です。でもイザベルが、イザベルの姿が見えなくて。逆行転生の入れ替わりがいつの間にか解けたのは良かったけど、イザベルが何処にいったのか分からないのは不安だわ」
二人にとって遠い未来の子孫であるイザベルが、せめて精霊の魂として生きているだけでも救いだった。しかし、今回の逆行転生が帳消しになることで、魂までもが行方不明になるかと思うとララベルは心配で仕方がないのだ。
「イザベルが……? 仕方がない……まずは、このアリアクロスの箱の機能を魔法で調べてみよう! 秘石魔法発動、この箱の機能をダウンロードせよ!」
パァアアアアッ!
アルベルトが魔法の秘石に手を翳し呪文を唱えると、閉じ込められている箱の中が一体どういう性能なのか、説明書がダウンロードされる。アイテム機能を調べる魔法は、冒険者にはなにかと便利なものだが、高度な技術が必要となるため術の使い手は少ない。
古代文字で箱の情報が全て取得出来たところで、アルベルトが推測される状況を説明する。
「ふむ。秘石にダウンロードされた情報によると、逆行転生の歪みを修繕する機能があるらしい。オレとララベルは今の時間軸に存在している魂だが、イザベルはオレ達の遠い子孫だ。現時点では魂すら形成されていない可能性も」
「つまり、この時代にやって来ていたイザベルは消えてしまったということなのでしょうか? 嫌です……」
「一緒に箱に閉じ込められたんだ……消えてはいないはず。ただ、認識出来ないだけで……例えばこの光の粒……人が産まれてくる前の魂のカケラだろう」
ふと、辺りを見まわすと確かに光の粒が暗がりの中をふわふわと浮遊していた。
「東方に生息するとされる蛍の光の様だわ。小妖精よりも小さくて、脆い……。これが、まだ産まれてくる前の魂のカケラ。けれど、無数にある魂の中で、イザベルはどの光なのかしら」
「アリアクロスの儀式を行い、レイチェルの呪いを解いた代償かも知れない。今のうちに保護してやらないと、イザベルが消えてしまう」
「イザベル、私よ。ララベルよ! 貴女の遠い先祖の……私の魂の中で休めば、貴女は助かるわ。いらっしゃい」
ザワザワ、ザワザワ……!
呼び声に惹かれて反応した魂は、複数。行き場のない魂のカケラに、ララベルの声が聴こえてしまったらしい。
『巫女さんだ。ねえ、あの巫女さんの遠い未来の子供として生まれたら、幸せになれるかな?』
『いいな、いいな。僕も産まれたいな。このまま輪廻出来なくて消えたくないよ』
『イザベル、いない。なら、私が……私なら、もっと上手く、聖女ミーアスを出し抜いてでも王家に嫁ぐのに』
ザワザワ、ザワザワ! ザワザワ、ザワザワ!
『そうよ、あの子……王家に入りそびれて断罪されたんだわ。よりによって、ミーアス様に目をつけられて……。ううん、私が……私がイザベルとして産まれれば、あんなヘマはしないっ』
『ズルいわ! 王族入りするのは、私よ。イザベルが気付く前に、早く、早く……』
イザベルの人生の経緯を知る魂の群れが、ララベルの周囲を囲い始めた。咄嗟にアルベルトがララベルを引き寄せて、他の魂が寄り付かない様に制御する。
「やめろっ! 彷徨える魂のカケラよ。キミ達が宿る先祖は他にいるはずだっ。くっ……どうしたら、イザベルを本物のイザベルを、呼べる? ホーネット家とカエラート家の子孫である目印か、何かっ」
「何か。我が一族の子である者しか知らない何か……そうだわ。ラララ……眠れ、眠れ、愛しい赤子。生命の樹のゆりかごで……ラララ、ラララ……精霊様の導きを胸に。愛しいイザベル」
「ララベル、そうか……子守唄。一族に伝わる子守唄か」
(唄が聴こえる。遠い遠い、ご先祖様の……。私が、赤子の頃に聴いた唄。いつか、私が歌う唄。行かなきゃ……私のゆりかごへ、救世主に続く道を途切れさせないために)
やがて一筋の光が、箱の中で細い道を作る。
光のカケラとなったイザベルは、懸命にその道を駆け抜けるのであった。
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