王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした

星里有乃

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終幕編2〜イザベル視点〜

03

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「精霊と人間の子が救世主……カエラート男爵の魂は救世主……まさか、もしかすると……。私の本当の使命は……!」

 半信半疑で遠くからも目視できるアリアクロスを見守りながら、自身の腹をさする。まだ生娘であろう先祖ララベルから血統を繋いでイザベルに辿り着く。
 ララベルの双子の姉レイチェルの子孫はイザベルの婚約者である精霊ティエールだ。そしてその命の系譜の行先は……。

(将来産まれる私とティエールの子が……救世主アルベルト・カエラートの生まれ変わりだということなの?)

 コンコンコン!
 イザベルが呆然と自身の使命に気づくのと同時に、現実を呼び覚ますようなドアを叩く音。まるで正解を見つけた合図のように錯覚する。

「おいっそっちは大丈夫かっ? 入るぞ」


 そして、渦中の人物であるカエラート男爵の声。イザベルは困惑する頭を振り払い、すぐにカエラート男爵を部屋に迎えるべくそのドアを開けた。

「カエラート男爵……ご無事だったのね。どうぞ」

 直系先祖のカエラート男爵は、イザベルの弟によく似た亜麻色の髪の美青年である。しかし今はその美貌に僅かに翳りが。黒いリボンで束ねられた髪が少し乱れていて、息を切らしているところを見ると、かなり急ぎで戻ってきたのだろう。

「伝説の十字架アリアクロスが祠に立ってな……急いで山を降りたんだ。オレの方は無事だが、イザベルやレイチェルの方には……ってその小妖精、まさか……本物のララベルか?」
「カエラート男爵、再びお会い出来て光栄ですわ。いろいろ訳あって、未だに子孫と入れ替わったままなの。サイズも小さくなっているし……」

 イザベルの肩に乗り婚約者に対してちょこんとお辞儀をするララベルの姿は、小妖精サイズとはいえ立派なレディのものである。
 おそらく、イザベルやカエラート男爵に余計な心配をかけぬように出来るだけ普段通りに振舞っているようだった。カエラート男爵からするとそんなララベルを可愛らしく思うのと同時に、どうにかして元に戻してやりたいという気持ちが込み上げてきた。けれど、すぐに対処法が見つからない限りは、焦って気持ちを急かすわけにもいかずグッと堪える。

「そうか……ともかく、今は三人とも無事ならいいんだ。逆行転生とやらの解決は、正当な歴史に戻れば自然と収まるだろう。さっ……レイチェルの呪い解除に役立ちそうな聖なる小箱だ。祠の奥に後生大事に奉納されていたものだし、例の悪魔に効くといいんだが……」

 男爵が手にする箱に描かれた十字架マークは星々の集合体でデザインされており、まさに天体にて起こっているアリアクロス現象と同じものだった。

「この箱のマーク……アリアクロスに違いないわ。実は呪いのペンダントそのものは、別のものに封印出来たのに、その魔力だけがレイチェルの首に纏わりついて離れないの。けど、この箱なら、もしかすると……」
「きっと、悪魔の本体はペンダントそのものというより、実体のない魔力生命体なんだと思うわ。封印に必要なアイテムも特殊なものが必要なはず……アリアクロス所縁の品なら、可能性は高いはずよ」

 呪われていたペンダントの【現物】は、既にイザベルの手によって他の入れ物に封印済みだった。にも関わらず、レイチェルの首周りには呪いの斑紋が魔力的な力で浮き上がり、延々と悪魔が彼女の命を奪おうと足掻いている状態だ。

「薬草による魔法の清拭により悪魔の足掻きは半減されて、今はレイチェルの身体も安らぎを得ている状態。けれど、しばらくすればまた魔法の清拭が必要となるわ」
「今がチャンスだな……レイチェル・ホーネットの身体を蝕む悪魔よ、封印の箱に戻りたまえっ!」

 封印の小箱をレイチェルの前に掲げると、アリアクロスの印が青い光を放ち、紋様のようなアザに照射する。

「うぅ……悪魔が、聖女ミーアスが……!」
「レイチェル、頑張って」
「しっかり、あと少し、あと少しよ……!」

 再び悪夢に苛まれるレイチェルだったが、その首や胸元に異変が見られ禍々しい黒い瘴気が消え失せ、小箱の中に吸収されていく。

「やったか? いや、これは……まさか! まずい、ララベル、イザベル、避けろっ」
「えっ……きゃああああっ!」

 全ては順調に見えたが、一瞬の隙を突いて瘴気がアルベルトの腕を捉えて纏わりつき始め……。

 バシュッ! カラン、カラン……。アリアクロスの小箱が無常にも床に落ちる。
 黒い瘴気に飲み込まれたイザベル、アルベルト、ララベルの三人は魂ごと小箱の中に広がる異空間に閉じ込められてしまうのだった。
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