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終幕編2〜イザベル視点〜
02
しおりを挟むアリアクロスと呼ばれる星の十字架が、ホーネット一族所縁の祠に降りる。それは救世主の到来を告げる天上の神の意思であり、そしてまさにその場所にいる男こそが、イザベルの直系先祖アルベルト・カエラート男爵だ。
「神様がアルベルト・カエラート男爵を真の救世主と認めた。けれど、その歴史は私が知る過去から現代において、存在しない。一体、どういう……?」
つまり、この世界を救う真の救世主はアルベルト・カエラート男爵ということになる。だが、イザベルの知る歴史では救世主は【遠い未来においていつか人類を救いに来る希望の光】とされていた。この過去世界はおろか、イザベルが存在する現代の時間軸でさえその予言の時ではない。
出口の見えない迷宮に迷い込んだように、頭を抱えるイザベルだったが、ララベルがその時に小妖精の羽根をふわりと浮かせて、本棚の方へとヒントを探しに飛んだ。
「イザベル、ちょっと待ってね。私の記憶が確かなら、救世主様は過去世界において予言を受けて、未来世界で輪廻転生によって成就されるの。詳しい内容は確か、この本棚に……あったわ! 救世主の御伽噺。小妖精の身体じゃ、取り出せないから手伝ってくれる」
「もちろん。ところで輪廻転生ってつまり、男爵が今世で救世主として活躍するわけではなく、来世でその役目を果たすのよね」
「おそらく……まだ夜明けまで時間があるわ。幸いレイチェルの病床もだいぶいいし、男爵の帰りを待ちながら、二人でこの本を読んで謎を解き明かしましょう」
ベッドで熟睡するレイチェルを見守れるように、続き間のソファに腰掛けて予言書を読み解くことに。
カントリー調の本棚の端にひっそりと納められていた予言書は、想像よりも小さく携帯用聖書ほどのサイズでページ数も少ないものだ。表紙はグリーンカラーで、救世主と深い関わりがあるという生命の木が描かれている。
「現代では正式な写本は教会管理下に置かれていて読むことすら叶わないものだったから、てっきりもっと分厚い内容なのかと思っていたけど」
「短い内容だとしても、決定的な未来が予言されている場合には……教会は人々の不安を避けるために予言の内容を伏せることだってあるわ」
「ララベルの時代よりも予言の成就が近い時代にあるということかしら? まずは最初のページから……」
救世主伝説は御伽噺でありながら予言書としても名高く、人々に強く影響するとされて境界によって管理されるようになった。それ故にイザベルの時代には正式な写本は閲覧することは叶わず、断片のみが伝えられている。ララベルの時代に逆行転生したことにより、本物の予言を読むことが出来るのは非常に運が良いことである。
予言の内容は極めてシンプルではあったが、実際に実現することは難しいものにも感じられた。以下は予言の特に重要とされる節だ。
『人の子が、精霊に嫁ぎ……やがて子を授かる。その子はある条件を満たせば人間として生きることも精霊として生きることも可能である。条件はただ一つ……アリアクロスが認めた救世主の魂の輪廻を持つ場合のみ』
『悪魔と聖女の魂を持つ少女が地上にて審判にかけられる時、精霊と人の間に産まれた救世主が地上に戻るだろう』
『救世主は生命の樹の系譜を継いだ一族に産まれるとされている。だが、それは同時に自らが先祖であり子孫であることも示している』
『真の救世主は前世において宿命を受け、その成就は来世において為されるのだ』
* * *
予言の内容は散文的なものが多く、意味深長に描いているのみで見ようによっては偽書を疑われるものでもあった。即ち予言というのは、本当に当たっていることが判明するのはその時が来た時。しかしながら、ある意味でイザベルはその時が来た瞬間に立ち合っている。
「救世主伝説……本来ならば、精霊と人間の間に生まれた奇跡の子が背負うべき十字架。その十字架の系譜が我が一族に? けどご先祖様のカエラート男爵は、純粋な人間のはず。それとも彼が、彼こそが……未来において必要な……」
先祖ララベルとカエラート男爵の子孫がイザベル自身、そしてイザベルは断罪を逃れたものの天に昇り精霊として生き直すことになった。予言書に描かれている精霊に嫁ぐ魂は、レイチェルなのか……それともイザベル自身なのか。輪廻転生というキーワードから導き出される答えに、少しずつ近いづいている気がした。
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