9 / 9
09
しおりを挟む思えばこの数日、無理ばかりしていた気がする。突然成長して戻ってきた年下の幼馴染みリチャード君に相応しい大人の女になるため、慣れない美容やファッション、ヘアメイクに励んだ。
今日のデートだって緊張の連続だったけど、カッコ悪いところは見せられないと、気を張っていたのかも知れない。
そして、偶然からちょっとした誤解を呼び、リチャード君が私に声をかけてきた男達に一言。
「オレのアリシアに手を出すな」
もうね、びっくりしちゃったの。
だって、オレのアリシアだよ! オレのって確かに婚約者だけどさ。
そして驚きのあまり、ぱったりと倒れた私は、気がつけばリチャード君のスポーツカーの中でぐっすりと休んでいた。
「ん……うん、あれっ。私、一体……」
「アリシア、目が覚めた? ごめんね。さっきは僕、早とちりしちゃって。てっきりチャラ男に、ナンパされて困ってると思ったんだ。まさか同じ学校の人達だったとは……向こうも急に声をかけて申し訳なかったって謝っていたよ。アリシアさんによろしくって……」
偶然レストランの出入り口で同級生に話しかけられただけで、あやしい人達ではないことがリチャード君にも伝わったようだ。
「そ、そうなの? 誤解が解けたならいいけど。でも驚いちゃった……小さな頃は私が保護者のつもりだったのに。いつの間にか、立場が逆転しちゃったんだもの」
「でも、早とちりしていろいろアリシアのこと驚かせちゃったから、まだまだ弟キャラを脱却出来ていないのかも。もっと、大人にならないと……」
「そうなの、じゃあまだ私がアリシアお姉ちゃんとして、リチャード君を守らなきゃダメかな? なんて、リチャード君は、もう立派な大人の男性だよ」
するとやや落ち込んでいたリチャード君が、助手席に座る私の顎をクイっとあげて覚悟を決めたように、けどちょっぴり甘えながら。
「そっか、安心した。じゃあさ、ここで誓うよ……アリシアお姉ちゃんは、僕がずっと守ってあげる。今日も明日も十年後、何十年経っても。それこそ死が二人を分かつまで……僕と結婚してくれますか?」
「リチャード君……」
照れながらも優しく微笑むリチャード君の瞳は、幼い頃の面影を残しながらも既に大人の強い意思を秘めていて。同時に私も彼と一緒に、大人の階段を登る決意をするのだった。
――そして、七年の歳月が過ぎた。
* * *
穏やかな午後の昼下がり、我が家の庭で遊ぶ天使に私は釘付けだ。
「ママ、パパ! みてみて、黄色い蝶々がお花に止まってるよ」
「うふふ、本当。可愛いわね」
「ケビン、走っちゃダメだよ!」
可愛い、可愛い、ほんと~に可愛いっ! 薄茶色のサラサラヘアにくりくりの大きな目の天使は、私の大切な息子のケビン五歳。
お庭をかける天使は、無邪気にママである私とパパである夫のリチャードへ笑顔を振りまいてくれる。掛け値なしの笑顔は、親にしか分からない超級の価値があると断言しよう。
「そうだ。このピンクのお花、お隣のドロシーお姉ちゃんにあげてくるね」
息子のケビンは大好きな幼馴染みのドロシーちゃんに、ピンクのお花をプレゼントするため、お隣へと遊びに行ってしまった。お目付役のメイド達が慌てて息子の後を追いかけるが、この光景……実は慣れっこである。
「あはは、ケビンはドロシーお姉ちゃんに夢中だね。まだ五歳なのに……僕に似たのかな?」
「なんだかちょっと複雑だけど、まだ子供だし温かく見守るしかないわよね。はぁ……私の天使も十数年後には、お嫁さんを連れてきそうだわ」
ちょっぴりオマセな息子の成長が嬉しい反面、早く親離れしてしまいそうで寂しくもある。すると夫がテラスの陰に私を連れて、ひとこと。
「息子にも良い相手が出来たみたいだし、たまには僕のことも構って」
「もうっ……まだ昼間よ」
「だから……キス、だけ」
まだまだ新婚気分が拭えない夫からの甘い、甘い、口付けはどんなアフタヌーンティーのお菓子よりも甘美な味わい。きっとずっと、この甘い恋のときめきは、一年後も数十年後も続くのだ。
――私、アリシアの年下幼馴染みリチャード君は、いつしか私の大切な年下の旦那様になりました!
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
冷徹文官様の独占欲が強すぎて、私は今日も慣れずに翻弄される
川原にゃこ
恋愛
「いいか、シュエット。慣れとは恐ろしいものだ」
机に向かったまま、エドガー様が苦虫を噛み潰したような渋い顔をして私に言った。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
可愛らしくて微笑ましくて、優しくてあたたかで、大好きで、また読み返そうとワクワクしてしまうお話でした。目の前で起こったことを見ているかのように、つられてドキドキしたり幸せな気持ちを感じながら、物語の中の人たちと一緒に楽しい幸せな時間を過ごしました。こんなに素敵な物語をありがとうございます!
少し内気な主人公が、頑張っておしゃれしたりデートに出かける姿を可愛く表現できたら……と思いながら書いた作品です。感想ありがとうございました!
はじめまして。
ほのぼのしてて面白いです。
すっかり年下君のペースに流されてる主人公さん…このまま結婚まで流されていくのか、これからの展開を待ちたいと思います。
続き楽しみにしていますね。
はじめまして。感想ありがとうございます!
主人公のアリシアがお姉ちゃんキャラをキープ出来るのか、それとも年下イケメンに流されていくのかの恋の駆け引きを描いていきたいと思います。