修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花

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第一章

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 魔法力が欠如して聖女どころか一般魔法使いにも劣る状態の聖女ミカエラだが、外交も兼ねてアランツ王国の防御壁魔法を完成させにやってきた。

 普段愛用している承認欲求強めのピンク色のドレスではなく、民族衣装の聖女服を着ていて、事情を知らなければまともな巫女に見えた。

 行動を共にするバッカス王子も、外交を配慮して今回は民族衣装で訪問している。一見すると、そろそろ二人が結婚でもするのかと思いきや、すでに倦怠期に入っており、婚約どころか破局寸前だ。仮面夫婦ならぬ仮面婚約者状態の二人だが、ハリボテでも良いから聖女の権威を取り戻すために必死である。

「ようこそいらっしゃいました。コルネードからの旅路、お疲れだったでしょう。辺境領地でお休みにはなられなかったようですね」
「ああ。辺境地ルートから移動すると、国境を2回渡るようになるし、あの辺りには商店も少ないから。多少回り道でも賑やかな街道が多い、コルネード領土から直接国境を越えたよ」
「なるほど、ではルイーゼ嬢にはお会いしなかったと」

 アランツ王国の外交官からさりげなく名前を出されて、バッカス王子は思わず眉を顰める。そこでその名前を出すのかと睨みつけたつもりだったが、そもそも今回補正する予定の防御壁魔法はルイーゼが作ったものだ。外交官が自然と彼女の名前を挙げるのも不思議ではないため、苛立つ腹をグッと抑えた。

「地母神の名において追放した手前、聖女だったからと言ってもう一度会うのもちょっとな」
「しかし、それではいずれ不便になるでしょう。そこで今持ち上がってる案が、辺境地を我が国が領土として引き取ろうと言うものです」

 コルネード王国からアランツ王国に向かう道の途中には、中立国所有の辺境地がありそこがルイーゼ嬢が住む修道院だ。領土の面積にだけ着目する分には、コルネードもアランツも辺境地との感覚は変わらない。

「辺境地はこれまで中立国の植民地扱いで、外交が弱く他国とのやり取りが殆ど無かった。アランツ領土に正式に組み込めば、コルネード王国ともスムーズに交渉出来ます。聖女様のいる修道院を守ると言う意味でも」

 けれど、肝心の修道院はかなりアランツ寄りの立地で、聖女派遣の業務もアランツが受け持つのが妥当に感じられていた。

「ちょっと待ってください! 聖女ならここにもいるわ。今は、何かの不思議な妨害で本来のチカラが発揮出来ないけど、ルイーゼに頼らなくても、私がいろいろ引き受けるわよ。聖女として」
「ふうむ。お気持ちは嬉しいのですが、ミカエラ様は乙女ゲームのシナリオ通りにしか動けないのでしょう? 召喚魔法で地球の方に協力してもらい、そのシナリオとやらを確認させて頂いたのですが。これからはミカエラ様は出産をしなくてはいけないそうで、本来なら身重のはずです」

 外交官が資料として手にしていたのは、異世界経由で召喚魔法を使えば手に入る乙女ゲームの攻略本。アランツ王国は召喚術が得意だと評判で、地球にいる誰かと魔法で交渉すれば手に入れることは可能だ。

「えっ……そんなことまで調べたの。けど、あれはあくまでもゲームのストーリーよ。物語をプレイヤーが納得いく形で終わらせるために、結婚や出産でエンディングや後日談を作ってるに過ぎないわ」
「もし、ミカエラ様が未だシナリオに捉われた人生ならば、もうすぐご懐妊が判明するでしょう。関係ないルートならば、それは聖女ミカエラから解放されるのでは? 全てがシナリオ通りの人生と言うのもつまらないでしょうし、良い機会かと」

(それはつまり、聖女ミカエラを辞めろと言うこと?)

 意外なリストラ宣告に、ミカエラは怒りと動揺で言葉を失っていたが、先に反論を述べたのは不仲のバッカス王子だった。

「これはこれは。アランツ王国のマリウス王子は、婚約者に裏切られて婚約破棄となられたそうですが、まさかミカエラにまでそのような嫌疑を抱くとは」
「些か深く介入し過ぎましたね、お詫び申し上げます」
「それとも、ミカエラの顔に何か見覚えでも? もし、そのような女だと思わず言ってしまうような理由がおありなら、教えていただきたい」

(何を言ってるの? バッカス王子は)

 ミカエラは確かに乙女ゲームの攻略対象と日々遊び歩いてはいるが、王家に嫁ぐと言う野心を叶えるために純潔は守っている。だから、外交官が疑うような男との触れ合いはしていない、よって解任するはずがない。

「やはり、ご存じでしたか。バッカス王子は」
「流石に不審な点が多いし、マリウス王子が我が国に足を運ばなくなったのは、聖女ミカエラが異世界より転移してからだ。何か理由があるのではないかと思っていた」

 どうやら、外交官とバッカス王子お互い会話の内容を理解し合ってるようだった。ミカエラだけが蚊帳の外である。

 外交官が無言で奥の部屋へと案内する。
 歴代王家の肖像画か飾られていて、王子とツナなどが夫婦となる前の若い頃に描かれたものも多いようだ。

 そこで、ミカエラは驚いて足を止める。
 乙女ゲームのヒロインが、マリウス王子と並んでいたからだ。

(これは、どういうこと?)

「ミカエラ様は、マリウス王子を裏切った婚約者にそっくりなのですよ。ピンク色の髪、異世界よりやってきたと言う証言。そして男と浮き名を流し、やがて身籠るという設定」
「嘘でしょ……何で乙女ゲームのヒロインが、アランツ王国に?」
「我が一族もずっと聖女を信仰してきていたから、最初は喜びました。一度は裏切られましたが、マリウス様は初恋の人ルイーゼ嬢が真の聖女だと知り、歓喜したでしょう」

「伝説によれば、聖女は本来一人だけのはずだわ」
「ですから、元からミカエラさんは聖女では無かったと考えられては? アランツ王国に現れたミエナが聖女として転移したが、真の聖女はルイーゼ嬢だったと。あとは、ミカエラさんが普通の女の子に戻ってくだされば、問題解決です」

 にっこりと微笑む外交官だが、その笑みはミカエラにとっては最後通告のように感じられて絶望するしか無かった。
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