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正編
01 追放
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見目麗しい銀髪の少女ティアラは、精霊国家認定の聖女として七年間もの間、国民のために魔力を捧げ尽くした。だが、その役目も今日で終わる……ティアラは十七歳にして体内に内包されていた魔力が途絶えたのだ。
(魔法が全く使えない、もう限界なのかしら?)
様子見の期間が3日ほどあったが、その間もティアラの魔力が戻ることはなかった。無用な存在のティアラは儀式場から退室させられて、聖女管理室へと連れて行かれた。
「残念ながらティアラ様は、今日より聖女とは言えない存在となってしまいました。今日の夕刻までには、この王宮から……そして聖女施設からも、出て行ってもらうことになります」
長年聖女達の面倒を見てきた王宮直属メイドが、淡々とティアラの追放決定を告げる。
「私は十歳の時から七年間、ずっとこの王宮で暮らして来ました。突然、外へ放り出されて、どのようにして生きていけば良いのでしょう?」
ティアラの反論に、メイドは静かに首を横に振り、今後の生き方を指南する。
「十年間、国に貢献した分の報酬が口座に支払われます。毎月、なんとか生きていける程度には。あなたは、次に受け入れてくれる国を探して、旅にてなくてはいけません」
「旅……外の世界なんか、ほとんど見たことがないのに。あの祈りの儀式場が、私の居場所だったのに」
王宮の一室である『祈りの儀式場』では、何人もの聖女達が一心に祈りを捧げており、数日前まではティアラもその1人だった。
「可哀想ですが、これがあなたの宿命です。この時期は、夜になると風が強くなります。早く荷物をまとめて、出立した方が良いでしょう」
* * *
幻獣や精霊との契約により魔導を司る大陸には、七つの国が存在する。中でも、『精霊国家フェルト』は聖女達を集め、魔力を捧げさせることで棒大な魔導機械を動かしていた。
その魔導の影響力は絶大で、列車や自動車、家庭から商業施設などの灯り、料理器具に至るまで、すべて聖女の魔力が頼りだ。
この精霊国家は、誰かの魔法力に依存無くしては存続出来ない状況で、貴重なエネルギー源となる少女達を『聖女』と呼んでいた。
トップクラスの聖女ともなれば、王太子のお妃候補としてその名が挙がるようになり、本来ならばティアラがお妃となるはずだった。突然、空から舞い降りてきた伝説の少女が現れるまでは、王太子の心はティアラのものだった。
「ティアラ、僕の妃となる聖女はティアラと心に決めている。一生、そばにいてくれるね」
「はい、マゼランス王太子」
――しかし、それはもう過去の話。彼女が……クロエと名乗る黒髪の少女が、空から降りてきて。王太子は、すっかり彼女に夢中になった。
「ふあぁっ! よく寝たっ。あらっ? アタシったら、どうしてこんな大きなお城にいるのかしら?」
「おぉっ! まさか、御伽噺と言われていた伝説の聖女が、実在したとはっ。しかも、こんなに美しく可愛らしいなんて、彼女こそが妃となるに相応しいっ」
聖女としても花嫁候補としても、用済みであることを天が察したのか。まるでクロエに魔力を吸収されるように、ティアラは魔力を失った。
「さようなら、ティアラ」
「ふふっ。バイバイ、偽物の聖女さんっ」
王宮のテラスでは、クロエを肩に抱きながら、かつての婚約者候補を見送るマゼランス王太子の姿。
こうしてティアラは、祖国から追放されたのである。
(魔法が全く使えない、もう限界なのかしら?)
様子見の期間が3日ほどあったが、その間もティアラの魔力が戻ることはなかった。無用な存在のティアラは儀式場から退室させられて、聖女管理室へと連れて行かれた。
「残念ながらティアラ様は、今日より聖女とは言えない存在となってしまいました。今日の夕刻までには、この王宮から……そして聖女施設からも、出て行ってもらうことになります」
長年聖女達の面倒を見てきた王宮直属メイドが、淡々とティアラの追放決定を告げる。
「私は十歳の時から七年間、ずっとこの王宮で暮らして来ました。突然、外へ放り出されて、どのようにして生きていけば良いのでしょう?」
ティアラの反論に、メイドは静かに首を横に振り、今後の生き方を指南する。
「十年間、国に貢献した分の報酬が口座に支払われます。毎月、なんとか生きていける程度には。あなたは、次に受け入れてくれる国を探して、旅にてなくてはいけません」
「旅……外の世界なんか、ほとんど見たことがないのに。あの祈りの儀式場が、私の居場所だったのに」
王宮の一室である『祈りの儀式場』では、何人もの聖女達が一心に祈りを捧げており、数日前まではティアラもその1人だった。
「可哀想ですが、これがあなたの宿命です。この時期は、夜になると風が強くなります。早く荷物をまとめて、出立した方が良いでしょう」
* * *
幻獣や精霊との契約により魔導を司る大陸には、七つの国が存在する。中でも、『精霊国家フェルト』は聖女達を集め、魔力を捧げさせることで棒大な魔導機械を動かしていた。
その魔導の影響力は絶大で、列車や自動車、家庭から商業施設などの灯り、料理器具に至るまで、すべて聖女の魔力が頼りだ。
この精霊国家は、誰かの魔法力に依存無くしては存続出来ない状況で、貴重なエネルギー源となる少女達を『聖女』と呼んでいた。
トップクラスの聖女ともなれば、王太子のお妃候補としてその名が挙がるようになり、本来ならばティアラがお妃となるはずだった。突然、空から舞い降りてきた伝説の少女が現れるまでは、王太子の心はティアラのものだった。
「ティアラ、僕の妃となる聖女はティアラと心に決めている。一生、そばにいてくれるね」
「はい、マゼランス王太子」
――しかし、それはもう過去の話。彼女が……クロエと名乗る黒髪の少女が、空から降りてきて。王太子は、すっかり彼女に夢中になった。
「ふあぁっ! よく寝たっ。あらっ? アタシったら、どうしてこんな大きなお城にいるのかしら?」
「おぉっ! まさか、御伽噺と言われていた伝説の聖女が、実在したとはっ。しかも、こんなに美しく可愛らしいなんて、彼女こそが妃となるに相応しいっ」
聖女としても花嫁候補としても、用済みであることを天が察したのか。まるでクロエに魔力を吸収されるように、ティアラは魔力を失った。
「さようなら、ティアラ」
「ふふっ。バイバイ、偽物の聖女さんっ」
王宮のテラスでは、クロエを肩に抱きながら、かつての婚約者候補を見送るマゼランス王太子の姿。
こうしてティアラは、祖国から追放されたのである。
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