追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃

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旅行記2 婚約者の家族と一緒に

08 祝いに駆けつける兄

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 ティアラは与えられたばかりの自室でブランチの海老とトマトのパスタとサラダを頂いたのち、シャワーを浴びて夜の歓迎会に向けて身支度を始めた。ラベンダーの香りが心地よいシャンプーとリンスのセットはティアラの銀髪にマッチしていて、ボディソープは絹のような肌を磨き上げてくれた。

 鏡台の前に座りボタニカルの化粧水と乳液で素肌を整えて、ドライヤーで髪を乾かしながらメイクのプランを練っていく。

(今夜のオススメワンピースは淡い水色だから、アイシャドウやリップも水色に似合うカラーにしよう)

 現役聖女時代から愛用しているメイクセットをポーチから取り出して、化粧下地、ファンデーション、白粉と肌作りから丁寧に行う。
 アイシャドウはナチュラルにベージュ系でグラデーション、二重部分には影を加えてわざとらしくない程度に涙袋を仕込む。ビューラーでバッチリ上げた睫毛には、漆黒のマスカラで目をハッキリと。
 リップとチークは、肌馴染みの良いピンクベージュで清楚に。形よくリップラインを描いたら、口紅とグロスをほんのりと馴染ませる。

 化粧の類はメイドに全てお任せという聖女もいたが、ティアラは自分でメイクをするのが好きだった。魔法を使わなくとも女性を外見だけでなく、内面まで素敵に変えてくれるのだから。

(後は髪を整えて、身嗜み程度にネイルも塗り直したほうがいいわよね)

 ハーフアップに結い上げた髪に、花飾りのついたヘアバンドで仕上げる。一通りの準備を整えて時計を確認すると、まだ夕食前の十六時台だ。
 今日からここで暮らすため、ティアラはこの屋敷の全体図を把握しているわけではないが、少しだけ散歩をしたくなった。

「ポメ。まだ時間があるし、ちょっとだけお屋敷の中を歩いてみようか?」
「くいんっ」

 退屈していたのか、ポメはすぐさまティアラにちょこちょことくっついてきて、散歩をおねだりするような態度。とはいえ、これから食事会を控えているため汚れる可能性がある庭に出る事は出来ないが、離れから屋敷に続く廊下や中庭前のテラスで休む分にはいいだろう。
 ティアラはそう考えて、さっそくポメを連れて自室から出て散策を始めた。見回り中の爺やから、この屋敷の住み心地を問われる。

「ティアラ様、食事会の準備が出来たようですな。流石は元・聖女様、手際良く支度を整えられて素晴らしい。ところで、如何ですか。離れの住み心地は?」
「掃除が行き届いていて綺麗だし、食事も美味しいわ……海老がプリプリしていて、流石は内海の街よね。窓から見える海の景色も素敵よ」

 お世辞抜きでハルトリア邸の食事はとても美味しく、王宮の食事に勝るとも劣らないものだった。海が近い土地だけあって、昼に食べた海老とトマトのパスタに関しては、フェルトの王宮のものより素材の新鮮さで上だろう。

「お気に召されたようで、何よりでございます。特に魚介類は我が大公国ハルトリアの自慢ですので……おや、丁度良いタイミングでバジーリオ様が到着されたようですな」
「バジーリオ様……というと?」

 まだハルトリア公爵家の周辺人物について、把握しきっていないティアラの質問に爺やがにこやかに説明をし始めた。

「バジーリオ様はハルトリア家の長男でいらっしゃって、ジル様とは歳も近く共に領地を治める仲。ティアラ様にとってはお義兄様となるお方です……レディのことが好きすぎるのが玉に瑕ですが、いや良い人ですよ。今のうちに、ご挨拶されては如何でしょう?」

 離れの窓から見える黒塗りの車から現れたダークブラウンヘアの長身紳士は、立ち振る舞いから仕草まで洗礼されていて流石は貴族といった雰囲気。

 けれど、窓の向こうから見つめていたティアラの存在に気づくなり、挨拶と言わんばかりの投げキスを送る。

 ジルと似て非なる長兄バジーリオが、夕暮れとともに弟の婚約祝いへと駆けつけたのであった。
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