千夜の一夜な境界ランプ

星井ゆの花(星里有乃)

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第7夜 自己紹介の途中で

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「ゴホン! 気を取り直して4番目のランプの持ち主……自己紹介をどうぞ!」
精霊王ガイアスがバンドマン風の男を見て促す。 誰も玉座に座る気がないのでは? と指摘したあの人だ。

バンドマン風の男……髪は赤茶色に染めていてサラサラロングヘア、金色の目はカラコンなのか? 手にはゴツいデザインされた指輪がたくさん嵌められている。 いわゆるビジュアル系の耽美な容姿で黒の革のジャケットを羽織り、いかにもギターかボーカルかというような風貌である。

「オレの名前はデュアル……本名も魔導名も秘密だがステージネームだけは公表している。 本業はギタリストでバンドが解散してバックバンドがメイン。 本当はさ、自分のバンドの曲を弾きたいと思うけど……方向性の違いで解散しちまって。 魔法のランプはファンからのプレゼントに入っていたもので、他のメンバーがインテリアに飾ってたんだけど呪われて事故にあってさ……霊感が強いオレのもとに流れてきたって感じかな?  願い事はロック王になることだけど、これは自力でやりたいことだし……まあ今回の競争で1位になって新曲のいいヒントになればと思ってる。 よろしくな!」

またもやまばらに拍手が起こるも、彼が1番玉座と関係ないのでは?  というような目でみんなみている。

もう呆れているのか、金髪メガネのインテリ風の男が自分から立って自己紹介し始めた。 ユミル少年に悪い魔導師に騙されたんじゃないのか、と言っていた人だ。 男は高そうなスーツルックで、金髪を整髪料で整えデコを出している。 青い目で顔はいかにもな美形……スーツでごまかしているのか思ったより線が細身のようで女性と間違えてしまいそうな風貌だ。 中性的な美形である彼は自分の容姿に自信があるのか、メガネをカチャカチャいじりドヤ顔で語り始めた。

「次はボクの番だな。 5番目のランプの持ち主……名前はランディ、これが本名かどうかはキミたちの推測に任せるよ。 家柄は貴族でそこにいる金髪の女の子シャルロットとは縁戚関係に当たる……職業は法科大学院生でもうすぐ弁護士になる予定。 ここ数年は魔導書より法律書を読む時間が長くてね。 夢は法律で世界を救う手助けをすること、弱者を守り不正を排除する……特に最近はインターネットのトラブルが多いからね。 玉座にはボクも興味ないけど、ランプは家柄の関係で所有しなきゃいけないんだ。 よろしく」

この人シャルロットの身内なのか……。
まばらに拍手が……もしかしたら魔法のランプは玉座に興味のない人の手に渡っているだけなのでは?  かつて裏切り者が出た、いわくつきのランプだしな。

「次は私の番ですわね。 私の名前はシャルロット……14歳。 魔導師貴族の家系でランディさんとは従兄妹です。 夢は……魔導王の玉座に座ること……と言いたいところですが私、本当の願いは魔法ペット専門のトリマーになって使い魔の犬や猫、ドラゴンを幸せにしたい……というものなのですの私の使い魔も血統書付きの貴重な魔法猫ですのよ。 ランプは家で引き継いだものですわ。 よろしくお願いいたします」

拍手が……シャルロットまで玉座に興味なしか……この子、最初から猫の話しかしてないもんな。

次は6番目に製作されたランプの持ち主……1人他のメンバーとは異なるオーラを放っていた。男が、すっと立った。 口にヒゲを蓄え、ターバンを巻き、おとぎ話の悪役魔導師そのものの外見をしている。 人相は悪いながらも顔立ちは整っており、魔法使い映画に悪役俳優としてそのまま出演できそうだ。 こういうことを言うと彼に申し訳ないが夢の中の裏切り者にそっくりである。

「……みなさん、初めまして。アブラカタブル17世です。6番目のランプの持ち主です。 みなさんお察しかと思いますが、大昔……境界ランプの持ち主の中に裏切り者が出ました。 それは私の先祖です」

ザワ!
メンバーが一瞬動揺した。 彼はどうしいてこの場にいるんだ?

「私たち一族はそのことを忘れないために、今でもこうして当時の悪い魔導師の外見そのもので生活しています……罪を忘れないために……魔導界に貢献すべく頑張ります。 今度は裏切りません! よろしくお願いいたします!」

ガタン!
「つまりこの会合は昔の因縁のある家の奴らを寄せ集めて仲直りごっこさせようって考えなんだろ? 最初から玉座なんかオレたち人間に渡す気ねーんだよ? くだらない!オレはもう帰るぜ!」
そう言って7番目の席に座っていた。長身のチャイナ服を着た男性が席を立って去って行った。無言で他にも2人ほど帰ってしまった。

「うーむ最近の若い人は短気でいけませんなあ」
「すみません……私が余計なことを言ったせいで……」

「いや、確かにこのメンバーは先祖に因縁のある人たちばかりです……気づいていない方もいるようですが無関係に見えても何らかの形で昔のランプの持ち主と血のつながりがあります。……初代ランプの継承者響木千夜(ひびきせんや)君以外はね……かつての初代の持ち主には子孫が1人もいないんですよ。さて、自己紹介の続きをして下さい」

「7番目、8番目、9番目の3人が帰ってしまったので私達が自己紹介します。 10番目のランプの持ち主の朱那(しゅな)、11番目のランプの持ち主の白亜(はくあ)です。 私達は双子の魔導師で宮殿の隣町ラピス市場で踊り子をしています。 夢は2人で最高のステージをたくさんの人に見てもらう事です! よろしくお願いします!」

双子美少女踊り子姉妹は2人で会釈する。 仕草といい、声といい、どちらがどちらだか見分けがつかない。
みんな気を取り直したのかパチパチ拍手が起こるが、この美人踊り子姉妹も玉座に興味なし……1人くらいは玉座を目指す人はいるのだろうか?

すると、1人だけマスクで頭から顔を覆い隠していた男が素顔を見せて立ち上がった。浅黒い肌、ツヤのある黒髪、端正な顔立ち、気品のある王冠、この人は……?

「12番目のランプの持ち主、境界を守る国の王……ハザードだ。もちろん国王なので玉座は私のもののつもりでいたんだが、一応形式上競争するようだね。よろしく頼むよ」

形式上……か。 随分な自信の持ち主だ。 
だが何処となく彼の台詞は芝居がかっている気がする。 何故だろう?
境界を守る国の王……この人が本来玉座に座る予定だったのか? でも夢の中では玉座にこの人は座っていなかった気がする。
そして、誰が玉座に相応しいのかと考えると……そんなつもりはないのに、まるで自分が相応しいかのような映像が一瞬浮かんでしまい、オレは自身のランプから流れてくる不思議な魔力を感じざる得なかった。

結局、3人は戻ってくることなく、オレたちは無難な会話をしながら運ばれてきた各国の料理を堪能し、特別室での顔合わせの晩餐は終了した。
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